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第2章【月曜の荒野《夜朧》】

荒野の夜風に抱かれて

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 温泉から上がって一息ついたが、よく考えると天然の温泉に入ったのはいったいいつ以来だっただっただろうな……直で上質な源泉が湧き出している本格的なモノはそう滅多に入れるものじゃないから今の私はとても幸せを感じている。
 脳を溶かすような心地のいいまどろみがブーストしていればなおさら眠気が激しいってもの、これ以上の幸せがあるかって話さ。
 そんな幸せを噛み締めたくて今すぐにでも寝落ちしたいのが本能としては正解だのだが、七刻が大繁盛するためには私はやらなくちゃいけないことがあってもう少し寝れそうにない。

 さて、さっそくメタメタしい話だがきっとこの開拓の様子を収めた映像が無意味に後世に伝わらず消え去ろうとも私はこれを製作するのを止めない……と言うかやめたらこの先進まないからダメなんだけどな。
 まぁこれも万が一の保険ってヤツ、後から誰かに見られると小恥ずかしい気もするが数十……あるいは数百年後にこれが貴重な資料になると信じてね。
 しまいにはノベル化、映画化なんてしてくれたら七刻も聖地として広まったなら万々歳じゃないかな。

 だが知ってるか?
 大抵こういうのは不発して黒歴史となってあとで恥ずかしさからか死にそうな思いを確実にするって一番言われてる。
 でもこれは残していい黒歴史……もとい白歴史なのさ。

「冥綾様はやっぱり真面目ですね、毎日毎日記録を製作してて……私も見習わなくてはいけません。」

 聖奈が私を見習う?
 こりゃまた大層な言われようだけど私が逆に見習いたいよ……だってこんな崩壊ギリギリの集落を見捨てず今まで頑張ってきたんだから。
 私だったらとっくに匙放り投げて夜逃げの1つでもしたくなるかもしれないから、メンタルでは聖奈が圧倒的に強い。
 心に芯の入った真っ直ぐな女性は嫌いじゃないが、私も女だからなぁ……これで男だったらゾッコンできる。

「まぁ私は好きでこんな記録を作ってるんだ、真面目って訳じゃない。 ……それになんでかな、普段はどうでも良いのはずなのに皆を放っておけなかったんだよ。」

「ふふっ、好きこそもの上手なれ……と言うわけではありませんが、なにかを好きになるというのは素晴らしいことですよね。」

 好きでこんな記録を書いてるのかと言えば正直若干嘘になりがちだが聖奈のこんな笑顔を崩せるわけないじゃないか。
 ことわざにはことわざで対抗するが、嘘も方便……世間を乗りきるためには多少の嘘はつかせてもらうぞ?



 けど思い出せ……陽光に港が完成したとき私は何を思えた?
 レンガを運んでいるとき自然と笑っていたのはどうしてなんだ?


 あの輝く太陽に写し出された水面に映る港を見て心踊ったじゃないか。

 ふふっ、私もこんな記録を事あるごとに作るのはあまり好きじゃないが……あんな風にいろんな場所が発展してどんどん賑やかになっていくのが本当は心の底から好きでたまらなかったんじゃないのか?
 めんどくさがりでも、何かを見届けるというのが……な。

 私とて七刻の女神の一柱なのだ、この島の発展が嬉しくないはずもないんだよ。
 けど素直になれないのは自身も良くわかってる。
 って……おかしいな、なんか目頭が熱くて。

「め、冥綾様?」

 おっと、感情的になりすぎて涙が出そ……いや、出てるのか。
 聖奈め、察してくれるな……私はただパソコンの光の刺激が強すぎて涙が出ているだけにすぎないのだからな、ふ……ふはは。

 涙をこれ以上出さないようにと気晴らしに私は玄弥の端末にメールを送る。
 今日は聖奈のボロい小屋に1泊するのだから心配は要らないんだと言うことを……というか返信速いな。
 もちろんオッケー出してくれて助かる。

「……常にパソコンを見ると眼が乾く、目薬が効くなぁ。」

 あからさまな棒読みで目薬を差しては聖奈を見つめる、どうだこれで涙だか目薬だかわからないだろう?
 私ももう何がしたいのかさっぱりわからないけど、誰かと一緒に少しだけ夜更かしに突入するのが楽しいって聖奈の心が伝わってくる。

 頭カチカチで私より真面目で融通利かない聖奈言えどもやっぱり夜更かしするじゃないか!!
 ずっと独りで夜になったら早く寝るという生活しかしてこなかったのだから、こういう新しくて楽しい事で常識が上書きされていく気分はどうだい?
 これからは夜朧の皆も夜は少しは笑いが聞こえてくる城下町になってくれると私は願っているよ。

 さてと本気で眼がショボショボしてきたから私は聖奈の寝所で寝かせてもらうとするか。
 せっかくオッケー貰えたんだもの……っと、寝床はこれか?
 干した藁を敷き詰めて作った簡素なマットレスに布団は普通にあるんだな、どっかで取り寄せて買ったヤツかな?
 とりあえず聖奈も一緒の布団で寝るんだよ、恥ずかしがるな……私という存在そのものだろう?
 お互いな。

 それではおやすみなさい。
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