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7.草葉の陰から
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お二人に見送られて、本来の目的地に向かっていた。
姉の足取りが途絶えたとされる場所へ。
そこは、魔族が支配する土地となる領域となるはずなのだけど……
「この先がもう魔の森になるんだ……」
禍々しい森を想像していたのに、そこは緑が映える、心落ち着く場所だった。
サワサワと木々の揺れる音が心地良い。
場所を間違えたのかとも思ってしまうけど、この先は確かに魔族が住む森だ。
どこまで行くべきか。
あまり奥深くに入って魔族に遭遇しては、戦闘能力の低い私では対処できない。
走って引き返せる距離ほどで様子を見てみて、あとはここの冒険者ギルド近くで話を聞いてみるしかない。
そう決めて、森の中に足を踏みいれようとしていたら、
「お前、そこで何をしている!」
そんな怒声と共に、兵士に囲まれていた。
「お前、獣人か?」
「おい、この前の奴らの残党じゃないのか?」
「捕まえろ!」
何、いきなり!?
いくら私が獣人と言えど、ここまで問答無用に拘束されそうになるのは、明らかに異常だった。
四方を囲まれて、逃げることもできずに立ち尽くし、これからどんな目に遭うのかと恐怖した。
考えが甘かった。
ただ獣人というだけで、まともな扱いはされないことは、よく知っていたはずだったのに。
男性達に睨みつけられ、緊張を強いられ、恐怖がさらに増した。
緊迫した空気の中、
「待て待て待て待て!」
そんな声がしたかと思うと、私の視界を大きな背中が塞いでいた。
その見上げるような、私達の間に割って入ってきたその人は、ベレトさんだった。
「この子は、数日前にうちの妹が捕まえた連中とは無関係だ。むしろ、協力者なんだ」
「ウィーナー伯爵家のっ………」
ベレトさんの顔を見た兵士達は、すぐに武器を下げていた。
「では、身元の保証はお任せしてよろしいでしょうか?」
「ああ、手間をかけたな。お勤めご苦労さん」
ベレトさんが登場しただけで、呆気なく兵士達は引いていく。
彼らに手を振って見送り、そして私に向き直ったベレトさんは、
「大丈夫か?」
心配そうに手を差し出してくれていた。
その温かい声に、緊張が緩んで腰が抜けそうになる。
「悪いな。先日、獣人の傭兵がらみでちょっとした騒動があって、魔の森近くはピリピリしてるんだ」
「あ、いえ、あの、ありがとうございます……でも、どうして……」
動揺が治らずに、何とか声を捻り出していた。
「ちょっと、やっぱり気になって、少しだけ様子を見守るつもりでいたんだが、こんな事に、いや、むしろうちの領地の問題に巻き込んですまなかった」
うちの領地って、
「伯爵家って、貴族の方だったのですか?」
「ああ、まぁ……」
さっき滞在した場所は、確かに大きな御屋敷だったけど……
「すみません、私、教養がないので、失礼なことをしてしまっていたら……」
慌てて、頭を下げる。
でも、さらに慌てたのはベレトさんの方だった。
「あああ、俺相手にそんなことを気にしないでくれ!俺なんか、学校にも行ってないニートなんだから!」
にーと?とは聞き慣れない言葉だったけど、顔を上げると困り顔のベレトさんの顔を捉えることができた。
「迷惑かけたお詫びに、ライラの人探しを手伝うから、思う存分俺をこき使ってくれ!」
何だかこじ付けのような申し出だったけど、助けてもらった以上、断るのも逆に失礼かと思って、
「ベレトさんのお力を借りたいと思います。よろしくお願いします」
そう、答えていた。
姉の足取りが途絶えたとされる場所へ。
そこは、魔族が支配する土地となる領域となるはずなのだけど……
「この先がもう魔の森になるんだ……」
禍々しい森を想像していたのに、そこは緑が映える、心落ち着く場所だった。
サワサワと木々の揺れる音が心地良い。
場所を間違えたのかとも思ってしまうけど、この先は確かに魔族が住む森だ。
どこまで行くべきか。
あまり奥深くに入って魔族に遭遇しては、戦闘能力の低い私では対処できない。
走って引き返せる距離ほどで様子を見てみて、あとはここの冒険者ギルド近くで話を聞いてみるしかない。
そう決めて、森の中に足を踏みいれようとしていたら、
「お前、そこで何をしている!」
そんな怒声と共に、兵士に囲まれていた。
「お前、獣人か?」
「おい、この前の奴らの残党じゃないのか?」
「捕まえろ!」
何、いきなり!?
いくら私が獣人と言えど、ここまで問答無用に拘束されそうになるのは、明らかに異常だった。
四方を囲まれて、逃げることもできずに立ち尽くし、これからどんな目に遭うのかと恐怖した。
考えが甘かった。
ただ獣人というだけで、まともな扱いはされないことは、よく知っていたはずだったのに。
男性達に睨みつけられ、緊張を強いられ、恐怖がさらに増した。
緊迫した空気の中、
「待て待て待て待て!」
そんな声がしたかと思うと、私の視界を大きな背中が塞いでいた。
その見上げるような、私達の間に割って入ってきたその人は、ベレトさんだった。
「この子は、数日前にうちの妹が捕まえた連中とは無関係だ。むしろ、協力者なんだ」
「ウィーナー伯爵家のっ………」
ベレトさんの顔を見た兵士達は、すぐに武器を下げていた。
「では、身元の保証はお任せしてよろしいでしょうか?」
「ああ、手間をかけたな。お勤めご苦労さん」
ベレトさんが登場しただけで、呆気なく兵士達は引いていく。
彼らに手を振って見送り、そして私に向き直ったベレトさんは、
「大丈夫か?」
心配そうに手を差し出してくれていた。
その温かい声に、緊張が緩んで腰が抜けそうになる。
「悪いな。先日、獣人の傭兵がらみでちょっとした騒動があって、魔の森近くはピリピリしてるんだ」
「あ、いえ、あの、ありがとうございます……でも、どうして……」
動揺が治らずに、何とか声を捻り出していた。
「ちょっと、やっぱり気になって、少しだけ様子を見守るつもりでいたんだが、こんな事に、いや、むしろうちの領地の問題に巻き込んですまなかった」
うちの領地って、
「伯爵家って、貴族の方だったのですか?」
「ああ、まぁ……」
さっき滞在した場所は、確かに大きな御屋敷だったけど……
「すみません、私、教養がないので、失礼なことをしてしまっていたら……」
慌てて、頭を下げる。
でも、さらに慌てたのはベレトさんの方だった。
「あああ、俺相手にそんなことを気にしないでくれ!俺なんか、学校にも行ってないニートなんだから!」
にーと?とは聞き慣れない言葉だったけど、顔を上げると困り顔のベレトさんの顔を捉えることができた。
「迷惑かけたお詫びに、ライラの人探しを手伝うから、思う存分俺をこき使ってくれ!」
何だかこじ付けのような申し出だったけど、助けてもらった以上、断るのも逆に失礼かと思って、
「ベレトさんのお力を借りたいと思います。よろしくお願いします」
そう、答えていた。
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