魔王の息子に転生したけどアイドルを愛でたくて妹に全部押し付けてみたのだが……【R18】

6.アタナシアさんの心配

「お待たせー、ライラ」

　食事の席に案内されると、目の前には何だか見たことがないものが出されていた。

　見た目は全体的に茶色くて、ご飯の上に、茶色のサクッとしたよくわからない物体がのっている。

　それが細長く切られていて……

　クンクンと嗅ぐ匂いはとてもいい。

　今まで嗅いだことのないようなもので、それでいて、空腹のお腹をとても刺激するものだった。

「これは、カツ丼だ」

　ベレトさんが、豚肉を油で調理したものだと教えてくれた。

「かつどん、ですか」

「美味しいよ。どうぞ、召し上がってください」

　アタナシアさんは、ニコニコしながら見ている。

「では、お言葉に甘えて、いただきます」

　フォークで、サクッとするものをぷすりと刺して、口に運ぶ。

　口に入れて咀嚼した時の、その時の衝撃をなんて表現していいか分からなかった。

「美味しい……とっても美味しいです！」

　思わずベレトさんを見上げて、叫んでいた。

　ベレトさんは、満足気な様子で私を見て、何度もウンウンと頷いている。

　それから、お行儀が悪くない程度に、一心不乱に“かつどん”をお腹に入れていった。

　食べ終えて、ふーっと息を吐く。

　美味しかった。本当に、美味しかった。

「ありがとうございました。ご馳走様でした」

　お二人に向けて、ペコリと頭を下げる。

　顔を上げたところで、

「あの、余計なお世話かもしれないけど、獣人の女の子が一人で旅をしているの？」

　アタナシアさんは、聞きにくそうに尋ねてこられて、それはどうやら私のことを心配してくれているようだった。

「大丈夫？えっと……獣人には風当たりがキツイから……」

「そうなのか？」

　ベレトさんの方は、獣人に接する機会がなさすぎたから、忌避する感情が薄いようだった。

「まぁ、こんなに可愛いと一人旅も大変だよな」

　可愛くはない。決して可愛くはない獣だけど、お二人は優しい兄妹で、偏見なく会ったばかりの私の心配をしてくれているのは、有り難いことだ。

「人探しをしているので、この辺で話を聞いたらすぐに国に帰りますので、心配は不要ですよ。ありがとうございます」

「人を探しているの？お兄ちゃん、手伝ってあげたら？お兄ちゃん、見た目はこんなだけどヘタレだから、女の子に邪なことをしたりしないよ。だから安心して！どうせ暇人だから、存分につかってよ」

「いえ、ベレトさんが何となく信用できる方なのは分かりますが、そんなご迷惑をおかけできません。大丈夫です。ここまでも、どうにかなったので。それでは、失礼します」

　ベレトさんが何かを言う前に、頭を下げてお礼を伝えて、荷物を掴んで立ち上がる。

　それ以上は強く引き止められるわけでもなく、気をつけてと送り出してもらっていた。