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浮気?
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雀の鳴く声と、そよそよと揺らぐ木々。
ベッドサイドモニタの音に悪徳クレーマーの怒号。ものが割れる音に子供が泣き叫ぶ声。
昨日、緊急手術に呼ばれ今日に至るまで数十分程しか睡眠が取れてないこの状況での周りの音は全てにおいで騒音でしか無かった。
この状況下で唯一の救いは片手に持ったカフェイン多めのエナジードリンク。
今日は二本くらい飲めそうだ。
「今日は当直もないし、昨日よりは眠れるか…」
しかし明日は早番、どっちにしろ眠れるのは3、4時間程。シフト管理について物申したいくらいだ。
疲れすぎていて文句すら出てこない。
それが目的のシフトなのかもしれない。
実際ここの従業員は疲れからなのか文句を言う元気すらない。
皆無理に笑顔を作ってる感じだ。
「せっ、先生!大変です!!!!!先生の奥さんと娘さんが!!!!!」
嫌な予感がした。
多分それは当たっている。
百パーセントだ。
重い石のような足を動かし走っていくと般若のような顔をした妻と、害虫でも見るような視線を父親に向ける娘。
「急にどうした。何か…」
パシン
何かあったのかと最後まで言う前に大きく振りかぶって叩かれたビンタが遮った。
予想以上に強かったのか少し口の中に血が広がった。
鉄の匂いが口に広がる中妻咲子が怒鳴り始めた。
「ついに本性現したわね!このくそ浮気男!家族旅行ほっぽって別の女と寝てたなんて!最低!」
身に覚えのないことを言われわけも分からず固まってしまう。
それを咲子が肯定と取ったのか、今度はグーで右頬を殴った。
衝撃で倒れ込むと次は娘の咲良が近づいてきた。
「お前さ、どんだけお母さん悲しませたら気が済むわけ?医者かなんか知らないけど偉そうに、うざいんだけど。浮気までして本当クソ野郎だなあんた。」
まさか娘にお前呼ばわりされるとは思わなかった。
反論の時を与えないくらいズバズバと怒鳴る妻と娘。
取り敢えず何か言わねば始まらない。
「ちょっと待ってくれ。浮気?してるわけないだろ。」
家族旅行の途中って、緊急手術で呼ばれて病院に行くと伝えたはずだが。
確かにあの時空返事で聞いてなかったのかもしれない。
だが何故浮気だと言い張るのだろうか。
「嘘つくんじゃないわよ。ここに証拠だってあるんだから」
そう言って見せてきたひとつの写真。
その中には自分と顔も名前も知らない女性が腕を組んでラブホテルから出てきているところが映っていた。
しかし男の方の顔は不自然にぼけていて画質も悪かった。
しかもこのスーツどっかで見たことあるような。
合成か?
すると妻の影からスっとスーツを着た男性が現れた。
「申し遅れました。弁護士の榊と申します。今回梶原咲子様の担当をさせて頂くこととなりました。話し合いをしたいので少し来て頂いてもよろしいですか?」
このまま進んでしまえば裁判をして多額の慰謝料を請求される。どんな手を使ってまでも勝とうとするだろう。
無実でそんな罪被せられるなんてゴメンだ。
それにこんなことされて目が覚めた。
もうこいつらは家族じゃない。
そう思うと冷静さを取り戻すことが出来た。
「話し合いなんて必要ないと思うけど。というかさ、俺昨日は病院にいたんだよ、緊急手術で呼び出しくらって。咲子にも言ったよな?」
そんなの知らないと少し焦った声で反論をする咲子。これは絶対に覚えてるな。
「それに、弁護士さん、貴方弁護士バッチ着いてないけど本当に弁護士さん?本当の弁護士さんじゃなかったら違法だけど大丈夫?」
弁護士さんの口から小さく「えっ」と聞こえ、冷や汗をかき始めていた。これは黒。
ついでに身に覚えのあるスーツも思い出した。
少し大きな声を出し廊下の角に隠れている人に声をかけた。
「確かこのスーツ、院長のでしたよね?あ、それにこの女性の腕につけてるやつ。俺が咲子の誕生日にあげたやつ。」
まさかとは思うが。
信じたくないがきっとそうなんだろう。
だがそれを知った咲良どうするのだろうか。
「この写真、加工してますよね?業者に頼んで直してもらいましょうよ。ねぇ?咲子、院長」
その言葉に院長と咲子は焦り出す。
咲子は必死に写真を奪い返そうとするも20センチもある身長差には勝てない。
咲良は何が起こってるかわからないという顔をしている。
恐らく咲子に嘘を教えられ、騙され、俺が浮気している証拠をでっち上げ見せていたのだろう。
「どういうことか警察呼んで話し合いしませんか?それともここで白状しますか?」
さすがに警察沙汰にはしたくないのか咲子はへたりこんで泣き始めた。
ついでに自称弁護士は警察の単語が出てきた瞬間に血相を変えて出て行った。
「あなたが悪いんじゃない。ろくに家にも帰ってこないし、帰ってきてもまた仕事って行っちゃうし。寂しかったの、その時に院長先生が。」
原因は俺にもあった。
医者で休みがないとはいえ帰らなすぎた。
しかしこれでようやく分かった。
最近の激務は俺から咲子を強制的に引き離し浮気する時間を作っていた。
なんとも複雑な気分だ。
「離婚しよう。慰謝料は要らない。咲良の養育費は出す。余るくらいには渡すから渡してから一切関わってこないでくれ。」
咲子は声を出して泣き叫んでいる。
「院長、この原因を作ったのは俺のせいでもある。だから訴えはしない。次の手術が終わり次第この病院を辞めさせていただきます。」
長く続いた修羅場はこれで終わった。
咲良は途中からずっと絶望した顔でいた。
大好きな母親に嘘をつかれ騙され利用されていたことに気づいてどうすればいいのか分からないのであろう。
関係を治すも壊すも二人次第だ、もう俺には知ったこっちゃない。
取り敢えず今日は仕事だ。気まづくとも患者は知る由もないわけだからいつまでもこうしちゃいられない。
立ち竦む皆を見て会議室を後にした。
ベッドサイドモニタの音に悪徳クレーマーの怒号。ものが割れる音に子供が泣き叫ぶ声。
昨日、緊急手術に呼ばれ今日に至るまで数十分程しか睡眠が取れてないこの状況での周りの音は全てにおいで騒音でしか無かった。
この状況下で唯一の救いは片手に持ったカフェイン多めのエナジードリンク。
今日は二本くらい飲めそうだ。
「今日は当直もないし、昨日よりは眠れるか…」
しかし明日は早番、どっちにしろ眠れるのは3、4時間程。シフト管理について物申したいくらいだ。
疲れすぎていて文句すら出てこない。
それが目的のシフトなのかもしれない。
実際ここの従業員は疲れからなのか文句を言う元気すらない。
皆無理に笑顔を作ってる感じだ。
「せっ、先生!大変です!!!!!先生の奥さんと娘さんが!!!!!」
嫌な予感がした。
多分それは当たっている。
百パーセントだ。
重い石のような足を動かし走っていくと般若のような顔をした妻と、害虫でも見るような視線を父親に向ける娘。
「急にどうした。何か…」
パシン
何かあったのかと最後まで言う前に大きく振りかぶって叩かれたビンタが遮った。
予想以上に強かったのか少し口の中に血が広がった。
鉄の匂いが口に広がる中妻咲子が怒鳴り始めた。
「ついに本性現したわね!このくそ浮気男!家族旅行ほっぽって別の女と寝てたなんて!最低!」
身に覚えのないことを言われわけも分からず固まってしまう。
それを咲子が肯定と取ったのか、今度はグーで右頬を殴った。
衝撃で倒れ込むと次は娘の咲良が近づいてきた。
「お前さ、どんだけお母さん悲しませたら気が済むわけ?医者かなんか知らないけど偉そうに、うざいんだけど。浮気までして本当クソ野郎だなあんた。」
まさか娘にお前呼ばわりされるとは思わなかった。
反論の時を与えないくらいズバズバと怒鳴る妻と娘。
取り敢えず何か言わねば始まらない。
「ちょっと待ってくれ。浮気?してるわけないだろ。」
家族旅行の途中って、緊急手術で呼ばれて病院に行くと伝えたはずだが。
確かにあの時空返事で聞いてなかったのかもしれない。
だが何故浮気だと言い張るのだろうか。
「嘘つくんじゃないわよ。ここに証拠だってあるんだから」
そう言って見せてきたひとつの写真。
その中には自分と顔も名前も知らない女性が腕を組んでラブホテルから出てきているところが映っていた。
しかし男の方の顔は不自然にぼけていて画質も悪かった。
しかもこのスーツどっかで見たことあるような。
合成か?
すると妻の影からスっとスーツを着た男性が現れた。
「申し遅れました。弁護士の榊と申します。今回梶原咲子様の担当をさせて頂くこととなりました。話し合いをしたいので少し来て頂いてもよろしいですか?」
このまま進んでしまえば裁判をして多額の慰謝料を請求される。どんな手を使ってまでも勝とうとするだろう。
無実でそんな罪被せられるなんてゴメンだ。
それにこんなことされて目が覚めた。
もうこいつらは家族じゃない。
そう思うと冷静さを取り戻すことが出来た。
「話し合いなんて必要ないと思うけど。というかさ、俺昨日は病院にいたんだよ、緊急手術で呼び出しくらって。咲子にも言ったよな?」
そんなの知らないと少し焦った声で反論をする咲子。これは絶対に覚えてるな。
「それに、弁護士さん、貴方弁護士バッチ着いてないけど本当に弁護士さん?本当の弁護士さんじゃなかったら違法だけど大丈夫?」
弁護士さんの口から小さく「えっ」と聞こえ、冷や汗をかき始めていた。これは黒。
ついでに身に覚えのあるスーツも思い出した。
少し大きな声を出し廊下の角に隠れている人に声をかけた。
「確かこのスーツ、院長のでしたよね?あ、それにこの女性の腕につけてるやつ。俺が咲子の誕生日にあげたやつ。」
まさかとは思うが。
信じたくないがきっとそうなんだろう。
だがそれを知った咲良どうするのだろうか。
「この写真、加工してますよね?業者に頼んで直してもらいましょうよ。ねぇ?咲子、院長」
その言葉に院長と咲子は焦り出す。
咲子は必死に写真を奪い返そうとするも20センチもある身長差には勝てない。
咲良は何が起こってるかわからないという顔をしている。
恐らく咲子に嘘を教えられ、騙され、俺が浮気している証拠をでっち上げ見せていたのだろう。
「どういうことか警察呼んで話し合いしませんか?それともここで白状しますか?」
さすがに警察沙汰にはしたくないのか咲子はへたりこんで泣き始めた。
ついでに自称弁護士は警察の単語が出てきた瞬間に血相を変えて出て行った。
「あなたが悪いんじゃない。ろくに家にも帰ってこないし、帰ってきてもまた仕事って行っちゃうし。寂しかったの、その時に院長先生が。」
原因は俺にもあった。
医者で休みがないとはいえ帰らなすぎた。
しかしこれでようやく分かった。
最近の激務は俺から咲子を強制的に引き離し浮気する時間を作っていた。
なんとも複雑な気分だ。
「離婚しよう。慰謝料は要らない。咲良の養育費は出す。余るくらいには渡すから渡してから一切関わってこないでくれ。」
咲子は声を出して泣き叫んでいる。
「院長、この原因を作ったのは俺のせいでもある。だから訴えはしない。次の手術が終わり次第この病院を辞めさせていただきます。」
長く続いた修羅場はこれで終わった。
咲良は途中からずっと絶望した顔でいた。
大好きな母親に嘘をつかれ騙され利用されていたことに気づいてどうすればいいのか分からないのであろう。
関係を治すも壊すも二人次第だ、もう俺には知ったこっちゃない。
取り敢えず今日は仕事だ。気まづくとも患者は知る由もないわけだからいつまでもこうしちゃいられない。
立ち竦む皆を見て会議室を後にした。
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