バツイチ男子(仮)

黒川春稀

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疑惑

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「梶原先生、手術お疲れ様です。」
黄色い太陽に背を向けながら声のする方へ耳を傾ける。
この声は研修医の…
「隅田くん?…ありがとう。あの手術は難しいから慣れてる人がいなくてね。夜中でも呼ばれることが多いんだよ。」
眠気を何とかして飛ばし座り直す。
目の前にはコーヒーを2つ両手に持ち心配そうな顔をしている研修医の隅田渉くん。
「やっぱり凄いですね、あんな難しい手術をあんなに早く…。憧れます」
キラキラとした笑顔を向けてくる彼は若さからなのか、そこまで疲れてないようだった。
「でも、平気なんですか?本当は昨日から家族揃って旅行だったんじゃ…」
そう、夜中呼び出されなければ今頃箱根の旅館の中で優雅に過ごしているはずだった。
温泉を楽しみ箱根を観光して、楽しい楽しい旅行になるはず。
妄想では。
「素っ気ない妻に俺の事を毛嫌いする娘。旅行に行っても俺の役目は財布を開くこと。まだ病院にいた方がマシだよ。」
家に帰ってもまるで赤の他人のように接する妻咲子。二言目にはあんたウザイと父親とも思っていないような娘咲良。
たまに行く旅行では、観光などは一緒に行くことはせず、ただただ財布が寂しくなるだけ。これだけ嫌われても離婚しないのはきっと自らの職業が"医者"だからだ。
「何かと理由つけて病院にいる理由はそれですか…でも梶原先生、少しは家に帰らないと病院内で浮気してるって噂が立ってますよ。」
そう言われても仕方がないくらいには家に帰ってないからしょうがない。
まだ妻と会話ができていた頃、とは言ってももう関係が崩壊する寸前。俺には浮気の疑いがかけられていた。
医者とはいえ家に帰ってこなさすぎると。
すごい量の仕事をこなし少しの時間でも家に帰ろうと努力はしていたが。
結婚する前もその覚悟はして欲しいと話したはずだがやはりダメだったようだ。
「まぁ、俺は天才だからな、仕事を任されるのも無理はないな。」
貰ったコーヒーを片手にドヤ顔でナルシスト的発言をすると彼は苦笑いをして小突いてきた。
「辞めてくださいそういうの、天才なのは認めますけど自分で言ってるとなんかムカつく」
悔しいという表情をこれでもかと言うほど表に出している。
寝不足のせいなのか、目の前が数分ごとにぐらつく。
空笑いが精一杯で立つのもやっとだ。
医者のくせに体調管理も出来ないとはと呆れてしまうくらい。
「先生、本当に大丈夫ですか?」
隅田くんが子供を扱うように双方のおでこを触って体温を確認する。
すぐ手が離れた所からしてきっと熱は無いのだろう。
「大丈夫、と言いたいがな。しかしまぁ、今日も仕事明日も仕事で休む時間なんかないさ。」
浮気の疑いがかけられたとて、仕事を休んでは家族を養ってはいけないし、妻と娘にはいい生活を送らせてやりたい。仲が良い悪いは別として。
やはり家族という言葉からなのか、2人がいい生活を送れているなら休みがなくともと思ってしまう。
「全く、倒れないでくださいね!」
そう言い隅田くんは仮眠室を後にした。
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