ノスフェラトゥの求愛

月見月まい

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「んんっ…ベルゼーガ様…」

 処女を散らし、いまだ下腹部に走る疼痛に呻きながらマデリーヌは自らの夫となる男の名を呼んだ。
 マデリーヌをかき抱くように覆い被さった状態のベルゼーガは、「まだ痛みますか?」と気遣い、心配そうに視線を向けてくる。
 深い恋情と慈愛のこもった双眸――
 破瓜の激痛で全身の毛穴から脂汗が滲み、歯を食いしばって耐えるマデリーヌの意識を繋いでいたのは、彼の温かな体温と「愛しています、マデリーヌ」という、耳元で幾度となく紡がれる睦言だった。
 生娘だったマデリーヌに雄肉を突き立て、処女を奪った男。
 けれど、耐えがたい痛みに苛まれるマデリーヌの心と身体を、彼は懸命に癒やし支えようとした。
 それは激烈な痛みさえ和らぐかと思えるほど、優しくマデリーヌの奥深くに染み渡っていったのだった。

「まだ少し…でも…」
「でも?」

 優しさのこもる眼差しが心地よい。
 だが、その奥底には確かな欲情の火が灯り、燃えている。
 媚肉に穿たれたままの雄肉の熱が、熱情の丈をありありと伝えてくるのだ。

「その…ベルゼーガ様はじっとこのこのままではお辛いだろうと思って。我慢はよくないし、ゆっくりなら動いても大丈夫ですから」
「マデリーヌ……」

 ぽつり、と呟いた一言でベルゼーガの瞳が大きく見開かれる。
 淑女らしからぬ大胆な言葉が自分の口から付いて出たことに、実はマデリーヌ自身が一番驚いていた。
 自身のしでかした事の大きさがじわじわと脳裏に浸透していき、気まずさと恥ずかしさで頬が紅潮してくる。
 我ながらどうかしている――きっと彼の熱い肌のぬくもりに、ほのかな汗の香りに当てられたに違いない。
 そう言い聞かせ、自分を納得させようと努めた。

「……判りました。なるべく加減しながら動きますが、痛いときはすぐに言って下さい」

 マデリーヌの膝裏を抱えて固定すると、ベルゼーガはゆっくりと腰を動かし始めた。
 
「んんっ…あっ、あうっ…」

 ゆるゆると挿入されるたび、マデリーヌの喉が反り、くぐもった声が漏れる。
 処女には酷とも思える長大な陰茎に貫かれた下腹は、いまだ鈍痛と圧迫感で痛みが抜けないままだ。
 しかし、徐々に苦痛だけではない刺激が混ざり始め、その微妙な機微の不可解さがマデリーヌを困惑させた。

「んっ……なにか変です。痛いはずなのに……どうして……」
「ああ……少しずつ、気持ちよくなってきましたか……?」
 
 痛みとも違う、形容しがたい甘い痺れが腰を掠めていく感覚。
 苦痛が快感に変わっていくことに戸惑うマデリーヌを、ベルゼーガは口角を緩め、喜びを隠しきれない様子で眺めている。

「フフフ……初めての交わりだというのに、快楽を感じ始めているとは……素質十分だ。むしろ淫乱の気がある部類かもしれませんね。それはそれでこれからが楽しみですが」
「なっ!淫乱だなんて、そんなわけがっ……あひ、んああっ」

 ゆっくりと浅い場所を擦っていた陰茎が突然奥を抉り、その衝撃にマデリーヌは裏返った悲鳴を上げる。
 肉茎が抜け落ちそうになるギリギリまで腰を引き、そこから奥まで一息に深く挿入する抜き差しは、快感の一端を拾い始めたマデリーヌを翻弄し、未踏の世界へと誘うものだった。
  
「あひっ……深い、奥に来るっ……んあああっ」

 マデリーヌの反応を見ながら、ベルゼーガは巧みに挿入の角度と深さを変え、その一突きごとに擦られた膣肉が快楽を貪欲に貪り、淫靡に戦慄く。
 奥を穿たれるたび密着した結合部は熱く煮えたぎり、激しい抜き差しで撹拌された先走りと愛蜜がねちゃねちゃと淫らな水音となって室内に響き渡る。

「ああ……熱い……お腹が熱いよお……」

 痛みすら快感に変わり、激しい抽挿で膣肉を抉られれば下腹を――いや、全身を燃え立たせる淫靡な熱で脳髄を蕩かされ、マデリーヌは焦点の定まらない瞳で譫言のように繰り返す。
 剛直を喰い締める柔肉が収縮し、マデリーヌの果てがいよいよ近いことを知らせた。
 だが、終わりが迫っているのはベルゼーガも同じだった。
 額に玉の汗を浮かべ、眉間に深い皺を寄せながら迫る射精の瞬間を先延ばししようと必死に耐えている。

「あうう……こんなの知らない……あの時と全然違うよぉっ……!」

 突き上げが激しくなり、視界がほの白く点滅しかけた時、恍惚状態のマデリーヌは叫ぶように言い放った。
 その瞬間、ベルゼーガの動きがピタリと止まる。

「あの時……とは、一体なんのことですか?」

 絶頂が間近に来ているというのに突然寸止めされ、マデリーヌは微動だにしないでいるベルゼーガを仰ぎ見る。
 その目はじっとマデリーヌを見据え、心臓を射貫かんばかりの昏い光りを湛えていた。 
 おそらくベルゼーガはマデリーヌの言葉を聞き、なにか勘違いしてしまっているようだった。
 腹の底が底冷えするような冷たい視線が痛い。
 一刻も早く誤解を解きたいが、それはマデリーヌにとってあまりにも恥ずかしい告白をしなければならない、苦行としか言えない行為だった。

「あの…その…」

 しどろもどろになりながら目を泳がせるマデリーヌに、ベルゼーガは苛立ちと疑惑のこもった目を向ける。

「もしや…私には話せないようなことなのですか?例えば、誰か別の男に触られて、その時と比べているとか」
「ち、違いますっ!私はただ、自慰をした時と全然違うと思って……!」

 二人の間に長い沈黙が流れた。
 馬鹿正直に本当のことを話してしまったマデリーヌは耳まで真っ赤にして俯き、穴があったら入りたいと心の中で延々と叫び続けるしかなかった。

「……自慰、ですか?なら、誰か他の男のことを考えていたりは……」
「だから違います、私はベルゼーガ様のことしか考えてませっ……!」

 まだ疑念が晴れず、食い下がるベルゼーガの問いかけに被さる形でマデリーヌの叫びが響き渡る。
 ――ベルゼーガの疑惑を否定してからさらに墓穴を掘ってしまったことに気付き、マデリーヌは再度深く深く穴を掘り遂には死んでしまいたいと涙目で願い始めることになった。

「私のことを想いながら自慰に耽っていたと。そうですか……」

 どこか喜色が滲ませた声で、笑いを噛み殺したベルゼーガにマデリーヌの理性はとうとう限界に達した。
 自分の失言が原因ではあるのだが、こんな生き恥をかかせられたからには、もう面と向かって彼の顔を見るのも無理だ。
 早くここから逃げ出して修道院に入り、余生をひっそりと修道女として生きよう……
 マデリーヌは暗い面持ちのまま、ベルゼーガに別れを告げようと顔を上げた。だが――
 汗で濡れた絹糸のように輝く銀髪を掻き上げながら、性交の熱で火照る身体を惜しげも無く晒し、妖しく微笑む美貌の男から目が離せない。
 その目は逃げ場などどこにもないと、如実に語っていた。
  
「嬉しいですよマデリーヌ。貴女の口からそんな言葉が聞けるとは思ってもいなかった。……さあ今夜は帰しませんよ、私の……可愛い人」

 ――いまだ彼の雄芯を受け入れたままの下腹部が、その時確かに甘い疼きを覚えたと、マデリーヌは激しい律動に身を委ねながら感じていたのだった。
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