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hirahara

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霧の魔

身体で支払ってもらおうか

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「それでこれからどうすんの?」
「住民登録をしてデバイスを貰いに行こう」
「少し調べたけど、ここって大金払わないとできないんじゃ?あたしそんなお金ないよ」
「大丈夫。任せて」

 役所は公園の近くにあった。
中に入ると、玄関すぐにある窓口で新規プレイヤーさんたちが住人登録のために列を作っている。
 ユラさんもその列に並ぼうとしたが、それを止める。
この列が消化されるのを待つのは時間の無駄だ。


 彼女の手を引いて、向かったのは二等民用の窓口だ。
窓口には中年の男性がいた。なんだか素っ気無い。

「すいません。手続きをお願いしたいんですけど」
「申し訳ありません。ここは二等民用です。用があるなら入口傍の窓口で……」
「これを見てください」

 デバイスから出しておいた書類を男性に渡す。
男性は書類に目を通すと、態度を翻した。
 あの種類はライザさんから貰った委任状だ。
装置修理の報酬でライザさんに三等民昇格の権利を貰っていた。
委任状を役所に提出すれば、三等民への昇格ができる。


「失礼しました。ライザ・エンジ様からの三等民への昇格要請ですね。貴方に適用すれば?」
「いえ、僕はすでに三等民です。彼女に適用してください」
「分かりました。では、お嬢さん。こちらの席へ」

 ユラさんが椅子に座り、手続きが始まった。
手続きのために渡された書類は記入欄が多く、少し時間が掛かりそうだ。
 昇格の委任状は残り一枚。
もう使う機会はなさそうだし、ライザさんに返してもいいかも。


 手続きは完了。ユラさんもこれで三等民。
三等民ならデバイスの作成に掛かる手数料も少額で済む。
デバイスの発行手数料も僕が出しておいた。


「なんか至れり尽くせりで寄生しているみたい。嫌なんだけど」
「気にしないで!友達じゃないか」
「なんか怖い……」
「気のせい気のせい」

 大丈夫。彼女にはちゃんと身体で支払ってもらうから。
コネコとも話したんだけど、僕らは慢性的な人手不足なのだ。
 作業ロボもいるけど、やはり人間の仲間が欲しかった。
募集を掛けることも考えたが、変なプレイヤーを引き寄せる可能性がある。
だから八雲さんがヴィンディスに来てくれて本当に助かった。


 これでもうこの町に用はない。早くこの町から離れよう。
発着所に戻ると、すでにエアロダイトの交換と物資の購入は終わっていた。
これでエンジ島に戻れる。

「へぇ。これがスワロ君の機体なんだね。いいじゃん」
「いいでしょ。じゃあ僕の拠点に行こうか」

 発進する前に絶対にやらないといけないことがある。
デバイスから例の物を取り出し、ユラさんに渡した。

「これ付けて」
「何これ?」
「パイロットスーツみたいな物だよ。付けないと死んじゃうよ」

 パイロットスーツと言ったが、見た目は完全に鎧だ。


「ここで?恥ずいし」
「服の上から着る物だし、誰も見てないよ」

 それでも恥ずかしいらしい。
ユラさんはFA4の陰で着替えることにした。
 でも、鎧はまだ未完成なので、誰かの補助がないと着ることはできない。
なので、自分で着られる分は自分で着てもらい、あとは手伝った。


 鎧の着用に時間を取ってしまった。
急いだ方がいい。
役所に行ったことでルドフィーに僕が来ていることがばれているはずだ。

「じゃあ行こうか」
「ちょっと待って!重くて動けないんだけど」
「ごめん。それはまだ未完成で、そこまで考えてなかったよ」

 僕は動けたから、考えが及ばなかった。
 彼女の膝の下と肩の下に手を入れ、持ち上げると、そのままコクピットに登った。
コックピットはちゃんと複座に改造してある。
 FA4は一人乗り。戦闘以外じゃ使わない機器などを外して無理やりスペースを作ったから狭いけど、我慢してもらう。


 システムチェック。……問題なし。エアロダイト活性化スタート……完了。
発着所のスタッフの退避は終わっているからいつでも行ける。

「発進するよ」
「OK!」

 スラスターから風が吹き出し、機体が浮き上がった。
外へ向かうために、向きを調整していると、発着所内に人がいるのを見つけた。
危ないから人間が入っちゃ駄目なんだけど。


 その人は知り合いのNPCで、エンジ島に来たことがある技術者の一人だ。
ギリギリセーフ。
自分で言うのはなんだけど、僕は結晶化装置の修理を果たしたのでそこそこVIPなのだ。
 もし捕まれば、歓待されていた。ストレスだし時間の無駄。
必死に止めようとしているけど、無理しない方がいいよ。
スラスターからの風で吹き飛ばされそうになってるし。


 止まるつもりはないけど、彼が怪我しないように少しスラスターの出力を落とす。
彼の侵入に発着所のスタッフが気付いたようで、羽交い絞めにして連れ出されていた。

「あれいいの?」
「大丈夫だよ。彼はお偉いさんだからスタッフの人も手荒な真似はしないから」
「そうじゃなくて、無視して行っちゃって大丈夫か聞いたんだけど」
「大丈夫大丈夫。気にしなくていいよ」

 あの人は簡単に言うとコネコタイプ。うざくて面倒くさい。
この国の技術者にはそういう人が多かった。
 一度捕まってしまえば、解放されるまで長い。
無視が最善なのだ。
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