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コントな文学『週末のイオンのベンチで疲れ果てているお父さん』

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遠目からでも、私が見間違える訳がなかった。


かつて私が初めてを捧げた男が、週末のイオンのベンチで疲れ果てているお父さんになっていた。


かつて性欲を満たす為に私を抱いていた男が、週末のイオンのベンチで疲れ果てているお父さんになっていた。


地味で恋愛経験が無かった私は、彼にとって都合の良い女になってしまった。


優しくて、ちゃんと私の話を聞いてくれて、甘えさせてくれて、カッコよくて、モテそうで、遊んでそうで・・・
私以外にも、他にも女がいるんだろうなって容易に想像できた。


それでも好きだったから、それでも嫌いになれなかったから、彼を責める事はしなかった。


そんな彼から突然『もう会えなくなった』と別れを告げるメッセージが届いて音信不通になった。


それから2年。


かつて私が心から愛して、そして心から憎んだ男は、週末のイオンのベンチで疲れ果てているお父さんになっていた。


案の定、子供が出来てしまったから私と会えなくなったみたいだ。


かつて愛した男は、三つ子用のベビーカーを止めて週末のイオンのベンチで疲れ果てている三つ子のお父さんになっていたのだ。


そりゃあ疲れ果てるのも仕方がない。


当時の私は年上の男のオトナの余裕がある彼に惹かれていたけど、三つ子の赤ちゃんが相手だと余裕なんて一切無さそうに見える。


それは三つ子が同時に泣き出した時のキャパオーバー感が物語っていた。


トイレにでも行ってたのかな?
疲れ果てている彼と泣いている三つ子の元にお母さんと思われる女性が現れた。


三つ子のお母さんが彼の本命の女性だったのか、私みたいに複数いる中の1人だったのかは分からないけれど今更どうでもいい。


同情なのか、虚無感なのか、幻滅なのか、今抱いている感情が何なのかも分からない。


だけど、週末のイオンで疲れ果てているお父さんになったあなたを見ていたら、あなたへの未練が成仏できた。


2年間立ち止まっていたけれど、やっと次の恋愛に進める気がした。


さようなら、お幸せに。


私の止まっていた時間が動き始めた。



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