上 下
4 / 4
2章

しおりを挟む
 半妖とは、人と妖怪の間に生まれた子のことである。多くは人の中でも妖怪の中でも生きていくには少し足りない、群れのはみ出し者であった。
 守羅もその例に漏れず、村人との仲は悪くはなかったが、明らかに浮いていた。それも仕方あるまい。守羅は成長が遅かった。守羅の背丈がほんの少し伸びる間に、他の子供は所帯を持っていたのだ。
 守羅には常に噂が付き纏った。最もよく聞いたのが、祖母は本当は母親だという話だ。それについては、否定する材料を持たない。ありうる話だと思った。しかし、祖母は守羅は守羅の母が連れてきた子だと言ったし、守羅も自らの出生については尋かなかった。彼女の教えは処世術でもあり、生き甲斐でもあった。
 丈夫だが力に優れた所がなかった守羅は、ある程度自分の力を扱えるようになると、自警団に入った。そして直ぐに用心棒の仕事も任されるようになった。
 こうして、月日が流れた。
 守羅は異質な存在として、やはり、仲間の中でもどこか孤立していた。
 そんな日々に変化をもたらしたのは、風太だった。
 村の慣習として武術の稽古に通うようになった風太は、指導役だった守羅によく懐いた。守羅も、風太の実力を見て、将来は用心棒にすべきだと考え、熱心に指導した。
 風太は人懐こく、すぐに用心棒達に馴染んだ。しかし、師であり、同時に友人としても付き合いのあった守羅のことも忘れなかった。祖母を亡くした守羅が、それでも村で居場所を失わずにやっていけたのは、風太のおかげだ。

「おい、風太」
「なんだよぉ……」
「なにも、ミヨに追い出される度に俺の所に来なくてもいいだろ」
「ええー、いいだろぉ、守羅はいっつも暇してるんだし。今日も泊めてくれよ」
「お前は俺の親切心に少しは感謝した方がいい」
「わかってるって。いっつもありがとよ」
 風太は酒に顔を達磨のように赤くしたまま例を述べた。いつからだろうか?しょっちゅう家に泊まりに来ている風太が、酒を呑むようになったのは。
「……とりあえず、程々にしておくんだ。明日一番にミヨに謝りに行け。当分、会えなくなるんだろ」
 風太は日華国への長旅が決まっていた。山ほどいる子供達の為とはいえ、酷な事だと思った。
「おう。……守羅、俺がいない間、あいつらを頼む」
「わかった」
 風太は発って行った。
 風太の言葉通り、守羅は度々ミヨを訪ねることにした。男手の必要な仕事を手伝い、子供に耳や尾を触らせてあやした。
 後でわかった事だが、これらは守羅を考えてのことでもあった。おかげで、守羅は風太がおらずとも、用心棒の仲間やミヨに融通をきかせてもらった。
 風太のおかげで、守羅は人と暮らすということを本当の意味で理解したのだ。
 村の外で金髪の子供を拾った時もそうだ。彼女も守羅に多くを教えたが、風太との日々がなければそもそもそれを吸収することが出来なかっただろう。

「……夢か」
 不規則に揺れる荷車の中、守羅は目を覚ます。隣では、莉凛香が何やら術の勉強をしている。
 はやく莉凛香を家族のもとに送り届けてやらねば。ミヨと子供達が父を恋しがっていたように、莉凛香も、莉凛香の家族も再会を待ち望んでいるに違いないのだから。
 そして、仕事が終わったら村に帰ろう。
 きっとあの村では、守羅達がそうしていたように、仲間たちが待っているはずだから。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...