44 / 44
エピローグ
しおりを挟む
「翔ちゃん、もうすぐだよ。ほんとに用意できてるの?」
翔一の寝ぐせにスプレーを吹きかけながら彩が言った。
「大丈夫。今日は研究室のネット中継だから隣の部屋だよ。白衣羽織るだけだし」
「もう……婚約者のあたしも取材受けるんだからね。ただでさえ歳の差婚って言われて注目浴びてるんだから、もう少し気にしてよね」
「歳の差って、十三歳じゃないか。世の中にはもっと歳の離れたカップルはいくらでもいるよ」
「そうだけど、この前のネットニュース見た? ぼさぼさ頭の天才科学者。婚約者は娘のような大学生」
「あはは」
「笑い事じゃないわよ。大学生じゃなくて研究生! それに、金目当てかって記事まであるのよ」
「金目当てって……俺、そんなに金持ってないよ」
「知ってるわよ! でも、翔ちゃんの研究が認められたから、これで特許とれば大金持ちも夢じゃないわね」
「いや。まだまだ確認試験が沢山残っているし、特許はスポンサーの製薬会社と大学が抑えると思うよ。でも、少し貰えたら嬉しいね」
「あんた何言ってんの? バカなの? でもまあ、そんな、欲の無い翔ちゃんが好きなんだけどね……」
「それより彩、これ貰ってくれる?」
「えっ、これって……」
「うん。一つずつネックレスにした」
「いいの? そんな大切な物……嬉しい。婚約指輪を貰った時より嬉しいかも。ありがとう。翔ちゃんのご両親は、私の理想なの。私達も死ぬまで仲良しでいようね」
それは六年前、交通事故で亡くなった両親の形見だった。珈琲豆を模った銀のストラップ。仲の良かった両親が一つずつ持っていたものだ。
「おい、婚約指輪よりって。あれ高かったんだぞ」
「柳原先生。五分前です。そろそろスタンバイお願いします」
「はい。すぐ行きます」
それから三年後、柳原翔一の研究は完成した。その成果によって医学は一気に数十年進んだと言われ、多くの難治性疾患に対する治療法が改革された。
翔一の研究成果は、医学の歴史に名を残す大功績となった。
「ねえ、翔ちゃん。大津島に行かない?」
「大津島? 回天の?」
「うん。あたし、翔ちゃんから話聞いただけだし、一度行ってみたいなって思って。前に見せてくれたあの時計、百年以上も前に翔ちゃんのご先祖様が特攻隊員に貰ったんでしょ? なんかロマンチック」
「ロマンチックって事はないと思うけど……美雪は?」
「もうすぐ二歳だし、そんなに手も掛からないから、お母さんが預かってくれるわ」
「いいよ。いつ行く?」
「明日」
「明日?」
「うん」
彩は翔一に抱きついた。
翔一の寝ぐせにスプレーを吹きかけながら彩が言った。
「大丈夫。今日は研究室のネット中継だから隣の部屋だよ。白衣羽織るだけだし」
「もう……婚約者のあたしも取材受けるんだからね。ただでさえ歳の差婚って言われて注目浴びてるんだから、もう少し気にしてよね」
「歳の差って、十三歳じゃないか。世の中にはもっと歳の離れたカップルはいくらでもいるよ」
「そうだけど、この前のネットニュース見た? ぼさぼさ頭の天才科学者。婚約者は娘のような大学生」
「あはは」
「笑い事じゃないわよ。大学生じゃなくて研究生! それに、金目当てかって記事まであるのよ」
「金目当てって……俺、そんなに金持ってないよ」
「知ってるわよ! でも、翔ちゃんの研究が認められたから、これで特許とれば大金持ちも夢じゃないわね」
「いや。まだまだ確認試験が沢山残っているし、特許はスポンサーの製薬会社と大学が抑えると思うよ。でも、少し貰えたら嬉しいね」
「あんた何言ってんの? バカなの? でもまあ、そんな、欲の無い翔ちゃんが好きなんだけどね……」
「それより彩、これ貰ってくれる?」
「えっ、これって……」
「うん。一つずつネックレスにした」
「いいの? そんな大切な物……嬉しい。婚約指輪を貰った時より嬉しいかも。ありがとう。翔ちゃんのご両親は、私の理想なの。私達も死ぬまで仲良しでいようね」
それは六年前、交通事故で亡くなった両親の形見だった。珈琲豆を模った銀のストラップ。仲の良かった両親が一つずつ持っていたものだ。
「おい、婚約指輪よりって。あれ高かったんだぞ」
「柳原先生。五分前です。そろそろスタンバイお願いします」
「はい。すぐ行きます」
それから三年後、柳原翔一の研究は完成した。その成果によって医学は一気に数十年進んだと言われ、多くの難治性疾患に対する治療法が改革された。
翔一の研究成果は、医学の歴史に名を残す大功績となった。
「ねえ、翔ちゃん。大津島に行かない?」
「大津島? 回天の?」
「うん。あたし、翔ちゃんから話聞いただけだし、一度行ってみたいなって思って。前に見せてくれたあの時計、百年以上も前に翔ちゃんのご先祖様が特攻隊員に貰ったんでしょ? なんかロマンチック」
「ロマンチックって事はないと思うけど……美雪は?」
「もうすぐ二歳だし、そんなに手も掛からないから、お母さんが預かってくれるわ」
「いいよ。いつ行く?」
「明日」
「明日?」
「うん」
彩は翔一に抱きついた。
0
お気に入りに追加
5
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

09部隊、祠を破壊せよ!
doniraca
大衆娯楽
山奥にある蛹女村(さなぎめむら)――だがそこは怪異に蝕まれていた。 異常な村人たち、謎の邪神、09部隊は元凶となる祠を破壊するために潜入する! さらに、サヤという名の少女まで加わって……?

声劇・シチュボ台本たち
ぐーすか
大衆娯楽
フリー台本たちです。
声劇、ボイスドラマ、シチュエーションボイス、朗読などにご使用ください。
使用許可不要です。(配信、商用、収益化などの際は 作者表記:ぐーすか を添えてください。できれば一報いただけると助かります)
自作発言・過度な改変は許可していません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる