爺ちゃんの時計

北川 悠

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エピローグ

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「翔ちゃん、もうすぐだよ。ほんとに用意できてるの?」
 翔一の寝ぐせにスプレーを吹きかけながら彩が言った。
「大丈夫。今日は研究室のネット中継だから隣の部屋だよ。白衣羽織るだけだし」
「もう……婚約者のあたしも取材受けるんだからね。ただでさえ歳の差婚って言われて注目浴びてるんだから、もう少し気にしてよね」
「歳の差って、十三歳じゃないか。世の中にはもっと歳の離れたカップルはいくらでもいるよ」
「そうだけど、この前のネットニュース見た? ぼさぼさ頭の天才科学者。婚約者は娘のような大学生」
「あはは」
「笑い事じゃないわよ。大学生じゃなくて研究生! それに、金目当てかって記事まであるのよ」
「金目当てって……俺、そんなに金持ってないよ」
「知ってるわよ! でも、翔ちゃんの研究が認められたから、これで特許とれば大金持ちも夢じゃないわね」
「いや。まだまだ確認試験が沢山残っているし、特許はスポンサーの製薬会社と大学が抑えると思うよ。でも、少し貰えたら嬉しいね」
「あんた何言ってんの? バカなの? でもまあ、そんな、欲の無い翔ちゃんが好きなんだけどね……」
「それより彩、これ貰ってくれる?」
「えっ、これって……」
「うん。一つずつネックレスにした」
「いいの? そんな大切な物……嬉しい。婚約指輪を貰った時より嬉しいかも。ありがとう。翔ちゃんのご両親は、私の理想なの。私達も死ぬまで仲良しでいようね」
 それは六年前、交通事故で亡くなった両親の形見だった。珈琲豆を模った銀のストラップ。仲の良かった両親が一つずつ持っていたものだ。
「おい、婚約指輪よりって。あれ高かったんだぞ」

「柳原先生。五分前です。そろそろスタンバイお願いします」
「はい。すぐ行きます」


 それから三年後、柳原翔一の研究は完成した。その成果によって医学は一気に数十年進んだと言われ、多くの難治性疾患に対する治療法が改革された。
翔一の研究成果は、医学の歴史に名を残す大功績となった。

「ねえ、翔ちゃん。大津島に行かない?」
「大津島? 回天の?」
「うん。あたし、翔ちゃんから話聞いただけだし、一度行ってみたいなって思って。前に見せてくれたあの時計、百年以上も前に翔ちゃんのご先祖様が特攻隊員に貰ったんでしょ? なんかロマンチック」
「ロマンチックって事はないと思うけど……美雪は?」
「もうすぐ二歳だし、そんなに手も掛からないから、お母さんが預かってくれるわ」
「いいよ。いつ行く?」
「明日」
「明日?」
「うん」
 彩は翔一に抱きついた。
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