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変わらぬ歴史2
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ねえ相良君、歴史は変わらない。来月には全てが終わるんだ。日本は負けて新しい時代がやってくる。君が死ぬ必要なんてないんだよ。爺ちゃんだって出撃したけど生きて帰って来た。何とか死を回避する事を考えようよ』
新一は、自分の事はさて置き、なんとか相良を助けたいと思った。
『正直に言うと、俺は得体の知れない不安感に悩まされている。それは、日本が負けるからか? 己の死が無意味なものだからか? わからない。だが、俺は自分の意思で特攻に志願した。万が一、俺が辞退すれば上田が代わりに行く事になる。奴を死なせるわけにはいかない』
『でも……死ぬ必要なんて……』
『歴史は変えられないと言ったのは貴様だろう。俺は特攻でこの命を捧げる。俺が行かなければ上田。仮に上田が行かなくても他の誰かが行く事になる。もはや戦争の勝ち負けとは関係ない』
『確かにそうだけど、爺ちゃんだって帰って来たんだ。僕がこの時代に来たのは相良君を助ける為なのかもしれないよ』
何か、何か意味があるのではないか? 新一の意識がこの時代に飛ばされた意味が……相良君を助けたい。まだ僅か半日程、時間を共有しただけであるが、こんな立派な人物をやすやすと葬ってはいけない。
『貴様の気持ちはありがたいが、今までの事で証明されてきたように、俺の、俺自身の歴史も変える事は出来ないだろう。俺は特攻で死ぬ。それは歴史に刻まれている事実だ』
確かにそうかもしれない。相良少尉は特攻で亡くなったと爺ちゃんが言っていた。彼が暮らしていた地は今、コンビニになっているのだ。
相良少尉が新一から未来の話を聞くことが出来たのは、彼が歴史に影響を及ぼさないという事に他ならない。そもそも、そういう人物であるからこそ、新一の意識がとばされたのかもしれない。
『歴史は変わらない。相良君は死んじゃう。僕は戻れない。どうなるんだろう……』
『新一、貴様には悪いが俺は今、高揚している。自分の死後この日本の将来を知る事ができた。俺の死は無意味かもしれない。だが、そんな事は貴様が来る前から気づいていた事だ』
『でも……なにか方法があるかも……』
『俺の中に渦巻いているこの得体の知れない不安感。それはやはり、己の無意味な死が原因なのかもしれない……だがそんな事はどうでもいい。それより、貴様が元の世界に戻る方法を模索するほうが建設的だ』
『え? 相良君……』
勿論戻りたい。令和の世界へ……
『俺の死後、この国は世界をリードしていくまでに発展する。この戦争の悲惨さ、そしてこの時代、国に尽くした兵士達の事は語り継がれていく。だから俺は悔いを残す事なく、この身を捧げる事ができる。いいか新一。お礼と言ってはなんだが諦めるな! 貴様を元の時代に帰してやる』
『そんな事出来る訳……』
相良は兵舎に戻ると柳原一飛層を探し始めた。夕食後の僅かな時間、兵士達は談話室で会話したり、外を散歩したり、それぞれが自由に過ごしている。だが下士官の兵舎にも談話室にも柳原の姿は無かった。
『爺ちゃん? 爺ちゃんを探しているの?』
『ああそうだ。柳原一飛層は貴様の祖父だと言ったな。彼と話すことで何かわかるかも知れない。今は少しの望みにも賭けてみるべきだろう。もう僅かな時間しか残されていないんだ。それに、祖父とも話をしてみたいだろ。貴様の祖父は優秀な人物だ。将来医者になったという事も頷ける』
『爺ちゃん、そうか爺ちゃんが鍵って事もあり得るのかも……』
『俺と柳原一飛曹の出撃は近い。俺が命を捧げるその瞬間、その時までお前の意識は俺の中にいるのか? 俺が死んだ後は? その瞬間にお前は未来に帰る事が出来るのか?』
『……わからないよ……』
『俺にも分からない。だがもし新一、お前を未来に帰す方法があるとするなら、いや、そもそもこの時代に来させない方法があるとしたら、鍵を握るのは柳原一飛層ではないか?』
『爺ちゃん?』
『奴はお前の祖父なのだ。何とか奴にお前の事を伝え、この時代に来ることを阻止してもらうしかない。歴史を……大きく歴史を変えなければいいのだ。お前の事だけ、国の歴史には一切触れる事なく、お前の事を伝えられれば……何かが変わるかも知れない』
『歴史の事実に触れることなく、僕の事のみを伝える?』
『ああ、やってみる価値はあるだろう。貴様は俺に生きろと言ったが、俺が特攻で死ぬ事は歴史に証明されている。だが、貴様はこの時代で俺と心中する必要は無い。違うか?』
『わからない、わからないよ。でも、もしかしたらその瞬間……』
『俺の死の瞬間にお前は元の世界に帰れると?』
『……かもしれない……』
『確かにその可能性はある。だが違ったら? お前も海の藻屑と消えるんだぞ! それまでにできることやってみるべきだ』
『うん……相良君……ありがとう』
『礼はまだ後だ』
相良は柳原一飛曹を探して回ったが彼は見つからなかった。
『爺ちゃんいないね』
『ああ、だが大丈夫だ。就寝時に兵舎にいってみる。それなら確実に会える』
『ねえ相良君、できれば回天をちゃんと見てみたいんだけど』
『そうだな、よく見ておくといい。そして、貴様が帰ったら後世に伝えてくれ』
新一は、自分の事はさて置き、なんとか相良を助けたいと思った。
『正直に言うと、俺は得体の知れない不安感に悩まされている。それは、日本が負けるからか? 己の死が無意味なものだからか? わからない。だが、俺は自分の意思で特攻に志願した。万が一、俺が辞退すれば上田が代わりに行く事になる。奴を死なせるわけにはいかない』
『でも……死ぬ必要なんて……』
『歴史は変えられないと言ったのは貴様だろう。俺は特攻でこの命を捧げる。俺が行かなければ上田。仮に上田が行かなくても他の誰かが行く事になる。もはや戦争の勝ち負けとは関係ない』
『確かにそうだけど、爺ちゃんだって帰って来たんだ。僕がこの時代に来たのは相良君を助ける為なのかもしれないよ』
何か、何か意味があるのではないか? 新一の意識がこの時代に飛ばされた意味が……相良君を助けたい。まだ僅か半日程、時間を共有しただけであるが、こんな立派な人物をやすやすと葬ってはいけない。
『貴様の気持ちはありがたいが、今までの事で証明されてきたように、俺の、俺自身の歴史も変える事は出来ないだろう。俺は特攻で死ぬ。それは歴史に刻まれている事実だ』
確かにそうかもしれない。相良少尉は特攻で亡くなったと爺ちゃんが言っていた。彼が暮らしていた地は今、コンビニになっているのだ。
相良少尉が新一から未来の話を聞くことが出来たのは、彼が歴史に影響を及ぼさないという事に他ならない。そもそも、そういう人物であるからこそ、新一の意識がとばされたのかもしれない。
『歴史は変わらない。相良君は死んじゃう。僕は戻れない。どうなるんだろう……』
『新一、貴様には悪いが俺は今、高揚している。自分の死後この日本の将来を知る事ができた。俺の死は無意味かもしれない。だが、そんな事は貴様が来る前から気づいていた事だ』
『でも……なにか方法があるかも……』
『俺の中に渦巻いているこの得体の知れない不安感。それはやはり、己の無意味な死が原因なのかもしれない……だがそんな事はどうでもいい。それより、貴様が元の世界に戻る方法を模索するほうが建設的だ』
『え? 相良君……』
勿論戻りたい。令和の世界へ……
『俺の死後、この国は世界をリードしていくまでに発展する。この戦争の悲惨さ、そしてこの時代、国に尽くした兵士達の事は語り継がれていく。だから俺は悔いを残す事なく、この身を捧げる事ができる。いいか新一。お礼と言ってはなんだが諦めるな! 貴様を元の時代に帰してやる』
『そんな事出来る訳……』
相良は兵舎に戻ると柳原一飛層を探し始めた。夕食後の僅かな時間、兵士達は談話室で会話したり、外を散歩したり、それぞれが自由に過ごしている。だが下士官の兵舎にも談話室にも柳原の姿は無かった。
『爺ちゃん? 爺ちゃんを探しているの?』
『ああそうだ。柳原一飛層は貴様の祖父だと言ったな。彼と話すことで何かわかるかも知れない。今は少しの望みにも賭けてみるべきだろう。もう僅かな時間しか残されていないんだ。それに、祖父とも話をしてみたいだろ。貴様の祖父は優秀な人物だ。将来医者になったという事も頷ける』
『爺ちゃん、そうか爺ちゃんが鍵って事もあり得るのかも……』
『俺と柳原一飛曹の出撃は近い。俺が命を捧げるその瞬間、その時までお前の意識は俺の中にいるのか? 俺が死んだ後は? その瞬間にお前は未来に帰る事が出来るのか?』
『……わからないよ……』
『俺にも分からない。だがもし新一、お前を未来に帰す方法があるとするなら、いや、そもそもこの時代に来させない方法があるとしたら、鍵を握るのは柳原一飛層ではないか?』
『爺ちゃん?』
『奴はお前の祖父なのだ。何とか奴にお前の事を伝え、この時代に来ることを阻止してもらうしかない。歴史を……大きく歴史を変えなければいいのだ。お前の事だけ、国の歴史には一切触れる事なく、お前の事を伝えられれば……何かが変わるかも知れない』
『歴史の事実に触れることなく、僕の事のみを伝える?』
『ああ、やってみる価値はあるだろう。貴様は俺に生きろと言ったが、俺が特攻で死ぬ事は歴史に証明されている。だが、貴様はこの時代で俺と心中する必要は無い。違うか?』
『わからない、わからないよ。でも、もしかしたらその瞬間……』
『俺の死の瞬間にお前は元の世界に帰れると?』
『……かもしれない……』
『確かにその可能性はある。だが違ったら? お前も海の藻屑と消えるんだぞ! それまでにできることやってみるべきだ』
『うん……相良君……ありがとう』
『礼はまだ後だ』
相良は柳原一飛曹を探して回ったが彼は見つからなかった。
『爺ちゃんいないね』
『ああ、だが大丈夫だ。就寝時に兵舎にいってみる。それなら確実に会える』
『ねえ相良君、できれば回天をちゃんと見てみたいんだけど』
『そうだな、よく見ておくといい。そして、貴様が帰ったら後世に伝えてくれ』
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