爺ちゃんの時計

北川 悠

文字の大きさ
上 下
20 / 44

潮の香り

しおりを挟む
矢を手に取って走る。矢を刺す場所は背中だ。もちろん普通にしてたら刺さらない。

「ありがとう笠松……お前のおかげで弱点はわかった」

化け物が俺に気づいた。残っている右腕で俺を追撃しようとハサミを振り上げた。

俺はスライディングをしてハーデストの股の間をすり抜けた。それと同時にハーデストのハサミが地面を叩き砕いた。体を捻ってハーデストの方に向く。

握りしめていた矢をようにして刺した。思った通りに矢は突き刺さり、ハーデストの肉の奥にくい込んだ。

「え!?刺さった!?」

マヤが驚いている。なんで刺さったのかわかっていないのだろう。まだ確定してはなかったから言わなかったが今ので確信に変わった。教えてあげないとな。

「こいつはカニのように見えるが本質はアルマジロみたいなものだ。アルマジロの装甲が全身にあるって思った方がいい」
「……それは分かったけどなんで刺せたの?尚更無理じゃない?」
「ミツオビアルマジロって丸くなるために隙間があるんだ。でもただ普通に隙間があるだけだと外敵から狙われた時にそこをやられてしまうだろ?」
「うん。それで?」
「写真で見た方が分かりやすいがあの甲羅って、上にちょっとずつずらして置いている紙のようにできてるんだよ。それで丸くなれば隙間は無くなる」
「逆に言えば丸まらなければ隙間がある?」
「そういうことだ。ましてやアルマジロより何倍も大きいこいつなら隙間が大きいはずだ。そして刺さった」

膝の裏に関しては恐らく足が曲げられるギリギリの所まで甲羅がついていたのだろう。腕は笠松が力を抜いた時にたまたま滑って切り落とせたんだ。たまたまとはいえ笠松の死は無駄じゃなかった。

「弱点が分かれば戦えるぞ……逆襲の時だ……」

矢を1本握りしめる。右目は見えないため弓は撃てない。近接戦しか俺はできない。死なない覚悟はできてる。桃を助けるまではまだ死ねないぞ。

「俺が多少時間を稼ぐ。ワイトとマギーの応急処置を頼んだよ」
「……わかった」

マヤが2人の元に走っていった。これでいい。できれば死人は少ない方がいいからな。1対1か。いつも通りだな。





ハーデストに向かって走った。ハーデストはまた追撃しようとハサミを左側に伸ばして力を溜めている。

ハーデストが横凪にハサミを振った瞬間に体を縮こめて地面に落ちる。髪の毛のてっぺんが切れた。

そのまま体を持ち上げると同時に矢をハーデストの膝に下から矢を突き刺した。やはり近接戦だと俺の方が強いんだ。

もう一本矢を取り出す。さっきのお返しだ。矢をハーデストの目に突き刺した。緑色の血がドバっと出てきた。まるでB級映画みたいだ。

突然腹に衝撃が走った。後ろに体が飛ばされる。柱に背中がぶつかった。口から唾液が反射的に出てくる。内蔵の位置がズレた気分だ。ハーデストの方を向くと、膝を前に上げていた。俺の腹に膝蹴りをしたのか。膝の全面は硬い甲羅だから威力は当たり前のように高いということか。

「ガルルルルァァ!!」

横からヒルが出てきた。鉄の破片を咥えてハーデストに走っていった。

「お前、なんかいないと思ったらそれ取ってきてたのか!」

ヒルがハーデストの切れた腕の断面に鉄の破片を突き刺した。破片はかなり尖っていて硬そうだ。

ハーデストがヒルを睨みつけた。ヒルも負けじと威嚇する。

「グルルルルルル……」

どっちも俺の事を無視してんな。チャンスではあるがなんか悔しい。

矢を新たに握りしめて、ハーデストの後ろに回りこむ。狙うは首元。こいつに頸動脈があるかはわからんがダメージはでかいだろう。今はヒルに注意が行ってる。やるなら今だ。

矢を首に差し込んだ。中の肉は柔らかいのかかなり奥まで刺さった。

「ガシュ……」

ハーデストがようやく声を出した。やっと生物らしさを出したな。つまりそこまで追い詰めているということだ。


ハーデストから距離をとった。ヒットアンドアウェイ戦法を使えばこいつは倒せそうだ。最初はこいつやべぇって思ってたが結構楽そうだな。

「行くぞヒル!」
「ワン!!」

笠松の恨みだ。さっさと地獄に行ってもらうぞ。


ハーデストがなぜかハサミを後ろに下げた。……どうゆう事だ。走ろうとした足を止める。なんで後ろに下げた。ハーデストの腕がミシミシという音をたてている。嫌な予感がする。俺の野生の勘が言っている。

「ヒル!逃げろ!こいつ何かしてくるぞ!」

走り出そうとしたヒルを怒鳴りつけて足を止めさせる。ヒルも何かに気がついたのかハーデストと距離をとった。俺も距離を取らないと。

















バックステップをしたその瞬間だった。ハーデストがまるでボクシングでのストレートをするかのように腕を伸ばした。溜めていた力を解放したようだ。距離は約10mは離れている。ハーデストの腕はせいぜい2mぐらいだ。まず当たるはずがない。そうだ、普通は当たるはずがないんだ。

しかし俺の目に映ってきたのは目の前にまで来たハサミであった。ハーデストの足は遅い。近接戦闘は速いが足は遅いはずなのだ。だから俺が瞬きをした一瞬で移動するなんてできるはずはない。

なのになぜかハーデストのハサミが俺の胴体を切ろうと至近距離にまで迫っていたのだ。

あぁやばい。これ死んだわ。俺はゆっくりと流れゆく時間の中でそう思った。







「楓夜!!」

体に衝撃が走った。重力が横に向いたかのように吹き飛ばされる。意識の時間が戻り地面に転けた。

横を見ると手を前に出したマヤがいた。俺が居た場所だ。ハサミは俺でなくマヤを切ろうとしている。助けようと体を起こすがもう遅かった。

「マヤ!!」

俺がそう叫んだ瞬間、顔に血飛沫がかかった。赤い血だ。俺の血と同じ色だ。人間の血だから当たり前か。

目の前にはマヤの首が胴体と離れている姿が見えた。切れた首からはシャワーのように血が溢れている。頭が無くなったマヤの胴体は地面に崩れ落ちた。

ハーデストの腕はゴムのように伸びており、さっきの位置から10mは離れていたマヤの首を切り落としたのだ。

「……ハーデスト!!!!!!」

俺はハーデストに向かって怒りをあらわにした叫びを放った。









続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

09部隊、祠を破壊せよ!

doniraca
大衆娯楽
山奥にある蛹女村(さなぎめむら)――だがそこは怪異に蝕まれていた。 異常な村人たち、謎の邪神、09部隊は元凶となる祠を破壊するために潜入する! さらに、サヤという名の少女まで加わって……?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

声劇・シチュボ台本たち

ぐーすか
大衆娯楽
フリー台本たちです。 声劇、ボイスドラマ、シチュエーションボイス、朗読などにご使用ください。 使用許可不要です。(配信、商用、収益化などの際は 作者表記:ぐーすか を添えてください。できれば一報いただけると助かります) 自作発言・過度な改変は許可していません。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

半官半民でいく公益財団法人ダンジョンワーカー 現代社会のダンジョンはチートも無双も無いけど利権争いはあるよ

大衆娯楽
世界中に遺跡、ダンジョンと呼ばれる洞窟が出現して10年という時が経った。仕事の遅いことで有名な日本では、様々な利権が絡みいまだ法整備も整っていない。そんな中、関東一円でダンジョン管理を行う会社、公益財団法人ダンジョンワーカーに入社する1人の少女の姿があった。夜巡 舞、彼女はそこでダンジョンの本当の姿を知る。ゲームの中のような雰囲気とは違う、地球の病巣ともいえるダンジョンと、それに対処する人々、そして舞の抱える事情とは。現代社会にダンジョンなんてあったってなんの役にも立たないことが今証明されていく。 ※表紙はcanva aiによって作成しました。

勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴

もろこし
歴史・時代
とある豪華客船の氷山事故をきっかけにして、第一次世界大戦前にレーダーとソナーが開発された世界のお話です。 潜水艦や航空機の脅威が激減したため、列強各国は超弩級戦艦の建造に走ります。史実では実現しなかったドイツのZ計画で生み出された巨艦たちの戦いと行く末をご覧ください。

処理中です...