今！(コン)

？

今？

　何故しようと思ったのかはよく分からない
　多分靴紐が解けたからとか、そんなどうでも良い理由だった
　学校とか、バイトとか、母さんの呪縛とかから離れられる理由が欲しかった
　今俺は麻縄と遺書を持ち、近くの山の麓にある霧深い森の奥へ奥へと進んでいる
　都会から少し外れていることもあるのかもしれないが、まだ9月なのに秋から冬へと着々と変わっていることが肌で分かり、少し今の至って普通のズボンにTシャツだと少し肌寒かった
(もう十分だろ...)
　元々ここまで来たのだって、死んだ後人に見つからないようにするためだけだ
　そこらへんにあった少し背の高い木に縄をつけて、遺書を足元に置いて、靴を脱いで、あとは首をこの輪の中に入れるだけ...と気を引き締めたその時だった
「其処の御仁、少し此方に来てくれないか？」
　1メートル程離れたところから声が聞こえた
　誰だろうか、男の声だ、行くべきか？いや、こんなところに来ている時点でまともな人なわけがない、幽霊か？
思考がぐるぐると回っていく行くべきか行かざるべきか
「"来て"くれないのかい？」
　男がもう一度声を出した途端、体が縄を握っていた手をパッと離し、ふらふらと男の方に吸い寄せられるように近づいていく
「可愛い子だ、死なすには惜しい」
森の霧が体を侵食しているように意識が段々と遠のく、最後に見えたのは狐面を付けた、背の高い男の姿だった