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終章

これから築くもの(最終話)

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泣きじゃくって説明する私の背中をローゼ様が優しくさする。

エリサがハンカチを差し出す。

こんな言っても仕方のないことを言ってしまう気は無かった。
まして泣いてしまうなんて。
転生してしまったんだから、ここで生きていくしかないとちゃんと腹を括ったつもりだったのに。

エリサのハンカチで涙を拭う。

「そのハンカチ貴女にあげるから、鼻もかんでしまいなさいよ」

エリサはなんだかんだ優しい。

「で、落ち着いたらテンセイとかいうのを説明なさい」

あれ?私、転生って言った??

「貴女全部口に出してたからね?」

おおぅ。やっべ。

「えっとぉ…」

「ま、言いにくいならすぐにじゃなくていいわ。いつか話してね」

エリサさんたら、カッコいい!
って、あれ?ローゼ様、機嫌悪い?

「ミレイ様、私、少し怒っております」

あ、はい。そうかなって思いました。

「私、申しましたよね。困りごとがあれば力になると。平気な風を装って、1人で不安を抱え込まないでください!そりゃ、私などに話したところで、ミレイ様の前世の記憶?が蘇る訳でもないですし、元のミレイ様の時のことを思い出す訳でもないですし、なんの解決にもならないかも知れません。それでも、ミレイ様が1人で不安なまま心細いままでいるのに、私がそれを知らずに何もできないのは嫌なのです!」

言い切ったその目には、うっすら涙が浮かぶ。

言っても仕方ないことだと思っていた。
言ったところで、何が解決する訳でもなく、相手を困らせてしまうと。
自分の中で折り合いをつけるしかないと。

「ああ、もう、ローゼ様と婚約破棄するなんて、本当に殿下は見る目がないですね。なんか、私、ローゼ様のお嫁さんになりたいかもです」

「「「「!?」」」」

「ちょっと待て、ミレイ!今のはどういう…」

物陰から殿下が慌てて出てきた。
王太子殿下ともあろう方が立ち聞きですか。そうですか。
いつから聞いていたのやら。

「あら、殿下、いらしたんですか?どうも何も…殿下は見る目がないとしみじみと思ったものですから。不敬に当たりましたか?」

「や、そっちではなく、ローゼ嬢に嫁ぐとか言わなかったか」

「そのくらいローゼ様が素敵な方だと申し上げたまでです」

「そ、そうか…」

殿下は尚も複雑そうな顔である。

んで、なんで他の3人もそっちの柱の後ろから出てくる訳?
この国のお貴族様の教養には立ち聞きも入ってるの?

「ミレイ嬢、その…話を聞いてしまって申し訳ありません。それから、ミレイ嬢がそのように不安を抱えてることに気づかず申し訳なかった」

イーテリオ様が生真面目に謝罪する。
私が不安なのを隠していたのだから、気づかなかったイーテリオ様が申し訳なく思う必要も無いのだけれども。

「これからはミレイ嬢が寂しくないよう私がずっと傍にいると誓います」

そう言って距離詰めてくるけど、ちょっと待って、別に傍にいて欲しいとか思ってないから、勝手に誓われても困る。
最近、多少マシになって、ただのイケメン魔法バカになってたのに、やっぱただのバ…

「イーテリオ様、勝手に誓われても困ります。えいっ!」

無詠唱で精巧な氷像と木像を出す。

「なっ!無詠唱なだけでなく、氷と木を同時に!?こ、この獣は何ですか!?」

案の定、大興奮で像に駆け寄り釘付けだ。
よし、しばらくそっちにいてねー。
ちなみに、前世の記憶で狛犬を出してみた。


「ねえ、ミレイ、記憶がなくて自分の軸が無いことが不安なら、これから創っていけばいいんじゃないかな。ミレイがそうするなら僕はそれを手伝いたい」

ショウフル様が最近にしては珍しく黒くない。
優しいショウフル様ってちょっと調子狂うなぁ。

「で、僕だけを渇望するようになればいいよ。あ、自分を縛るものが欲しいなら僕が縛ってあげる」

前言撤回。真っ黒です。
その辺の話も聞かれてたのね?

てか、縛るって何?!物理的な話?精神的な話?
堕天使、コワい。

「あ、や、ショウフル様、それはちょっと遠慮したいです」

苦笑いで誤魔化す。
緑の瞳は相変わらず愉快そうにそして優しげに私を見る。


「…ミレイ嬢、私には思ったことを話すように勧めたのに、ご自分は秘めていらしたのですね」

ええ。そうです、アルベルト様。
返す言葉もございません。

「ミレイ嬢に頼るばかりで頼っていただけなかったことをふがいなく思います。ミレイ嬢に心の内を見せていただけるように、精進いたします。ですから、嫁ぐならローゼ嬢ではなく私の元においでください」

うん、なんで君はいつもサラッとどストレートなのかな?

「アルベルト様、折角ですけれども私にはそう言った気が御座いません」

アルベルト様が少し腰をかがめて、座っている私の耳元に顔を寄せる。

「今は、ですよね?」

至近距離でそう言われると、頬が少し熱を帯びる。
ああ、もう、このイケボずるい!
不覚にもときめくだろ。



「ミレイ!」



ねえ、殿下、人の話に割って入るのはデフォなの?


「ミレイが辛い時に力になれずすまなかった。これからは辛い時は言って欲しい。

私も皆もミレイの力になりたいのだ。
ミレイは自分の力でないと言うが、私たちの…私の目を覚まさせたのはやはりミレイだと思う。

それから…今すぐでなくても良いから、いつか私のことを見てくれ」

「殿下…」

オリジナルミレイちゃんに心酔して現実から目をそらしていた殿下達はどうしようもなかったけど、
現実と少しずつ向き合っている今の4人は大したものだと思う。

今度は私の番だ。
この寄る辺ない不安と向き合って、私を築いていかなくちゃ。
幸い、力になってくれるという素敵な友人たちもいるわけだし。

うん。今度こそ、腹を括ろう。


「あとこれは、今すぐでお願いしたいのだが…」


「なんでしょう、殿下?」


「その、他の3人ばかり名前で呼ばれて、私だけ名前で呼ばれないのは、なんというか、不公平だと思う…。だから、その…」

ああ、そうだった。

「それって不敬には当たらないんですか?」

「御名前の後に殿下とつければ大丈夫ですよ」

そっかぁ。ローゼ様が言うなら間違いないなぁ。

どうしよう。
誰かこのタイミングで丁度よく…そんな都合のいいこと起こらないかぁ。

エリサ、貴女笑い堪えてるってことは、私が何に困ってるか気づいてるでしょ!

ああ、もう。しょうがない。
誤魔化せないかな。

「あの…では今後は御名前でお呼びしますが、明日からじゃダメでしょうか?」

「何故?私は今呼んで欲しい」

そんな期待した眼差しで見ないで、殿下!
貴方顔だけは良いんだから!!

「や、私は明日からがいいなぁ、なんて」

「ミレイ、呼んで。」

「……」

「……」

やっべ、詰んだ。
どうしよう。

「あの、ではですね…殿下のお耳を貸して頂いても良いですか?」

「耳を?こ、こうか?」

殿下、照れないで!
こっちまで照れるから!
あと、これ、名前を耳元で囁くとかじゃないから!

そうして私はそっと密やかに殿下に告げた。

殿下は驚いて私を凝視した後に、ボロボロと泣き出した。


やばい。
王太子殿下泣かせちゃった。


「殿下、どうしたんですか?」

「ミレイ、殿下になんて言ったの?」

「……」


3イケメンが困惑してこちらを見る。
一方、エリサは笑い堪えすぎて呼吸が辛くなってるし、ローゼ様は事情を察して頭を抱えている。

答えるべきか迷っていると、殿下がポツリと漏らした。


「ミレイが…



『殿下の名前知らない』って……」




「あー、もう!
殿下、言わないでくださいよぉ!
折角みんなにわからないように耳打ちしたのに!!!」



途端に、3イケメンとエリサが吹き出した。
ローゼ様はギリ笑ってないけど、ギリだ。


その場の笑いが収まるのにしばらくかかり、



その後、拗ねる殿下から名前を聞き出すのがめっちゃ大変だった。



☆★☆★☆★☆完 ★☆★☆★☆★ 
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