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一章

断罪・婚約破棄イベントはソレ系の話には欠かせないよね!

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「…よって、貴女との婚約は破棄させてもらう!」

広間に響いた声に、一瞬あたりが静まりかえる。
プラチナブロンドの髪に紫の瞳を持つ美女は顔を真っ青にしながら、それでも気丈に前を見た。

なんて綺麗な人なんだろう。
私は美人さんをまじまじと見つめた。

「王太子殿下、畏れながら申し上げます、確かに私はミレイ様にキツイことを言ったことは御座います」

そう言って美女は私の方を見た。

ん?なんでこっち見たんだろう?
そのミレイ様が私の近くにいるのかな。
そう思い、ついあたりに視線を彷徨さまよわせる。

途端に隣にいた男性に肩を抱かれる。
え!?なんで?
その男性を見上げると、
これがまたなんとも美形だ。
そういえば、さっき婚約破棄がどうとか言い出したのこの人じゃないっけ?

「ミレイ嬢、怯えずともよい。悪いのはローゼ嬢なのだから。全て私に任せてくれれば良い」

ん?ミレイって私?
人違いじゃない??
だって、私の名前は、

…私の名前は、なんだっけ??

懸命に思い出そうとしていると、肩にかかるピンク色の髪が目に入った。
ん?ピンク?
私黒髪純日本人のはず。
染めたことなんて一度もな…

ん?日本人ってなんだ??

「しかし、それは貴族としてのマナーをミレイ様に注意していただけのことで御座います!」

私の混乱を余所に、美人さんが続ける。

「婚約者のいる殿方とあまり親しくし過ぎるべきでない、

まして愛称で呼ぶなど以ての外、

そういったことを申しました。

しかし、殿下が先ほどおっしゃったような所持品を隠したり、
階段から突き落とすなどという恐ろしい所業は、
誓って致しておりません!」

おおぅ。
これ、悪役令嬢の婚約破棄系の小説とか漫画でよくありそうな展開では!

これはちょっとヒロインが空気読めてないよねぇ、婚約者のいる人にベタベタしちゃいかんよ。うんうん!

階段から突き落とすとかは他の令嬢がやっちゃったけど、この美しい悪役令嬢さんのせいにしちゃったとかかな!うんうん。

これで、平民上がりで分け隔てなくみんなに接する優しくて、良い子ちゃんで、ちょい空気読めてないピンク髪のヒロインが出てきたら完璧…ん?

ピンク髪?

そこで私は自分の髪をもう一度見た。
ん?

私の思考がまとまらぬうちに、
私の肩を抱いてるイケメンが冷たいとも思える声音で話し出した。

「親しくすることも愛称で呼ぶことも私がミレイ嬢にそれを許したからこそだ。ローゼ嬢が口を挟む問題ではない」

え。
や、挟むでしょ。婚約者なんだから。
何勝手なこと言ってんの、このイケメン。

「所持品を隠す、階段から突き落とす、これらもローゼ嬢の指示のもと行ったという証言は得ている」

「そんな!何かの間違いで御座います!私は決して…!!」

イケメンとはいえ、あんな美しい婚約者を裏切ったくせに、自分正しいみたいな顔して断罪とか、ちょっとなぁ…。

いえね?そういう物語なら大好物ですよ?でも、実際にやられると、ちょっとなぁ。胸糞悪いわ。

ただ、そうは言ってもこのイケメンを責め切れないのが、

たぶん、

もしかして、

ひょっとしたら…

…ヒロインが私なんじゃないか、ってことなんだよなぁ。

このローゼ様をこんな目に合わせてるの、半分私のせいなの?
えー、やだぁ。


そして、さっきからうっすら気になってるのが…


「見苦しいですね。言い訳とは。証人がいると言っているでしょう」

濃紺の長髪後ろで束ねたメガネイケメンが冷たく言い放つ。
てか濃紺の髪って何。や、私もピンクだけど。

「ミレイ嬢を虐めただけでも許せないのに!自分のやったことを認めないんですね」

茶髪の可愛い系美少年がそう言って頬を膨らませる。
可愛いけど、君は頬を膨らませるのが許される歳なのか?
なんか1人明らかに幼く見えるんだけど、学園と言うからには他の人たちと似た年齢なんだよね??

「……」
寡黙そうな黒髪の騎士風のイケメンが…や、なんも喋んないな、コイツ!
殺気放ってて怖いけどな!

そう。
いかにも王子の取り巻きの攻略キャラって感じのイケメンが、周りにいる。


これは、もしかしなくても、なんかの乙女ゲームに転生したってやつかしら。
前世の名前も死因も覚えてないけど。

なんのゲームか知らない挙句に、このタイミング!
転生の神様や、何がしたいんだね?
もう最近仕事多すぎて、適当に転生させてない??


状況が飲み込めない時は下手に口出さない方がいいものだけど、

でも、

私、このままで良いとは思えない。

私は深呼吸をひとつして、
隣のイケメンを見上げた。

さりげなく肩に置かれた手から逃れるように一歩離れる。


「殿下、私からも発言することをお許しいただけますか?」
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