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エピローグ
ダランティリア視点④
しおりを挟むセイは後一つでアイテムを全て集め終える。
そんなセイのために俺が出来ることを考えていた。
ダランティリアの記憶では、確かセイの呪いを解くためには進化しなくてはならいいはずだ。
それならば、セイを進化させるために俺が出来る事がある。
俺がダランティリアだった頃、ダランティリアは進化できないわけでは無かった。
ただ父上を殺さなくては意味がなかったため、実行しなかっただけだった。
だから、進化する方法はわかっている。
そしてそのために作った魔力を込めた魔石は、俺が無意識のうちにもう既にセイに渡していた。
あとは、その方法をセイに伝えるための細工をしなくては……。
そう思っている間に、ついにセイが最後の一つを手に入れてしまった。
その場にいた俺は、目の前でそれを見てしまったのだ。
そのことに、俺は気落ちしていた。
だからセイに今日はため息が多いと言われて、そうかもしれねぇと思ってしまった。
だって今日でセイとはお別れなのだ。
もし次に会えたとしても、今の俺ではない。
それはダランティリアの記憶と性格を完全に取り戻した、俺という別人と再会することになる。
だから俺は言わねばならない。
ブルーパールドラゴンに催促される前に、言わなくては二度と言う事は出来ないだろう。
「セイ、お前に言いたいことがあるんだ……」
そう口に出すと、別れを告げることが惜しくなってしまう。
だからセイの顔を見る事ができずに、景色を見てしまった。
そんな俺の態度をみて、セイが耐えきれずに急かしてくる。
「言いたいことってなんだ?途中でやめられると気になるんだが……」
「そうだな。お前も今まで頑張ってきたんだから……俺もちゃんと言わねぇとな」
セイを改めて見つめると、俺は重い口を動かした。
「……最後に、セイとこうしてゆっくり話す事ができて良かった」
その言葉に少しずつセイが目を見開く。
そして、怒りの声を上げたのだ。
「……は?最後って一体何を言ってるんだ!何が最後だって言うんだ?俺と会うのが最後ってわけじゃないんだろ……?」
「いや、その言葉の通りだな」
「そんなので納得いくわけがないだろ!!」
机を叩いたセイの手は赤くなり痛そうで、こんなときなのに俺はついお節介にもその手に触れようとした。
しかし、怒っているセイに振り払われてしまったのだ。
こんな風にセイを悲しませちまうんだったら、勝手にいなくなるんだったな……。
でも、最後に俺の気持ちだけは文句を言われたって聞いてもらうぜ。
そう思い俺は口を開く。
「だから、お前と会うのはこれで最後だ」
「……そ、そんな」
「俺のわがままだけどよ、最後にずっと言いたかった事を言わせてくれ。これはな、今の俺だけが持っている心から出た、本当に大事な想いなんだ……」
俺は立ち上がるとセイの前に跪く。
そっと手を取り、その瞳をじっと見つめた。
「セイ。俺はずっと、ずっと昔からお前の事を愛していた。でもこれ以上は俺ではダメなんだ……だから、お別れだ」
手を離した俺は今が最後のチャンスだと、セイの右耳につているピアスに軽く触れた。
どうか俺の想いが留まるようにと、そのときが来た時にセイが進化できるようにと、精一杯の魔力を込めながら……。
そして手を離した俺は、セイの叫び声を、聞きながらブルーパールドラゴンの元へと転移したのだった。
それから俺はずっと精神世界にいた。
その頃の俺はもうダランティリアとしての意識しか存在していなかった。
ダンの頃の記憶もあるが、それは夢で見た内容のように薄らとしていた。
でも、セイ……いや、イルと過ごした想いだけは俺の中に残っていた。
それは不思議な気持ちだった。
ダランティリアとして過ごしてきた王子時代では得られなかった感情、それは確実に俺の中に残っていた。
だから俺はどうしてもイルを救ってやりたかった。
でもその為にはブルーパールドラゴンの意識を奪い取る必要がある。
俺の体は現在、すでにブルーパールドラゴンに取られてしまっていたのだ。
まだ体としては使っていないようだが、その時をじっと待っているように思えた。
しかしダランティリアである俺の意思は諦めてはいなかった。
どうにかブルーパールドラゴンの意識を奪い取り、俺の手でこの忌まわしい呪いを全てを消し去りたかったのだ。
それが例えこの世を敵にまわしたとしても……。
そしてついに、チャンスはやってきた。
ブルーパールドラゴンが俺の身体を使い、イルと対峙したその瞬間。
俺の心がイルの叫びに反応したのだ。
イルが叫んでいたのは、ダン名前だったがそれは俺には関係ない。
何故なら、俺はついに自分の体で自由に動けるようになったのだから。
そしてこの体にはもう呪いなんて存在しない。
それが俺は嬉しかった。
例えこれが一瞬の幸せであっても……。
そして今大事なのは、ここからどうやって俺が守護竜となるか、それだけだったのだから。
それなのに俺の心にイレギュラーが起きてしまった。
イルを見た俺は、その存在を手に入れたくて仕方が無くなってしまったのだ。
守護竜となるなら、イルとずっと一緒にいたい。
イルが助かる方法を知っているのに、俺はそれを伝えることができなかった。
そしてダンは俺と同一人物だというのに、何故か俺を見てくれないイルに、どうしても俺を見てほしいと欲が出てしまった。
だから俺は二つの選択を決めたのだ。
それなのに、結果はライムが守護神となり、俺が救われてしまうというものだった。
確かにイルは進化をして呪いも完全に解けた。
だけど全てが終わり、目の前でスライムが空に舞い上がる光景に、俺は失敗したと後悔することになる。
横にはライムを想い泣くイルの存在だけが残ったのだ。
だから、これは罪滅ぼしから出た言葉だった。
「え?ライムのために王宮内に神殿を立てようって?」
「ああ、神殿という居場所があればライムの実体をイルなら見る事が出来るはずだ」
「それは本当か……?」
目を大きく開いて、信じられなさそうにこちらを見てきたイルに、俺は笑顔で返してやる。
「待ってるから会いにきてくれって、言われてただろ?だから、約束は守ってやらねぇとな……」
「……ダン」
「本当は俺が背負うはずだったのに、俺のせいでこうなっちまったんだから……」
「こんなの誰も悪くない!!だから神殿を作って、俺がライムをいっぱい慰めてきてやるから安心しろ!」
そう元気に言うイルに「多分慰めるどころじゃねぇと思うぜ?」と、言ってやる。
それにイルは知らないようだが、今現在もライムはそこら辺にいるスライムを使って、俺の邪魔をしていたりする。
とくに、ヤってる最中とかの邪魔が酷くて……。
いい加減邪魔をされない為にも、ライムに譲ってやらねぇと、と言うのが俺の本心だったりするのだ。
こうして振り返ると、俺の人生は転生してみてクソみたいな人生だった。
だけど俺は呪いの解けた世界で幸せを掴み取った。
だから今はこのままで良い。
それに暫くは、イルが側にいるスローライフを堪能したいからな。
そう思い、俺は隣に寝ているイルのおでこにキスを落としたのだった。
─────────────────────
これでダン視点は終了です。
ダランティリアの話を少し書きたかった!
長くなったから後半駆け足すぎて上手くかけませんでしたすみません!!
読んで頂いた方本当にありがとうございます。
次からは毎週土曜日19時更新で、おまけを暫くあげていく予定です!
完全にギャグとイチャイチャが多いです。
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