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エピローグ
ダランティリア視点②
しおりを挟む俺はなんだかんだスローライフを始めていた。
何も覚えていないけど、間違いなく俺が望んだ世界がそこにはある気がしたから。
そして数十年の時が過ぎた。
その間に口が悪くなっちまった俺は、退屈な日々を過ごしていた。
そんな中、俺は久しぶりにその声を聞いた。
『運命の子を助けよ』
その声につられて、とりあえず俺は何も考えずにギルドに向かっていた。
そして、ギルドの周りで騒いでいる奴らがいる事に気がつく。
「おい、次は俺だ!俺はそんなもんじゃびびらねぇぞ!!!」
「はぁ、俺は別にビビらせる為にやってる訳じゃ無いんだが……」
そこには、騒ぐ大人に囲まれた、小さい男の子がいた。
その姿に目が止まる。
ローブ姿にフードを被ってるから顔は見えないが、背丈からしてまだ7、8歳ぐらいじゃねぇか?
そんな子供を大人が囲むなんざ、よくねぇなぁ。
いつもなら素通りするところなんだが、とても気になってしまった俺は、ついその騒ぎの真ん中に飛び出し、声をかけてしまう。
「おい……」
「では、行くぞ!」
「おぉおおお!!」
その掛け声がした瞬間、俺は大空に放り出されていた。
そのため、先程までいた街並みがそこから遠くまで見える。
「!?」
「なっ!!何故他の人が一緒に?」
「あぎぃええええ!!!!」
子供にしがみついて叫んでいるのは、さっき威勢よく噛み付いていた男だ。
そう思ったときには、もう既に二人が見えなく成る程、俺は下へと落ちていた。
でも、俺は何故かそれで死ぬ事はないと理解していたため、冷静だった。
それなのに、その子供は一度転移でしがみついていた男を置いてきたのか、再び俺の目の前に現れ腕を伸ばした。
「くっそ!どうして巻き込まれた人がいるんだ!」
必死に手を伸ばしてくるので、俺はついその手を取ってしまった。
その瞬間、子供のフードが取れてしまい、俺はその姿に目を見張る。
金色の髪は陽の光で眩しく輝き、瞳も黄金のように煌めいて見えたのだ。
その顔に、俺は既視感を覚えていた。
そんなことを考えている間に、落下速度は徐々に緩やかになっていた。
しかし、その子はもう限界を迎えそうになっていた。
「ぐぅううううう!!お、重くて腕が……」
「助けてもらって言う事じゃないが、転移すればいいんじゃねぇの?」
ハッと驚いた顔をした、子供は次の瞬間転移を使ったのか、俺の足が地面に着いている事に気がついた。
その子供は俺を持ち上げようとしたことで体力を使い切ったのか、フードをなおしながらぜいぜいと息をしてしゃがみ込んでいたので、とりあえずお礼を言う。
「おお、ありがとな。それで?こんな子供に寄ってたかって、大人が何してんだ?」
俺はいまだに周りを囲んでいる、クソみたいな冒険者達を見回した。
昔から冒険者は馬鹿みたいな男達の集まりで、俺自身は好きじゃなかった。
「ひっ!!お、お前は……黒髪のダン……!!!」
「べ、別に俺達は……新入りに親切に教えようとしただけで……」
「そ、そうだぞ!実力を試してやろうと空に転移してもらって、それで俺達は度胸試ししてただけだし!」
脅そうとしていたのに、最終的に度胸試しに変わった事であんなに人が集っていたのか?
それはそれで頭悪いなと、俺はため息をついて男達を睨みつけた。
「ふーん。お前らの親切っつうのは、相変わらずねちっこくて頭ごとぶった斬ってやりたくなるなぁ」
わざとらしくニヤリと笑うと、男達は怯えながら走り去って行く。
俺は軽く睨んで野次馬も蹴散らすと、いまだに息を整えている、子供の前にしゃがむ。
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ……」
「そうは見えねぇけど?」
「大丈夫だからほっといてくれ!!」
そう叫ぶこいつを見て、何故かとても興味が湧いてしまったのだ。
そう思ったときには、俺は無意識にそいつを抱き抱えていた。
「お、おい!!俺を抱っこするな!」
「仕方がねぇだろ、こんな路上でしゃがみ込んでたら、邪魔になるからな」
「そ、そうだけど……」
「まあ、任せとけ。この頼れるお兄さんが良いとこに連れてってやるぜ」
「はぁ!?なんだそれ、子供攫いの言葉にしか聞こえないぞ!!!」
怒ってはいるものの、体に力が入らないのか大人しく俺に持ち運ばれるその体は、とても軽かった。
そのことにまた既視感を感じてしまう。
なんだ?庇護欲をそそられるっつーよりは、俺が守らないといけない存在だと、俺の中にいる何かが訴えてくるようなこの感じは……。
そう思いながら、俺はその子供をケーキが美味しいと噂のお店に連れて行った。
周りは女性ばかりだが、子供連れだと変ではないだろう。
「で?なんで俺をここに連れてきたんだ!周りが女性ばかりで恥ずかしいんだけど!!」
「子供のくせに何言ってやがる。子供はお菓子とか甘いもんが好きだろ?」
「俺を子供扱いするな!!」
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「これでも10歳だ!」
「10歳は、子供だろ?」
言い返せないのか、口をへの字にして唸るその姿に俺は笑ってしまう。
思った年齢とは違ったが、子供には違いない。
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「俺はセイだ。これでもAランクの冒険者だからな」
「セイか。にしてもその年齢でそれならすげぇな。因みに俺はダン、Bランクの冒険者だ」
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「ああ、成る程ねぇ。俺がBランクなのはスター無しでわざとだからだ。まあ、Aランク以上は面倒だしな」
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「面倒なのはわかるが……そう言う奴もいるんだな」
「ああ、覚えておくといいぜ。それより、ケーキ食べねぇのか?」
俺の質問に、セイの身体が固まったのがわかる。
そして、少し顔を背けると恥ずかしそうにボソッと呟いた。
「さっきので、腕を痛めたから手が使えない……」
何故だろう。
その瞬間俺は微笑ましくてニヤリと笑い、だけど揶揄いたくなってしまったのだ。
「え?なんだって??」
「だから、腕を痛めたから……」
「もう一度!」
「手が使えないって言ってるだろ!!?」
顔を真っ赤にして怒るセイを見て、可愛いと思ってしまう。
子供を持った親の気分とは、こういうものかもしれない。
だからなのか、どうしても構ってしまいたくなる。
「俺が食べさせてやろうか?」
「は?」
「俺のせいでセイは手が動かなくなったんだろ?だったら俺が、責任とって食べさせてやらねぇと行けねぇよな?」
そう思った俺はセイの隣に移動すると、その小さな口にケーキを詰めていた。
モグモグとたまに不満をこぼしながら、恥ずかしそうに食べるその姿を見て、俺はセイとずっと一緒にいたいと思ってしまったのだ。
今日始めて会ったっていうのに、おかしな話だぜ。
そう思うと、朝の声はこの事を言っていたのではないかとさえ思えてしまう。
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それからというもの、俺はセイを構う為にとにかくギルドで待ち伏せする日々を過ごしていた。
その結果、セイからクエストのお誘いを受けるまで仲良くなることができた。
そして俺はセイの保護者として、その位置を確立させていったのだった。
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