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第六章 解呪編
ライム視点②
しおりを挟む彼に連れられてたどり着いた先は、この国の王宮でしたが私は特に驚きませんでした。
それよりもセイと名乗った少年が、呪いで今にも死にそうなイルレインという少年だった事が、私の中でなによりも衝撃的だったのです。
そしてこのときのイルレイン様はまだ13歳という、本当に小さな少年でした。
やっと出会えたその人が、いつ死んでもおかしくない存在だったなんて……。
ショックを受けている間に、話はとんとん拍子で進んでいきました。
そして本当の名を教えてもらえた事で、私達は従魔契約を結ぶ事になったのです。
契約はイルレイン様に魔力を流せないことから、私の核付近に書く事になりました。
その事をいいことに私はイルレイン様の事を、主と呼ぶ事を義務づけるように契約に付け加えたのです。
それは私の誓いでもありました。
主に何かあったときは私の命をかけてでも救ってみせる。その想いの願掛けだったのです。
その後、人として働けるように住人登録をしてもらうため、主とギルドに向かいました。
そのとき、そこにたむろっていた冒険者達の声が、私の耳に入ってきたのです。
「あれが前噂になってたインテリスライムだって?」
「ちっ!俺達だって聞きたいことがあったってのに、あのガキ連れて帰りやがったのか……」
どうやら私が嫌悪するような冒険者達はまだ沢山いたようで、その空間にいるだけで私はまたあのときのように、死にたくなってしまったのです。
「ライム、大丈夫か?」
「……主」
それなのに、主の声を聞いただけで私は全てどうでも良くなってしまったのです。
でもこれ以降、私はギルドに近づきたくなくなってしまいました。
あそこに行くと生きている事が嫌になって、主が一緒にいなければ死んでしまうかもしれませんからね。
それからというもの私は主の執事になる事に成功し、毎日主の世話を甲斐甲斐しく続けていました。
主が呪いで苦しそうなのを見ては私まで辛くなり、寝ているお顔をずっと見ていました。
そんなある日、私は自分の中に欲望が生まれた事に気がついたのです。
主のお側にずっといたい。
主の色んな顔が見たい。
主の全てが欲しい。
主を誰にも渡したくない。
主に自分だけを見ていて欲しい。
主を襲いたい。
─── 主と一つになりたい。
その気持ちにスライムとしてどうなのかと悩みましが、スライムと人が結婚している場合もあることから特に気にならなくなりました。
ならば女性の姿になれば良かったとも、特に思いませんでした。
何故ならば私は、自分の手によって主が乱れるところを見たかったのです。
その姿を想像するだけで、分裂してスライムが生まれてくるほどに……。
そんな日々を過ごしている間、私は主が寝ているのをいいことに様々な事をしてしまったのです。
でもこのままではいつか主にバレて、嫌われてしまうかもしれない。
そう思った私は生み出したスライム達を育てて、主の世話を任せる事にしたのです。
その結果、主の生活はとても改善されました。
その上マテリアルスライムという珍しいスライムも生み出す事ができたのです。
まあ、そのスライムを主が気に入ってしまった事は大誤算ではありましたけど……。
そうして日々を過ごしていくうちに、気がついたら主には何人かの協力者が増えていました。
その事に嫉妬した私は、主に沢山アプローチしたつもりだったのです。
その一つに、私の頭髪部分を軽くプチプチ抜き取り作り出した指輪もありました。
あの指輪は邪な感情を持つものが主に触れると、警告を発し私に知らせるというものだったのです。
でも、そういったアプローチは全く意味をなしていませんでした。
そのことに気がつき絶望したのは、ある日のこと主が突然馬鹿なことを仰ったからでした。
それは主が解呪に必要な素材を集めるために、人を召喚する魔法陣を試していたときのことでした。
何の召喚を私に試したのかと詰め寄ると、主はこう答えたのです。
「ライム悪かった!今のは召喚された相手を一目惚れさせる召喚術だったんだ!!」
その言葉に私は一瞬固まりました。
主は、既に惚れてる相手に何を言っているのでしょうか?
そう思いつつ、その言葉を理解したくなかった私は、主を睨みつけていました。
「……はい?もう一度言って頂けますか?先程行った召喚がなんですって?」
そう聞き返したものの、やはり全く同じ事を言おうとする主に、私の中で今まで我慢してきた理性が外れる音がしました。
そして気がついたときには、わたしは主をベットに押し倒していたのです。
でも全て主が悪いので仕方がありませんと、私はため息をつきました。
「……はぁ、全く主はどうしようもありませんね。何故そんな馬鹿な事を私に言えるのですか?」
「ら、ライム……?」
こうまでしても、全くわたしの気持ちに気がつかない主に、少しのイライラを感じてしまった私は、主が顔を背けないのをいい事に、さらに顔を近づけ囁きました。
「主の呪いが解けるまで我慢するつもりでしたが、ここまで気付いて頂けないとは思っておりませんでした」
「ど、どうした?……俺、また変なこと言ったかな?それなら謝るけど……」
本当にその通りなのです。
だから少しぐらい私の事を気にして下さい。
私の事をもっと考えて、見て欲しいのです。
主、私のものになって下さい。
想いが止まらなくなった私は、超えてはいけない線を超えることに、躊躇いがなくなっていました。
だから私は、少しおバカでそんなところも可愛いらしい主に、つい本音を言ってしまったのです。
「もうすでに惚れてる相手にそんな物使うなんて、主は本当に馬鹿ですね」
主が何かを言いかけましたけれど、私はその言葉ごと主の唇を奪っていました。
それはいつもオデコにするような優しいキスではなく、主を激しく求める私の気持ちがこもったディープキスでした。
数分後唇を離したときには、主は驚きに目を開いたまま固まっていたのです。
もしかすると、このままキスの事さえも忘れてしまったりしないかと思いましたが、それよりもやってしまったことの重大さに、焦った私は咄嗟に紙へと走り書きをして、その場から立ち去ってしまったのです。
やってしまった。やってしまいました。
もう今更後悔しても、どうしようもありません。
それにこれで主が私の事を嫌いになってしまっても、もう仕方がないことなのです。
……ならば主に見放される前に、私は最後にできることをしましょう。
そして考えた結果、主の役に立つためには進化の先に進むことが必要だと気がついたのです。
進化とは無限の可能性があり、いつかは世界の理からも外れる事ができる。
それは有名な話です。ですから私が理から外れる存在になれば、もしかしたら主を救い出せるかもしれません。
そう思った私はすぐにスライム牧場に向かい、スライム達を観察することから始めました。
2日間ほど観察して思ったのは、進化するスライム達は皆魔素や魔力を蓄えて進化に備える事、そして進化前のイメージトレーニングなのか、進化したい魔物の習性を真似し始めるスライムがいたのです。
たまに何の前触れもなく進化する個体もいる事から、それは準備をするかしないかの差なのだと思いました。
ならばとりあえず、私は準備をしっかりすることにしたのです。
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