66 / 110
第五章 兄弟編
ルーディア視点(後編)
しおりを挟む「あなたが、主につきまとう錬金術師ですね」
「す、スライムが喋った……まさかあなたはインテリスライムなのですか?」
「昔はそうでしたが、今は違います。元は人の姿をしていたのですが、新しい進化を試していたらスライムから戻れなくなってしまった結果ですので、この姿で失礼します。私はイルレイン様の執事をしているスライムで、ライムと申します」
イルレイン殿下の執事がスライム?
このスライムが何を言っているのか僕にはよくわからない。
でも、わざわざ僕の前に現れたのだ。
きっと何か用があるのだろう。
「直球に言わせて貰います。これ以上主を傷つけるのでしたらこの場からすぐに立ち去りなさい」
「え?」
「貴方は主のためにとても尽くして下さっているようなので、まあ少しぐらいなら主に触れても許して差し上げようと思っていました。ですが、そんな簡単に諦められるのでしたら、もっとスパッと諦めて下さい」
初めてあった筈のこのスライムは、何故か僕の事を全て知っているような口ぶりで、僕は驚いてしまう。
「諦めろと言われましても……」
「主に嫌われればいいのです」
「そんな事できません!」
「ならばそんなことで諦めない事ですね。ふん、あなたがどう結論を出したとしても私には関係ありません。最後に主と幸せになるのは、この私ですから……」
言いたい事だけ言うと、そのスライムは僕の元から去っていった。
そのせいで僕の心は荒れていた。
どう頑張っても僕ではセイと釣り合わない。
ならば、僕にはもう嫌われるしか道は残されていないということになる……。
そう思い挑んだ僕は、すでに後悔していた。
目の前には涙を堪えるセイが辛そうに座っていたのだ。
それだけで僕の心は激しく揺さぶられてしまう。
正直、僕が嫌われるだけであれば、セイにどれだけ心を傷つけられてもいいと思っていた。
それなのに、どう見ても傷ついているのはセイの方だ。
そして、セイは勢いよく頭を下げた。
でも僕はそんな姿を見たかった訳じゃない。
だから言葉を返せない僕は、心の中でセイに訴えかけてしまった。
「ルーディア、すまなかった!俺が身分を偽ってたことでルーディアを傷つけてしまった」
謝らないで下さい、僕はそんなことで傷ついてなどいません……。
「それにルーディアは貴族が嫌いだから、もちろん俺のことだって……やっぱ嫌いになったよな?」
あなたのおかげで僕はもう貴族を嫌ってなどいないのです。
こんなことなら、もっと早く言っておくのだったと後悔してももう遅い。
「だから俺の呪いが解けたら、もう二度とルーディアには会わないようにする」
そんなこと言わないで下さい。
嫌われたいのに、声を返したくなってしまいます。
「これでもう、最後にするから……」
もう、やめて下さい!
「やめて下さい」
耐えられない僕の気持ちは、ポロリと口からとび出てしまった。
そのことに気がついた僕は、それまで見ないようにしていたセイの顔を見てしまう。
その顔は僕のせいで涙で濡れていた。
そんな姿を見てしまったら僕の感情は、抑えられる訳がなかった。
「そうやって、涙を流して僕の感情を揺さぶるのはやめて下さい!」
その姿に立ち上がった僕は、すぐにセイを抱きしめてしまった。
やはり僕はセイに嫌われるなんて無理だったのだ。
この想いは、僕にも止められないのだから。
そう思った僕は、セイを傷つけたことを素直に謝っていた。
「……こんなことをしてすみませんでした。本当はどんな理由があろうとも、セイを簡単に嫌いになんてなれなかったのです。でも……気づいてしまったから、僕なんかが好きになってはいけない存在だって……だからあなたに嫌われたかったのです。でもそんな風に泣かれたら、僕には我慢できませんでした」
「……ルーディア」
僕の名前を呼ぶその瞳に、嫌悪感は見られない。
だから僕は縋るようにセイを見つめて確認してしまう。
「一つだけ教えて下さい。僕はあなたのことを、まだ好きでいてもいいのですか?」
返事はなかったけれども、揺れる瞳に僕は吸い込まれるように顔を近づけてしまう。
そして頬に手を添えて、そっと柔らかい唇にキスを落とす。
拒むこともしないセイに僕の心臓はさらに高鳴っていた。
今すぐに、セイを本当の名前で呼びたい。
「セイ、いえイルと呼ばせて頂いても?」
「……あ、ああ」
それだけの事なのにとても嬉しくなった僕は、もう一度本当の名前であるイルに向けて、告白しなおすことにした。
「では改めて……イル、僕はあなたが好きです。例えあなたがどんな人間だとしても、その気持ちは変わりそうにありません」
「でも、俺は……」
言葉が続かずに困ってるイルを見て、僕は思った。
今まで気がつかなかったけれど既にイルは、他の誰かから告白を受けている可能性がある。
でも、悩んでいる今はまだそれでもいい。
イルが誰かを決めるその日までは、僕はもう諦めないと決めたのだから。
だから必ずイルの病気を治して、僕がイルの一番になってみせる。
そう思った僕は、その第一歩として魔法陣を試すため、イルとその会場に向かうことにした。
でもせっかくだからと僕はイルを横抱きにする。
恥ずかしそうに少し嫌がるイルが可愛く見えてしまい、幸せを感じてしまう。
そして気がついた───。
イルと一緒にいるだけで僕はもう、孤独を感じなくなっていたのだと。
このままではいつかこの気持ちが溢れすぎて、イルを襲ってしまいそうだと、僕はイルを抱えながらほくそ笑んでしまったのだった。
─────────────────────
これでルーディア視点は終了です。
どうしてもこの回の、とあるシーンが必要で書きました。
無くても大丈夫なのですが、読んで頂いた方ありがとうございます。
次からはイル視点に戻りますのでよろしくお願いします。
27
お気に入りに追加
2,134
あなたにおすすめの小説


光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる