やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた

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第五章 兄弟編

ルーディア視点(前編)

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ここでルーディアの、過去から今までの話を3話挟みます。
突発で入れようと決めたので大変読みづらく、多分飛ばして頂いても大丈夫です。

─────────────────────



side ルーディア












僕は昔からずっと一人だった。

家族には母がいたけれど、病気の母はずっと病室で寝たきりだった。
だから母のために必死で働いていた僕は、常に孤独を感じていたのだと思う。

「ルーディアはルーディアのやりたい事をしなさい」

母はいつも僕にそう言った。
でも当時の僕には母しか縋るものがなかった。
だから母を治すために、大嫌いな錬金術師になる事を選んだのだ。
それから必死に勉強して、特待生としてアカデミーに入る事ができた。

そして入学した後も、僕は必死に努力を続けた。
どうやら僕にはそこそこ才能があり、上手く技術を磨くことができていると実感もしていた。

そして入って一年で、僕は錬金術師のBランク認定を得ることができたのだ。
母を治す薬はAランクのものであり、それがもう目前まで迫っていた。それなのに───。

母が亡くなったと言う知らせを受けたのだ。

それは母が亡くなってから1週間も経った後のことだった。
僕は母のため錬金術師になり、今まで必死でやってきたのに、そのせいで母の死に目を見ることができなかったのだ。


それからというもの、僕は自分の進むべき道が真っ暗になってしまったのがわかった。
そんな僕はすぐにスランプに陥った。

後一歩でAランクの薬を作れそうだったのに、何度やっても全く成功しないのだ。
僕は悩んだ。ここが僕の限界かもしれないと……。
でもせっかく、身につけた知識を無駄にしたくなかった。
それが母のためだと思ったからだ。


そして僕は細々とアカデミーで依頼を受けるようになった。
それも民間の依頼を中心に受ける事にしたのだ。
貴族にしか興味のない高ランク者が、絶対に選ばないそれをあえて選んで、沢山の人を助けるうちに僕は気がついた。

もっと沢山の人を錬金術で救いたい───。

そう思った僕は、ひたすら民間の依頼をこなし続けた。
周りの者からはその事で揶揄われたり、馬鹿にされたりしたけど僕は気にしなかった。
それよりも沢山の人を救いたい。そのことしか頭になかったのだから。


───そして、その人は突然僕の前に現れた。


そのときの僕は依頼を指名で受けたことなどなく、それも相手は初めて依頼をしてきた冒険者だと言うのだ。
僕の中で冒険者のイメージは、荒くれ者の集まりだった。
そのため僕は不信感と少しの恐怖に震えながら、受付の横で相手を待つことにした。

そして現れた人物の姿を見て驚いてしまった。

その姿はローブで身を包み、顔はフードでほぼ隠れているため瞳は見えないが、多分魔法使いなのはわかる。
しかし、フードから溢れる金の髪は美しく輝いているのに、体調が悪いのか隙間から見える顔色はとても白い。
その対比のせいか、とても違和感があった。

それよりも背丈があまり高くないため、その姿が僕には子供のように思えてしまったのだ。
だから僕は疑惑の目を向けて、恐る恐る話しかける。

「はじめまして、僕がルーディアです。貴方が僕を指名した冒険者……?ですか」

そう疑ってる僕に彼はギルドカードを渡してくれた。それを見た僕は顔を青くした。
まさかこの姿で7スターSSランクなんて……。

「俺はセイだ。今回は依頼を受けてくれてありがとう」

そう挨拶をしてくれた彼は、疑った僕に怒ることはなかった。
それなのに僕は、彼が何をしにここに来たのか思い当たらなくて、いまだに不信感を残していた。
しかしその考えは、アトリエに行く途中で彼をおんぶしたことにより、改めることになる。

確かに最初見た時から違和感があった。
青白いほど顔色が悪く、体力もない。
なにより、僕が持ち上げながら歩けるほど軽い体重と、細さ。
見た目はガリガリに見えないのにこの相反する症状に、セイが何をしにここに来たのか僕は察してしまった。

───彼は僕に助けを求めに来たに違いない。

その考えは正解だった。
そして彼が依頼した調合は僕にはまだ出来ないものだったのに、僕はどうしてもその依頼を引き受けたかった。

初対面のセイを何故こんなにも助けたくなるのでしょうか……。

それを考えた結果。
どうやら僕は無意識に亡くなった母と、セイの姿を重ねて見ていることに気がついてしまった。
前は救えなかった。でも今回は絶対に間に合わせて見せる。
そう思った僕は、このときセイを絶対に助けてみせると心に誓ったのだ。


しかしそう決めてすぐ、僕のせいでセイが目の前で倒れてしまった。
それはどうやら病気の症状の一つで、魔力を流したことが原因のようだった。
焦った僕は、最近試しに作っていた『魔力を取り出す薬』を取りに戻る。

あれは常温でしか使えない、しかし保存のために今は冷やして保管してあった。
だからすぐに常温に戻すため口に含むと、それをセイの口に流し込んでいた。

確かに、それは治療のための行為だった。

それなのに僕はセイと別れたあとも、不意にセイと唇が触れた感触を思い出してしまい、そっと唇に触れてしまうのだ。

僕は一体どうしてしまったのでしょうか?
今まで感じた事のないこの気持ち……それにセイのことを考えると、胸が苦しくなる気がします。

そう困惑していた僕は頭を悩ませつつ、とりあえずセイを救うための準備を進めることに集中した。


そして2週間後、素材を持ってきてくれたセイのために張り切って調合を始めていた。
それなのに、僕には上手く調合することが出来なかった。

そして落ち込んだ僕を励ましてくれたのは、やはりセイだった。

そのとき、初めてセイの瞳が金色なことに気がついた僕は、その髪と瞳の色でセイが母と重なって見えていた。
そのせいか、突然僕は無性に母が恋しくなってしまい、セイに盛大に甘えてしまったのだ。

しかし、セイを抱きしめた僕は落ち着くどころか、何故かドキドキしているのかがわかってしまった。

それはとてもおかしなことだった。
そのときの僕は、確かにセイを母親だと思って接していた。だから懐かしくなってセイと距離が近くなってしまったのは仕方がない。
でも、近づくたびにドキドキしてしまうのはおかしい。
母親に対してそんな感情持つはずがないのに……。


少しずつ、知らない感情が芽生え始めている。


そのことに気がついた僕は、気持ちに蓋をするようにその日から、魔法陣の作成に打ち込みはじめた。
そうすると、何故か昔のように必死で新しい事を試せるようになっていた。

そしてついに、僕は母を治す為の薬を作ることに成功したのだ。

その成果を提出したところ、すぐにAランク認定試験を勧められた。
しかしそれを受けるためには、お城で開催されるパーティーへ参加しなければならないようだった。

でもそれは僕にとって、嬉しくない事だった。
その場所は、僕の憎む錬金術師達が媚びへつらっていた貴族の巣窟なのだ。

でもそう思っていたはずなのに、今の僕はそいつらに対してなにも感じていないことに気がついてしまった。
それよりもセイを助ける為なら、権力者に媚びる事だって厭わない。

そう思ってしまう自分がいて、おかしいことに気がついた。
こんな感情は普通じゃない。
ずっと蓋をして見ぬフリをしていたけれど、ずっとわかっていたのだ。

僕はセイを好きになってしまった……?

そうとしか思えない自分がいて、僕は数日間呆然としてしまったのだった。
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