やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた

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第五章 兄弟編

48、ギル兄上倒れる(後編)

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ガイの問いに思考を放棄していた俺は、とある答えにたどり着いた。

あれだ、ガイは純粋そうに見えて意外にあれなのかもしれない。
まあギル兄上がこの年頃だったとき、凄いヤンチャですでにヤリまくりだったらしいからな……。
そんなところまで似ないといいのだけど。

しかし思考を彼方に飛ばしていた俺に、ガイは容赦なく詰め寄ってきていた。

「で、どうなんですか?兄上とエッチできますか?」
「まって、今その話必要?」
「必要ですよ!父上の生死がかかってるんですから……この間父上が言ってたんです。イル様を抱けば全て治るって!」

ギル兄上はブレないというか、そっち方面でも本当に好かれていたことに驚きだよ!?
頭の中でツッコミをいれたおかげなのか、逆に冷静になった俺はしっかりとお断りを入れることにした。

「ガイには申し訳ないけど、それはギル兄上が適当に言ったことだ。だから俺を抱いたとしても、状況はかわらない……」
「そう、ですよね。頭ではわかっていたのですが、父上のことを考えると冷静になれなくて……」

事実を突き付けたことで、ガイは俯いてしまった。
でも俺にガイを励ますことはできない。
だってギル兄上を救う方法を知っているのに、それを教えてあげることも、実行することもできないのだから。

「……イル様、こんな変な話に付き合ってくださってありがとうございました」

ガイ自身も一応さっきの問いがおかしい事に気づいていたようで、それに少し安心してしまう。
でも、無力な俺はガイに申し訳なくて頭を下げていた。

「俺では力になれず、すまない」
「そんなことありませんから、どうか顔を上げてください。俺はイル様に会えて、こうして話せたことがとても嬉しかったので……」

そう言って俺の手を取るガイは、顔を上げた俺をじっと見つめて過去のことを話し始めた。

「とても小さい時のことだから覚えてないでしょうけど、俺は昔イル様に会ったことがあるんです」
「昔?」
「はい、まだイル様が元気だった頃です。初めて見たイル様はとても可愛くて……実は俺の初恋の人だったんです」
「は、初恋!?いや俺男だぞ!」

混乱した俺を見て、ガイは少し可笑しそうに笑う。

「はは……そう思いますよね。でもその日は少し長い髪を下ろしていらしたので、俺は勘違いしてしまったんですよ」
「うぅ……確かに、小さい頃は髪を伸ばして一つにまとめていた頃があったような気がする……それはすまなかった!」
「いえ、俺はそれがイル様でよかったと思っています。だってイル様は、昔と全然変わってなかったのですから。だから再び出会えた事に感謝させて下さい」

そう言って、ガイは素早く俺の手にキスを落とした。一瞬の出来事に俺は何も言えずに、ぼーっとしてしまう。
何よりも俺は、その姿を昔見た記憶があったのだ。


確かあれは4歳ぐらいで、俺がまだ元気に庭園を走り回って遊んでいたときだ。
そこで確かに小さい男の子と遊んだ記憶がある。
そのときの俺は仲良くなってくれたその男の子が、突然手にキスをしたことに余りにも驚いてしまい、その場から逃げ出してしまったのだ。

そしてその後、それがガイと知ることもなく距離を置くようになった。
置いたというか、誰かの手で遠ざけられたような感じだった。

「こうしてあなたにまた出会えたこと、父上のおかげとも言えるのが悲しいところですね……」

その泣きそうな笑顔を見て、ガイは本当にギル兄上の事を父親として大好きなのだとわかってしまう。
だからこそ、今の俺は一体何をしているのだろうと、自分自身に怒りを覚えてしまったのだ。

俺は助ける方法を知っているのに、何もしていない。
でもそれは、父上とギル兄上どちらを選べばいいのか、悩んでいるから仕方がないと思っていた。

本当は、そんなの言い訳でしかなかったんだ……。

だって俺は、今まで父上から見放された存在だとわかりきっていたはずだ。
それに比べて兄上達は、ずっと俺を治す手段を探してくれていた。
ならば選ぶのはどちらなのか、すぐにわかることだったんだ。

だからもう迷わない。
───俺は、父上を討つ。

そう決意した俺は、ガイに向かって口を開いた。

「ガイ、ギル兄上は俺が必ず助けてやる。だからもう少しだけ待っていてくれ」

その言葉に、ガイが目を見開く。
そんなガイを部屋に残し、俺は急いでシル兄上の元へと向かう。

シル兄上はあのとき何かを考えていた。
あの冷たい瞳から考えて、兄上は父上を討ち取るつもりなのだろう。
今はその準備をしているに違いない。

だからこそ、俺はシル兄上の元へと急ぐのだった。
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