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エピローグ
59、竜の嫁
しおりを挟むデオル兄上へ、
お元気ですか。
俺は呪いも解けた事でとても元気に過ごせるようになりました。
そして王都襲撃からもう六ヶ月が経ちました。
あれから俺は竜人になったことにより、国王に担ぎ上げられてしまい、大変な日々を送っています。
そして前国王暗殺についてはシル兄上がかなり無理をして、犯人探しを打ち切る見通しになりました。
デオル兄上がそれでもまだ帰ってきてくれないことはわかっています。
でも俺は兄上のおかげで助けられたのです。
その事を、忘れないで下さい。
なにより兄上と話したいことが本当に沢山あるのです。
だから俺は、いつまでもデオル兄上のお帰りをお待ちしています。
あなたの親愛なる弟イルレインより
俺は手紙に封をして、目の前の人物に封書を渡す。
「ウル、まだデオル兄上の周りをうろちょろするんだろ?」
「もちろんだよ。それに一緒にいたらわかっちゃうよねぇ、彼にも進化の可能性がある事に……!」
「ウルにとって進化できれば誰でもいいんじゃないのか?」
「何言ってるのかな?俺の一番は、そう!イルレイン陛下ですよ」
わざとらしいその言い方に俺は寒気がしてしまう。
「わぉ!そんなに露骨にひかないでよ!」
「お前に陛下呼ばわりされたくないからな……」
「でも俺とイルの契約はまだ残ってるんだからね?イルは上位種になったんだから、ちゃんと約束を守ってよ~」
そうなのだ。俺はすっかり忘れていたが、こいつとの契約『進化したら誓約を結ぶ』を遂行していたのだ。
「わかった……俺はすでに二人、パートナーとして誓約をしてるからそれでもいいなら……」
「もう、イルのハーレム男!でも、それでも許しちゃうよ。俺だって他で遊んでくるしー。主に女の子と!」
その発言に羨ましくなんてない!!と、俺は握り拳をつくり、そこはデオル兄上じゃないのかよ!!
とよくわからないツッコミをいれてしまった。
「じゃあ誓約する前に、イルには俺の本名を教えておくね」
「本名?」
「進化した人間は誓約に本名がいる事もあるから、隠している奴らは多いんだよ?」
それは知らなかったことだ。
というか、俺を進化させた神みたいなやつが適当すぎたのが全部悪い。
「俺の名前は、ウルランディスだよ。これからもよろしくね」
「ウルランディス、こちらこそよろしく頼む……」
「じゃあ、イルは口を開けて目を瞑ってね~」
「あ、ああ」
目を瞑る必要が何処にあるのかわからなかったが、俺は言われた通りにしていた。
そして俺の口にウルの舌が入ってくるのがわかり、咄嗟に口を閉じかけたのにウルの舌がそれを許してくれない。
そしてゆっくりと俺の舌に絡み付いてきたのだ。
「んぅ……っ!」
どれぐらい長いことその口付けをしていたかわからないが、俺の呼吸が苦しくなってきた頃に突然ウルが離れた。
いや、それは剥がされたというのが正しかった。
「うぐっ!!」
「おい、てめぇ俺の嫁に何しやがる!」
目を開けると目の前では、ウルがダンに押さえつけられていた。
そのことに驚いてしまったが、そんなことより俺はダンに言ってやりたいことがあった。
「ダン!誰がお前の嫁だ!!!俺は認めてないからな!!」
「あー、残念だけどそれは諦めろ。お前が認めてなくてもこれは国の方針だからな」
そうなのだ。国王になったのはいいのだが、何故か諸外国には『竜の花嫁』として認識されてしまったのだ!俺、男なのに!!
確かにダンは竜そのものだし、俺は竜人だけども!
そんなのってないよ!!
それでたまに他国の人が来ては、俺の姿を見てガッカリするところまで、デフォルトになってしまっているのだ。
別に俺は自分で花嫁なんて名乗ってない!!
確かに、ダンとはもうすでにアレコレしている仲になってしまったけど、でも花嫁じゃない!!
そしてもうこの国はドラゴンに守護された国でもない。現在この国はスライムの守護によって守られている。
だけど、スライムなんてという輩がいるので、表向きには竜に守られた国のままなのだ。
「でも俺だけは絶対に認めない!!」
「なら、スライムの嫁だったら許したのかよ……」
「え?」
ボソッと呟いたダンの言葉を俺は聞き逃してしまった。
そんな俺たちに割って入るように、床から叫び声が聞こえた。
「君たち酷いよ!!今日はデートだったのに!」
「ダン……」
「わかった!」
「うべぇっ!!!」
俺が頷くと、ダンはウルの顔を更に床へとくっつけたのだ。
「今回はお前が悪い、誓約が完了してたのにいつまで経ってもイルから離れなかったからな」
「え!?そうだったのか……」
「いいじゃないか、少しぐらい!君たちはさらに進んだことしてんだろ?俺は知ってるんだからな!」
「わぁー!!わぁー!!頼むからそれ以上言わないでくれ!!!」
俺は恥ずかしさの余りダンに抱きついてしまった。
でもすぐにそれが失敗だったと気付いてしまう。
「お!イルは積極的だなぁ。よし、今からヤリにいくか!!」
そういうと、ダンは俺をお姫様抱っこした。
そしてウルをその場に残し、抵抗する俺を無視してダンは寝室へと歩き出したのだ。
「まてまて!誰もそんなこと言ってないからとにかく下ろせ!!」
「そんなこと言って抵抗しても無駄だぜ。俺はイルが今日の業務をすでに終わらせてる事を知ってるんだからな。そしてそれは、俺のためなんだろ?」
「そ、そうだけど……」
「ならいいじゃねえか。それに今日の夜、イルは神殿にいっちまうだろ……?」
確かに今日の夜、俺は神殿に向かう。
だからなのか見上げたダンは少し寂しそうに見えてしまい、その顔を見た俺は大人しく連れて行かれることにしたのだ。
それにダンの言うとおり、本当にそのために時間を空けてあったのは事実だったから……。
こうして観念した俺は、ダンと寝室へ向かったのだ。
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あの日、すぐにパートナーの誓約をした俺達だったが、俺の誓約にある『愛してくれる人としか生きていけない』という謎の条件には、どうやらそれが必要だったのだ。
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だから俺はいつもダンに甘えてしまうのだ。
こうして俺は、今日も気を失うまでダンと体を重ねてしまった。
でもこの後、俺が誓約したもう一人の相手に今日の夜会いに行く。
だから俺は体が持つのか少し不安になりながら、意識をゆっくり覚醒させたのだった。
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