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第六章 解呪編
57、進化
しおりを挟む進化すると思いきり言ったは良いが、俺にはその方法が全く思いつかなくて焦っていた。
そんな俺の心情がバレているのか、二人は俺の様子を見守っているようだった。
そして今俺は考えていた。
進化するって言っても、何の情報もないのにどうしたら良いんだ俺!?
だけど今はとにかく考えるんだ俺!
確かスライムが進化するときは、魔素や魔力を溜めてそのエネルギーを使って進化していたはずだ。
なら、俺には膨大な魔素が存在しているからそれはクリアできているはずだ……。
じゃあ、あと何が必要なんだ?
悩み続ける俺は何かヒントを!と周りを見回してみたが何もない。
俺の身につけているもので何かないだろうかと、俺は自分のピアスに触れていた。
その瞬間脳裏に、突然声が聞こえた。
『いいかイル、お前が進化する方法が一つあるぜ』
この声に聞き覚えがあった俺は驚いた。
喋り方に声……それは俺が本当に望んでいたものだったから。
しかしその人物は、今俺の前にいるはずなのに、いったい何処から話しかけてきているのか?
そう思い、咄嗟に俺はダランティリアを見てしまった。しかし俺に話しかけている感じはない。
だから俺は脳裏に響く声に問いかけた。
『お前は……俺の知ってるダンなのか?』
『一応、な。今はお前がつけているピアスの中に留まった、ただの思念体だ』
俺はダンと別れる直前に、確かにピアスを触られた事を思い出していた。
そして二人に悟られないように、俺はそっとピアスを触り続ける。
『もしかしてあのときに……?』
『そうだ。まあ思念体だから俺はすぐにここから居なくなるけどな』
『そんな……ようやく本物のダンだと思ったのに』
『何言ってんだ、本物なんてないさ。だって俺はあいつの中にちゃんといるからな。だけどお前にこれを伝えるために、俺はこの想いをピアスに閉じ込めたんだ。だから、今は俺を信じてくれ』
まさかダンが俺を助けようと考えていたなんて思っていなくて、俺はとても嬉しくなってしまった。
だから俺はダンに伝える。
『もちろん俺はダンを信じる。だから教えてくれ、進化の方法を!』
『……そうか、信じてくれてありがとな。じゃあ、教えるからよく聞けよ。進化する方法は、そのピアスの真ん中にある俺が付けた宝石を飲み込むだけで良い。それには当時の俺が持っていた魔力を全て注ぎ込んである。ドラゴンの一部だって知らなかった俺のな……』
それはつまり、この宝石はそうとうな魔力エネルギーを持っているわけで……それもドラゴンの力が宿ってるというのだ。
『お前の桁違いの魔素と俺の残したドラゴンの力があれば、進化なんて簡単に出来ちまうさ』
『でも、そうしたらダンの意思は……』
『だから言っただろ?俺はあの男の中で、お前を想ってるって。だからちゃんとあの男にも目を向けてやってくれ。それとできたら、自分を犠牲にしてでも全てを救おうとしているあの男の事も救ってやってくれ』
『それってどう言う……』
もしかして、ダランティリアはまだ何かを隠しているとでも言うのだろうか?
『大丈夫、お前ならわかるさ。あー、もう時間みたいだから今度こそじゃあな───』
『だ、ダン!待って、ダン!!』
心の中で叫んだ俺の声に、もう返事は無かった。
そんな俺の瞳から気がついたら涙が溢れ落ちていた。
「イルレイン様?何故泣いておられるのですか……?」
先程は威勢よく宣言したのに、無言になったと思ったら涙を流し始めた俺は、どう考えてもおかしいのだろう。
そして、おかしいのは俺だけじゃなかった。
「なんだ……?何かを思い出せそうで思い出せないこの感じは……」
ダランティリアが俺を凝視しながら呟く。
その瞳は俺ではなく、どうやらダンにもらったピアスを見つめているようだった。
その姿にダンの言葉を思い出す。
ダランティリアは全てを救おうとしている。
確かに俺はずっとダランティリアの行動には、おかしなところがあると思っていた。
だって呪いを解いて自由になったのに、俺を手に入れるためだけにここにとどまり続けているのだ。
本当ならとっととこの空間から立ち去って自由に生きていけばいいのに……。
そしてライムには、イルが一緒なら封印されてやるなんて言い方……なんだか元から封印される事が決まっているみたいだ。
それはつまり、自分を悪役にしたてて全部自分で背負い込んで、最終的に封印されるつもりだったのではないだろうか?
そう思えば全て納得できる俺がいた。
だから涙を拭って、俺はダランティリアに真っ直ぐ歩いて行く。
その様子に戸惑うダランティリアと、「イルレイン様!?」と叫ぶライムの声が聞こえた。
でも俺は気にせず目の前にいる、ダンに向かって抱きついた。
ここにいるのはダランティリアだけど、ちゃんとダンなんだ。
「イル?一体どんな心境の変化だ……?」
「ダン、お前じゃないなんて言って悪かった。俺は都合の悪いところしか見てなくて、お前自身を見てなかった。でも俺は気がついたんだ、ダンは全部背負込もうとしていたんだろ?」
「…………………」
もとから第5王子と聞いて違和感を持っていた。
確かあの王子は父親さえも殺せなかったお人好しだったはずだ。
それなのに、こんなこと何かを犠牲にして行うわけがないのだ。
きっと、もう耐えられないブルーパールドラゴンの代わりに、自分自身を捧げるつもりだったのだろう。
それも俺達からわざわざ嫌われるようなことをしてまで……。
でも、俺はそんなことさせやしない!
ダンから離れると、俺は右耳についていたダンのピアスを外し、その真ん中につけてある宝石を取り外した。
「それは……?」
「これはダンから貰ったものだ!二人は俺が進化するのは絶対に無理だと思ってたみたいだけど、俺にチャンスを与えてくれた男を救い出すために、俺はもう迷わない!!」
「イルレイン様、何を……!?」
俺は取り出した宝石を勢いよく飲み込んだ。
「くぅっ!!!」
一瞬の熱とともに、俺の体が輝き出すのがわかる。
そして、俺を暖かな何かが包み込んだ。
『おめでとうございます。あなたは新しい体を手に入れました』
眩しい光のなか、誰かが俺に語りかけた。
これがウルが言っていた神のような存在?
『さて、その体には誓約と契約が必要になります。あなたは何を望みますか?』
「俺は、もし皆と幸せに生きられるならなんだっていい……」
『では、あなたには【愛してくれる人としか生きていけない】という誓約を、そして【あなたを愛してくれる人】に契約をする権利をあげましょう。それとあなたはすでに色々なことを知っていますね。ですので説明は省いて帰ります。さようなら』
「え!!?」
なにその怖い誓約と契約!?
それになにその適当な説明!!!
「ちょ、ちょっと今のなし!変えてください!!」
叫んだ俺の願いは聞き届けられることなく、光は収束していった。
そして、完全に光が無くなった俺の姿は……。
「角と尻尾がある……」
それは間違いなく、俺の父上が作り出そうとしていた存在。
竜人そのものだった。
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