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第五章 兄弟編
50、父上と兄上(前編)
しおりを挟む粉々に砕け散った玉座に驚いた俺たちは、崩れ落ちた床を見ていた。
「この部屋の状態から、すでにデオルは父上を討ち取っている可能性があります」
「でも、これをデオル兄上が全てやったというのですか?」
「イルは知らないでしょうが、デオルは騎士団の団長とやりあえる程の実力の持ち主です」
確かに体はガッシリしていると思ったことはあるけど、そこまでだったとは……。
「そしてこの下には、以前使った魔法陣がそのまま存在しています」
「まさか!!」
「もしかすると魔法陣にも何か起きている可能性があります。デオルの事も気になりますので、急いで下の階に向かいましょう!!」
部屋を出ようとしたところで、バレン兄上が目の前に立ち塞がった。
「待って下さい。僕は状況が全く理解できていません。ですが説明を聞いてる暇も無さそうなので、ここに残ることにします」
「バレン?」
「大丈夫です。誰か来たときに下の階へ行かないようここで足止めをするつもりですから。だから、デオル兄上のことよろしくお願いします」
「わかりました。ですがバレン、いいのですか?ここに残るという事は、場合によってはこの惨事をあなたが起こしたと見なされますよ?」
シル兄上は少し心配そうにバレン兄上を見る。
それにバレン兄上は笑顔で答えた。
「僕なら、大丈夫です。不思議な話をして相手を引き止めるのは得意ですから!」
「……まあ、あなたなら上手くやれると信じていますが、身の危険を感じたらすぐに逃げるのですよ?」
「わかっています。シル兄上とイルもお気をつけて……」
二人は頷きあうと、別々の方向へと歩き始めた。
そしてバレン兄上をその場に残した俺たちは、真下にある大ホールへと向かったのだった。
大ホールに入った瞬間、そこは光に包まれていた。
部屋中が祝福の鈴の音で満たされ、あとは刻の調律を使うのを待っている状態なのだろう。
そんな魔法陣の真ん中に、目的となる人物は立っていた。
そしてその下には、横たわる男性の姿が……その周りには遠くからでもわかるほど血溜まりができていた。
「デオル!!」
「父上!?」
俺たちは叫んだ。
そして駆け寄った先では、デオル兄上が見た事もない程冷たい瞳を父上に向けていた。
「デオル、何故私の指示を待てなかったのですか?」
「シル兄上は何を言っているのですか?そんなの決まってるじゃないですか、ギル兄上をそしてイルを今すぐにでも救いだすためですよ?」
それがさも当たり前のように首を傾げるデオル兄上に、俺は恐怖していた。
しかしシル兄上は気にせずに、デオル兄上へと詰め寄った。
「それにしても計画性がなさすぎです。これではあなたが反逆の罪で殺されてしまいます!」
「いいんです。俺は兄弟達が大好きですから、だから兄弟のためならどんな事だってできるんです。それに俺から見た父上は、この世で一番最低な人間だから、大嫌いだったんですよ……」
そう言いながら、デオル兄上は父上に再び剣を突き刺していた。しかし父上はもう動くことはなかった。
もう父上は……。
「でも父上はもう死にました。俺がやったんですよ?正直俺はこれで解放されます」
「デオル、あなたは何を言っているのですか?」
「シル兄上はご存知でしたか?父上が私達にしてきたことを!」
目が血走り叫ぶデオル兄上は、俺の知っている兄の顔ではなかった。
一体兄上は何を知っているというのだろう?
そしてデオル兄上は父上に向けて叫んでいた。
「王位を継げ言われたあの日から、俺は毎日が地獄だったんだ!!!」
「「!?」」
その言葉に俺達は驚きに目を丸くした。
だってデオル兄上が王位継承を告げられていたなんて、誰も知らなかったのだ。
それに俺がデオル兄上に王になって欲しいという答えには、いつも否と言っていたから……。
その兄がまさかと思ってしまうのは、仕方がないことだろう。
そして兄は話始める。この国の暗黒部分を……。
「知っていましたか?この国では昔からある実験が継続的に行われていました。それは『竜人』を意図的に作り出す実験でした」
「竜人?」
「そのために利用されていたのは、封印されたブルーパールドラゴン。そして私達のように王族として生まれてきた子供達なのです」
「私たちが、実験体ですって?」
驚くシル兄上と同様に俺も内心驚いていた。
だって過去の第5王子達の話にはそんなことは書かれていなかった。だとするならば、それは最近行われ始めた実験なのかもしれない。
「その通りです。なにより俺のこの強さは、その結果手に入れた物です。そしてギル兄上はカリスマ性を、シル兄上は知恵をバレンは芸術、それぞれ違うものを持っています。でもそれは、特出し過ぎているとは思いませんか?」
「ですが、私は実験された記憶など……」
「子供の頃の記憶は改竄されたものです。その結果、私達兄弟の仲が本当は良かったという記憶さえも、抜け落ちてしまいました。だから私達には、イルとの思い出しか残されていない……」
記憶改竄も行っていたことにシル兄上は信じられなさそうに目を見開く。
俺も驚いていたが、一つ納得した事があった。
兄弟全員が何故こんなに俺を溺愛しているのか、凄く不思議に思っていた。
でもそれは、俺との記憶しかないことが原因だったんだ……。
それにしても今のデオル兄上の話では、他の兄弟には役割があった。
それなら俺は一体なんなのだろう?
俺の役割は───。
「デオル兄上、では俺は……」
何のために生まれたのだろうか……?
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