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第五章 兄弟編
49、兄達との会合
しおりを挟む父上を倒すと決めたその日、俺はシル兄上と話し合いをした。
シル兄上は俺の話を聞き終えると、非難することなく優しい笑みを見せてくれた。
「その言葉を待ってました」と言ったシル兄上は、今度兄弟全員を集めて話し合いをするから、大人しく待っていて欲しいと、俺に伝えたのだった。
そして今、俺の前には俺を含めた5人の兄弟が集まって……いなかった。
「デオルは遅刻ですか?それからギル兄上は、症状が悪化しているようで、動くことはできないみたいですね」
「えっと、予定を無理矢理キャンセルしてここに来たのだけど、一体全体どうなっているんですか?マイブラザー!?」
冷静に話しをしているシル兄上に、バレン兄上がテンション高めに質問する。
本当なら4人で集まる予定だったのに、ここには3人しかいなかった。
「ギル兄上と、デオルにはすでに話をしてありますので、まあいいでしょう。話を通すのはバレン、あなただけです」
「そんなかしこまって、何なんですか?もしや、これはギル兄上が倒れたことに、関係があるとでも言うのですね!」
「その通りです」
バレン兄上は結構適当にみえて、察するのは早いようだった。
「私たち兄弟は、ギル兄上を救うために父上を討ち取ることを決めました」
「な!?何を馬鹿なこと言っているのですか!?」
「馬鹿なことではありません。あなたは初めて聞くから驚くとおもいます。実は王族として生まれてきた者達は、昔からずっと呪われていたのです」
「ええ!?僕は呪われていたのですか!?」
驚いたバレン兄上は立ち上がり、自分の体におかしいところがないか、確認しようとする。
しかし呪いが目に見えるわけもない。
「その呪いのせいで、私たちは30を超えると死ぬ可能性があります」
「しかし、父上は……」
「王になった者は最強の加護を得ることが出来ますので、それで呪いの効果を打ち消しているのでしょう。それに確認したところ、王位を継承した者以外は確かに早死にしていました。そしてその呪いを解く唯一の方法が、父上を……国王を討つことなのです」
少し声を震わせるシル兄上は、本当は父上を討たないで済むならそうしたいのだろう。
でも俺達は事実を知って、兄弟を見殺しにできるわけがなかった。
「私たちの中で生き残れるのは、王を継承する者だけです。ですが私は、それでいいとは思えません」
「なら僕は死ぬことが確定していますね!もう一つ気になったのは、その呪いが解ければイルも助かるのかどうかです」
シル兄上にアイコンタクトを送ると、大丈夫だと頷いてくれたので、俺は口を開いた。
「バレン兄上の言う通りです。俺の呪いを解くためにはそれが必要不可欠だと……」
「イル、それは誰に聞いたことなんだい?」
「この国の守護竜であるブルーパールドラゴンからです」
「なんだって!?それはミラクルファンタスティックじゃないか!イルはブルーパールドラゴンに出会ったのだね。そんな奇跡が起きたのなら、私はそれを信じるしかないじゃないか……!」
テンションを更に上げて興奮するバレン兄上に少し引きながらも、ブルーパールドラゴンの存在を認めてくれたことに安堵した俺は、改めてバレン兄上を見つめた。
「バレン兄上は、俺たち兄弟と一緒に父上を討つことに協力して頂けますか?」
「バレン、あなたの力が私たちには必要なのです。どうかお願いします」
「…………」
無言で俺とシル兄上を交互に見たバレン兄上は、何かを納得するように頷くと、俺たちに向けて話始めた。
「実はここにくる前から、今日の話は賛成するべきだと僕は直感で思っていたのですよ」
「と、いうことは……?」
「ええ、僕も兄弟達を見殺しにはできません。僕達は仲が良くないのだと思っていましたが、そんなことはなかったのですね……なんと美しい兄弟愛!!これは生き残ったら創作意欲がバンバンですね!」
手を強く握ったバレン兄上は、覚悟を決めたのか俺達をキリッと見つめた。
そしてテンションの高い話し方ではなく、今までに見た事もない冷静な態度で話し始めたのだった。
「それで、父上を討つということは反逆者になるということですが、シル兄上はどうされるつもりですか?」
「それについてですが、父上は実際あまり良い王だと国民から思われてないようなのです」
「確か俺が倒れる前は、とても優秀な王ではなかったですか?」
俺が知っている父上は、少しギル兄上に似た唯我独尊タイプだったはずだ。
「確かに昔はそうでした。しかし、イルが倒れたその後から父上は変わってしまったのです。なによりイルだけではなく、私達の誰とも会わなくなってしまいました。そして王としての勢いもともに無くなってしまったようなのです」
「では、父上が無能な王であると根回しをして、革命でも起こすおつもりですか?」
「いえ、それでは時間がかかり過ぎてしまうため、ギル兄上が生き延びれないでしょう。ですから、父上を暗殺することにしました」
革命を起こせば俺たちは誰も罪を被らなくて済むだろう。
でもそれでは、ギル兄上が間に合わないこともわかっていた。
だから俺たち兄弟は、暗殺によって早さを取ることにしたのだ。
「これが成功した場合、もちろん犯人探しが行われるでしょう。ですが、私達兄弟全員でアリバイを作ればいいのです。それに封印が解かれた後、ブルーパールドラゴンが復活する可能性もあります。ですからこの国がどうなるかはわかりませんし、大混乱に陥る可能性もあるでしょう」
「シル兄上、ブルーパールドラゴンが復活すると言うのは初めて聞きましたよ。確かに、もしそうなってしまったらこの国は大混乱が起こるでしょう。ですが、それでも私はその計画に賛成します」
「バレン、まさかあなたが同じ志を持ってくれるとは思ってもいませんでした……私達兄弟のために、ともに頑張りましょう」
二人は握手を交わし、強く頷き合った。
でもこれが、この国の王子として最低な行動ということは、皆わかっていた。
なにより俺たちは、自分達のためだけに国を破滅させるかもしれない、ダメな王子達なのだ。
でも国のために犠牲になるなんて、それこそ馬鹿げている……。
だからこそ、呪われた一族なんて俺達で終わらせてみせる。
そう思っていると、握手を終えたシル兄上が改めて作戦会議の続きをしようと、口を開いた。
「では細かい計画はデオルがこちらに来てからでいいでしょうか?……何でしょう、外が騒がしいですね」
そうシル兄上が疑問に思った瞬間、衝撃音が遠くから響いてきた。
─── ズドオォォォォン……。
「「「!?」」」
突然聞こえたその音と少しの揺れに、俺達は驚いていた。
そして人の動き回る足音が徐々に騒々しくなっていく。
「今度は一体なんでしょうか?」
扉の外に誰かが立っていることに気がついたシル兄上は、そちらに近寄る。
どうやら、シル兄上の侍従が外にはいるようだった。
「どうしました?」
「た、大変です!?で、デオルライド殿下が……」
「デオルが、どうしましたか!?はっきり言いなさい」
その侍従は言葉を詰まらせて、どうにか言い切った。
「デオルライド殿下が、国王陛下に対して謀反をおこしました!!」
「なんですって……!!?」
その発言に驚いた俺たちは、急いで国王陛下である父上の元へと向かうことにした。
そして辿り着いた玉座の間は、元の姿がわからないほど粉々に砕け、床が崩れ落ちていた。
しかしそこには、誰の姿も見当たらなかったのだった。
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