やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた

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第五章 兄弟編

47、竜と魔法陣(前編)

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ルーディアにお姫様抱っこされたまま、俺達はある場所に向かっていた。

それはこの王宮で国王が座るための玉座、その真下の階にある大ホールだった。
この大ホールは、国王による催しを執り行なうための場所であるため、本来ならば何も無い時期に入る事は不可能である。
しかし今回は、兄二人の根間しによってコッソリ入り込む事ができていた。


俺たちがそこにたどり着いたとき、そこにはもうすでに巨大な魔法陣が描かれていた。 
そのため、4人しかいないこの大ホールはあまり広く感じなかった。

「イル、来ましたね」
「ルーディア、イルをここまで連れてきたこと感謝する。しかしここからは俺がかわってやろう」

そこにはシル兄上と、ギル兄上が俺達を待っていた。
そして俺はよそ行きのギル兄上に驚きつつ、抗議の声を上げる。

「ギル兄上、お気遣いありがとうございます。ですが、もう歩くこともありませんので抱っこは遠慮します。だからルーディアも、俺を下ろしてくれ」
「そうですね、わかりました」

優しくおろしてもらった俺を見て、ギル兄上が少し不満そうにこちらを見ていた。
その瞳を俺はスルーして、シル兄上を見る。

「それで、この魔法陣はどうしたのですか?」
「これはそこにいらっしゃるルーディアが、1日かけて描いてくれたものです。たいしたものですよね、このような魔法陣は宮廷魔術師でも簡単に描けないでしょうに」
「ルーディアは魔法陣を描くのがとても得意なんですよ」
「それは素晴らしいことですね」

ルーディアが褒められた事が嬉しくて、俺は自分のことのように誇らしく言ってしまった。
そのことにハッとルーディアを見ると、少し気恥ずかしそうにしていた。
だから俺まで恥ずかしくなってしまって、それを誤魔化すように目線を逸らし、ずっと気になっていたことをシル兄上に聞いてみた。

「そ、それで気になっていたのですが、本当に守護竜の封印を解いても大丈夫なのでしょうか?この国がなくなったりとか……」
「突然なくなることはないでしょうね。しかし何かが起こることに備えて、冒険者ギルドに話を通しておきました」

もしかして、ウルが今日いない理由はそのせいなのではないだろうか?
そう考えていると、ギル兄上が横から話に入ってきた。ついでに俺を引き寄せようと腰を掴まないでほしい。

「イルは冒険者をしていたから他の仲間が心配なのかもしれないが、今回は最強の男を配置してもらったから安心するがいい」

心配している相手が、多分その最強の男だと思うとは言えない。
そして腰を掴まれたので今の俺はギル兄上の側に立っていた。

「では、封印を解く前にイルが集めた素材についての説明をしましょうか」

そう言うと俺を挟んだ反対側に立っていたシル兄上が、今度は俺の肩を抱き寄せる。
そのせいでギル兄上の腕からは逃れたけど、そんなギル兄上は眉をピクリと動かしていた。

正直、そんな二人に挟まれた俺は恐怖で動けなくなってしまった。
どうして、この兄上達は俺を奪い合うの!?
助けて、ルーディア!と視線を向けたのに、当のルーディアは魔法陣の準備を忙しそうにしていた。

半泣きの俺は仕方がなく、シル兄上に肩を抱かれたまま説明を聞くことにした。

「ルーディアに聞いた話をそのままお伝えしますが、まず『ホーリードラゴンの角』、『聖霊樹の木の実』、『妖精の鱗粉』はこの魔法陣を描くための魔術インクの素材でした」
「この巨大な魔法陣は描くだけじゃダメなんですね……」

まさか魔術インクの素材となるなんて、普通気づかないだろう。
もし文献がなければ、ルーディアがそこに辿り着けたかどうかも怪しい。

「ドラゴンの封印を解くには、普通の物ではやはりダメなのでしょうね。そして次に『悪魔の溜息』ですが、これを魔法陣の中心に置いた後、その上から『女神の涙』をかけます。そうすることで『悪魔の溜息』の石化が解け、そのときに生まれるとされる浄化エネルギーを魔法陣に行き渡らせるのだそうです」
「そんなエネルギーが存在するのですか?」
「実証されている訳ではないようですが、文献には成功した例が載っているのですから、信じるしかないのかもしれませんね」

確かにそうだと思っていたら、またギル兄上が近づいて来た。そして肩を抱くシル兄上などいないかのように、またもや俺の腰を掴む。
その行為に俺よりも早く、シル兄上が抗議の声を上げる。

「ギル兄上、まだイルに話している最中ですから、邪魔をしないでください!」
「シルこそ、イルの肩を抱いたまま話す必要はないだろう。早く手を離せ」
「それはこちらのセリフです!いやらしくイルの可愛い腰を掴まないでください」

頼むから俺を挟んで言い合いを始めないでくれ!
そう思っていると、正面から俺を奪い去るように手が伸びてきた。

「『祝福の鈴』、『刻の調律』の使い方は、実際に見てもらうのが早いと思いますので、魔法陣の真ん中に移動しましょう」

いつのまに戻ってきたのか、ルーディアは二人の兄から俺を救い出し、当たり前のように抱き上げていた。
魔法陣の真ん中までなら一人で歩いていけるけど、あの二人の兄に挟まれるより、ルーディアに抱えられる方がマシだと思ってしまった。

「ちっ、しかながない。さっさと行って早くイルをおろすんだな」
「そうですね、早くいきましょう」

そういうと、二人は俺達を置いて先に行ってしまった。

「面白い方々ですね。でも、僕もイルを取られたくありませんから」
「ルーディア……」

そう言ってニッコリ笑うルーディアに、俺の心臓は跳ねていた。
そして徐々に顔が赤くなるのがわかってしまう。

いやいや、窮地を救い出されたから余計にカッコよく見えてしまっただけに違いないから!
それにルーディアは忘れてたけど美青年なんだよ。
だから、それでドキドキするだけだ……そうに違いない。

そう自分に言い聞かせたものの、やはり恥ずかしくて顔を背けてしまう俺は、嬉しそうに笑うルーディアにゆっくりと運ばれるのだった。
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