やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた

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第五章 兄弟編

46、ルーディアと俺

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ルーディアと兄上二人が俺を救うための話し合いを進めた結果、ついに魔法陣を試す日が来た。

そのため、俺の部屋にルーディアがやってくるそうだ。
まあ兄二人は俺の部屋に出入り禁止だから、ルーディアが迎えに来るしかないのだろう。

そしていまだにライムが俺の元に帰っていないので、ルーディアと鉢合わせすることがなくてある意味良かったのかもしれない。
それから今日はウルもいない。どうやらギルドに呼び出されているそうで、当分帰ってこないらしい。


そんなわけで、俺とルーディアは今二人だけで部屋にいる。
ノックをして静かに入ってきたルーディアは、俺と机を挟んだ向かい側に座っていた。
そんなルーディアを見て俺は冷や汗を流していた。

どうしよう空気が重い……。
ルーディアが向かいに座ってくれたのはよかった。
でもそれから一言も喋ってくれない。
やっばり俺から切り出さないとダメだよな。

そう思ってはいるものの、時間だけが過ぎていくことにただ焦ってしまう。でも頭ではわかっているのに中々言葉が出てこないのだ。
そうこうしている間にさらに数分経ち、とうとう無言の圧力に耐えられなくなった俺は、恐る恐る口を開くことにした。

「る、ルーディア。今日は来てくれてありがとう」
「いえ、イルレイン殿下のお部屋に招待していただけるなんて、まことに光栄です」

返事をしてくれたことに少しホッとしたが、ルーディアにイルレイン殿下と呼ばれたことに胸が痛む。
そんなルーディアはずっと無表情のまま、俺と視線を合わせようとしてくれない。

「そんな畏まらないで、いつもみたいにセイと呼んでくれないか……?」
「それはできません。私は平民、あなたは王族なのですから」
「そうだとしも、俺達に身分なんて関係ない。今まで一緒にやってきた仲なんだから……。それに俺は、ルーディアがいたからここまで頑張ってこれたんだ。もしルーディアと出会っていなかったら、きっと全てを諦めて死んでいたかもしれない……」

もしも、いまだに錬金術師であるルーディアに出会えていなければ、先が見えない状況にもう全てを諦めていた可能性は充分ある。
なにより、これまでルーディアが俺のために頑張ってくれた姿は、俺自身を励まし支えてくれていたのだ。

「だから、俺を救ってくれたルーディアと、距離を置く関係になりたくないんだ……」

そう言葉にしただけなのに、俺の目には涙が溜まり、声が震え始めていた。
出会った当初は、ダメなら後腐れなく別れようと考えていたのに、今ではルーディアと心の距離が開いたことに、こんなにもショックを受けている。

でもきっと、俺にそんなことを言う資格なんてないのだろう。
だって俺に騙されていたルーディアの方が、もっと傷ついているはずなのだ。
だからこそ俺は誠心誠意謝罪をして、決断はルーディアに任せることにした。
俺はそう決めて、ルーディアに頭を下げる。

「そのために、まずは謝らせてくれ。ルーディア、すまなかった!俺が身分を偽ってたことでルーディアを傷つけてしまった。そのことは本当に悪かったと思ってる。それにルーディアは貴族が嫌いだから、もちろん俺のことだって……やっぱ嫌いになったよな?だから俺の呪いが解けたら、もう二度とルーディアには会わないようにする。だから、今だけは前と同じように接してくれ。これでもう、最後にするから……」
「やめて下さい」
「……え?」
「そうやって、涙を流して僕の感情を揺さぶるのはやめて下さい!」

立ち上がって叫ぶルーディアは、何故かこちらに来たと思ったら、その勢いのまま俺を抱きしめた。
俺のことを嫌いになったはずのルーディアが何故?
理由がわからず、戸惑ってしまう。

「……こんなことをしてすみませんでした。本当はどんな理由があろうとも、セイを簡単に嫌いになんてなれなかったのです。でも……気づいてしまったから、僕なんかが好きになってはいけない存在だって……だからあなたに嫌われたかったのです。でもそんな風に泣かれたら、僕には我慢できませんでした」
「……ルーディア」

顔を上げると、紫色の瞳が俺を見つめていた。
その瞳から俺は目が離せない。

「一つだけ教えて下さい。僕はあなたのことを、まだ好きでいてもいいのですか?」

そう言うとルーディアの顔が、ゆっくり俺の顔に近づくのがわかった。
そして頬に手を添えたと思ったときには、そっと唇と唇が触れあっていたのだ。
それなのに俺は何故か拒むことも出来ず、何も言うこともできなかった。

「セイ、いえイルと呼ばせて頂いても?」
「……あ、ああ」
「では改めて……イル、僕はあなたが好きです。例えあなたがどんな人間だとしても、その気持ちは変わりそうにありません」
「でも、俺は……」

俺は自分の気持ちがわからないのだ。
ダンも、ライムもそしてルーディアのことも、俺の心は優柔不断でわけがわからないのだ。
言葉が続かずに困ってる俺の頭を、ルーディアは優しく撫で始めた。

「前も言いましたけど、返事はいりませんから。今の僕にはイルに拒まれなかったこと……それだけで幸せですから」
「ルーディア……すまない」
「そんな謝らないでください。それに謝らないといけないのは僕も同じですから。僕はイルに嫌われようとして、そのせいでイルを傷つけてしまいました。でも今からは違います。イルを救うために、僕の全てをかけて準備してきましたから……だから、一緒に向かいましょう、運命の場所へ」

そう言うと、ルーディアは俺をお姫様抱っこして、この部屋を出ようとした。

「ルーディア、お姫様抱っこで向かうのはちょっと!」
「前も言いましたよね?縁担ぎだって。これで前は成功したのですから、今回も上手く行くはずです」

そう言われたら、断ることなんかできなくて俺はルーディアにお姫様抱っこされたまま、兄上達の元まで向かうことになった。

この体勢は凄く恥ずかしいはずなのに、それよりもルーディアが俺を嫌いにならないでいてくれた。
そのことがとても嬉しくて運ばれている間、俺はついルーディアの顔をじっと見てしまったのだった。
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