やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた

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第五章 兄弟編

41、王国でのパーティー 

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その日、俺はベットで横になっていた。
だから全く知らなかったのだ。
今日がパーティーの当日であることを。


「イルー!今日はパーティー当日だけど、そんな体調で出られるの?」

ウルにそう言われて初めて今日がパーティーだと思い出した俺は、パニックになっていた。

し、しまったーーーー!!!!
パーティーの日、忘れてた……。

本来ならば、その日に動けるように下準備をしておく予定だったのだ。
それなのに最近の俺は恋だとか、愛だとか悩みに悩んでいたせいで、すっかり忘れてしまっていた。

「ウル、なんで当日にしか教えてくれないんだよ!」
「え?イルなら覚えてるかと思ってたんだけど……まぁ、最近あんな事があれば忘れても仕方ないよね」
「仕方なくない!!いや、俺が悪いのは間違いないけど……どうしよう?」

慌てた俺は、とりあえずベットから出て立ち上がる。
一応立てるし、少しなら動けそうだ。

「病欠じゃダメなの?」
「当たり前だろ!ギルドに迷惑はかけられないからな」
「ふーん。ねぇ、イルは素材が全て集まったのにまだ冒険者続けるの?」
「それはそうだろう。俺にはまだやる事があるんだから」

デオル兄上を玉座に押し上げるとか……まあ、色々とね。
俺の答えが意外だったのか、ウルが驚いてこちらを見ていた。

「イルは王子なんでしょ?なら呪いが解けたらそんな事しなくてもいいのに、なんで……?」
「べつにウルには関係ないだろ」

俺は亜空間ボックスから服を取り出しつつ、ウルを見る。
その顔は少し心配そうにこちらを見つめていた。

「なら仕方がないね。どうしてもパーティーに行くって言うなら、俺がお姫様抱っこして連れていってあげるよ!」
「やめろ!!!!!」

その悲痛な叫び声は部屋中に響き渡ったのだった。


ウルに抱っこされるのを完璧に断った俺は、パーティー会場へいつもより少し質の良いローブにフード、それと誕生日にライムがくれた仮面をつけて参加した。

そして夜になり、ついにパーティーは始まったのだ。

その会場は俺が子どもの頃、一度だけ参加したパーティーに使われていた場所と同じだった。
当時も広いと思っていたが、大きくなった今でもこの会場は広い。
そして何より人の多さだけでも、目眩がしそうになっていた。

今日ここに集まっているのは若手貴族しかおらず、他は招待客である魔法使い、錬金術師、冒険者など、各方面の若手エリートを集めた感じであった。
とにかく交流を目的としたこのパーティーには、好奇心だけで集まった変わり者が沢山いたのだ。

そして俺といえば、仮面のせいで浮いているうえに、体調が悪くて誰とも話せず壁際で休むしかない状態であった。
それなのにウルは、お得意様の貴族へと挨拶をしに行ってしまったのだ。

まあ、そのおかげで誰にも話しかけられないし、パーティーが終わるまでゆっくり待つことにしよう。なんて、呑気に考えていた。
そんな俺の前に、知ってる人物が現れるまでは……。


「体調が悪そうですが、大丈夫ですか?」

その聞いたことがある声に、俺は耳を疑いつつ相手の顔をしっかりと確認してしまった。

「体調が良くないのでしたら、別室で休むこともできますし、テラスに出て涼むこともできますよ」

そこには俺の大好きな兄、第3王子であるデオルライド兄上がいた。
何でここに!?と言うより何で俺に話しかけてくるの!!?バレたらどうしよう!!
と、頭の中ではパニックになっていたため、つい声を出してしまう。

「だ、大丈夫です……」

顔を隠してるのに声でバレるかもしれないから、極力話さないようにと考えていたのに台無しである。
仮面の隙間から見えている顔の一部が、さらに青くなったせいなのか、デオル兄上は心配そうに俺を覗き込む。

「いや、どう見ても大丈夫ではありません。さあ、こちらへ」

そう言いながらデオル兄上は俺の手を取ると、無理矢理この会場から連れ出そうとする。
バレてなさそうなのはいいけど、これはどうなの!?
そう思っていると、横からデオル兄上の腕を掴む人物がいた。

「……失礼」

声がした方へと振り向いた俺は、紺色の髪が大げさに揺れたのを見た。

「第3王子であるデオルライド殿下ですね。無礼を承知で聞きますが、僕の知り合いに何かご用ですか?」

そう言いながらデオル兄上を睨みつけていたのは、錬金術師のルーディアだった。

「いや、彼の体調が悪そうだったので休憩室に案内しようかと思っていたところです」
「そうでしたか。ではデオルライド殿下はお忙しいでしょうから、僕が彼を連れて行きますね」

そう言うと、ルーディアはデオル兄上から俺の手を奪い取り、俺を後ろに隠す。
そのことに驚いているデオル兄上に申し訳ないと思いつつ、俺はホッとしてしまった。

「そ、そうですか……ではお願いします。あの、お二人の名前を伺ってもよろしいですか?」
「これは大変失礼致しました。殿下に対して名を名乗らなかった無礼を、どうかお許しください」
「今日はパーティーですが、色々な方々がいますので、そういうのは気にしなくても大丈夫です」
「その心遣い感謝致します。私は錬金術師のルーディアと申します。そしてこちらは、冒険者のセイです」

一応俺も少し横から顔を出して頭を下げておく。
本来なら許されないことだが、今は許してほしい。

「二人とも名前は聞いたことがありますよ!とくに冒険者のセイには、いろんな噂があるので一度話をしてみたいと思っていました。そんな二人に出会えて光栄です」
「そんな、恐れ多い……しかし今はセイを連れていくのが先ですので、申し訳ありませんが話はまた後で……」
「っあ!引き止めてすみません。また後で話せる機会を楽しみにしています。セイはゆっくり休んで下さいね」

デオル兄上に見送られた俺は、バレることなくその場を離れられたことにホッとしていた。
そしてルーディアに手を握られたまま、連れられるように会場を出たのだった。
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