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第四章 悪魔召喚編
33、本物の強者(後編)
しおりを挟む「な、なんでここに……?」
さっきまでダンと一緒にいたはずのウルが、何故俺の後ろにいたのか全くわからない。
だから俺はなるべく距離をとろうと後ずさる。
「なんでって言われても……だって、さっきの話聞いてたんでしょ?」
「っ!!気付いてたのか!?って事は、わかってて俺の話をダンにしたのか?」
ウルはこちらに近づきながら、赤い瞳を細めて楽しそうに笑った。
「もちろん、だって君達は特別だから。でも特別と言ってもセイはもっと得別だよ!だってこの俺が……女性には困ることのないモテモテのこの俺が!こんなにも惚れてしまった相手なんだ……。だから俺の一番はセイ、君だよ」
そう言って投げキッスをしてくるこの男にドン引きしつつ、俺は後ずさろうとしてウルの手に捕まってしまう。
「おかしいなぁ、女の子だったらこれですぐキャアキャア言ってくれるのになぁ。やっぱりセイは他とは違うんだよね」
「いや、それは俺が男だからだ!!だからもう少し男相手ってことを考えろよ。それから、今はとにかく手を離してくれ!」
突き放すように言ったその言葉は、ウルの怒りに触れたのか、その手を強く引っ張られてしまった。
そして気がついたら、俺の背中は冷たい壁にぶつかっており、顔の横にはウルの手があった。
「うんうん、やっぱりそこが問題だよね。なんでセイは男なのに、この俺が一目惚れしたのかな?」
「いやいや、そんなの知らないし……どうせただの見間違いだろ!」
「そんなことありえないよ!だって今でも君を見ていると、俺の心臓は張り裂けそうな程鼓動が早くなってしまうのだから……」
そう言いながら、俺の顎に手を添えて顔を近づけてくるこの男が、俺はとても怖かった。
「なにより、君も絶対に一つ上の存在になれる……俺にはわかるんだ。だから俺のものになってくれよ。ずっとそばに居てくれるそんな存在を探していたんだ、俺はずっと……」
俺にはウルが何を言っているのか、何一つ理解できない。
ただわかる事は、俺はこの男からしたらただの捕食される側の人間でしかないと言う事だ。
だから近づいてくるウルの瞳を、俺はただ恐怖に顔を歪めて、見つめる事しかできないでいた。
「さあ、俺と契約しようじゃないか……」
その言葉の意味も理解できないし、理解したくもない。
だけどこの赤い瞳からは逃げられなし、もうどうしようもないと目前に迫る顔に、俺は瞳をギュッと閉じてしまう。
そして咄嗟に、ダン助けて……!と心の中で強く叫んでいた。
「ウル、そうはさせないぜ!」
だから最初、俺はその声に幻聴が聞こえたのかと思っていた。
でもゆっくり目を開けたそこには、本物のダンがいたのだ。
本当に、ダンが来てくれた……?
そう思い少し嬉しくなるものの、目の前で起きている事が事実なのか俺には理解できなくて、ただ困惑していた。
だってダンは、このギルド最強の男と言われているウルを床に這いつくばらせ、上から押さえつけていたのだから。
そんな姿を見てしまった俺は、嬉しさよりも驚きの方が確実に優ってしまったのだ。
え?あのウルを簡単に抑えられるダンは、一体なんなんだ……?
唖然としている俺を他所に、二人はその姿のまま呑気に会話を始めていた。
「全く君は横着だね。止めるならもっと美しくやってくれないと……今からデートがあるんだから服を汚されたら困る」
「相変わらずの減らず口だな。テメェが余計な事をするからだろうが!!」
「余計な事をしたのは君だろう!セイは俺のモノになる予定だったのに……ぐぅっ!!!」
ウルの言葉が言い終わる前に、ダンはウルの頭を床に叩きつける。その瞬間、ダンの瞳はとても冷たくなり、その奥が青く輝いた気がした。
俺はつい目蓋を擦ってもう一度確認してしまったが、その瞳はいつもと同じ闇夜のように黒いだけだった。
そして床に頬をつけられたウルは、状況を理解したのか突然騒ぎ出す。
「か、顔はやめろ!!!今からデートだっていってるだろう?君は鬼なんだね??」
「やめて欲しいっていうなら、どうしたらいいかぐらいは……わかるよな?」
「く、くそぅ……」
往生際が悪いウルは、口を閉じて黙ってしまった。
正直ウルのこんな姿を見たのは初めてで、俺はダンとウルを交互に見た。
「はぁ、これは時間がかかりそうだぜ……セイ、驚かせて悪かったな。悪いが先に帰ってくれないか?」
「え?」
「俺にはまだやる事ができちまったからな。だからまた用があるときに呼んでくれ」
ウルを押さえつけながら俺を見上げたダンの顔は、いつもと同じようにニヤリと笑っていた。
でも俺は何も口にだせず、とりあえずその場を離れる事しかできなかった。
部屋に転移した俺の顔は真っ青で、駆けつけたライムは驚きのあまり、すぐにベットに運んでくれた。
だけどすぐに眠れるわけもなく、俺は考えていた。
確かにダンが強い事を俺は知っている。だけどあのウルよりも強いなんて……ダンは一体何者なんだ?
それに『あれは、俺のだ』と言っていたダンは、俺にどんな感情をもっているのか……何故かとても気になってしまうのだ。
それにこの感情は一体なんなんだ!?
俺はそんなの絶対に認めないし、絶対に違うのだ。
これは恐怖でドキドキしただけであって、これは勘違いだから!
今の俺は、絶対に顔が赤くなっているはずなので、布団を被り顔を隠す。
そして意識が途絶えるまで、俺は眠れずに悶々としてしまうのだった。
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