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第四章 悪魔召喚編
37、住み着きました
しおりを挟むウルが目の前で実践してくれたそれは、『石化の息吹』という本当に相手を石化させる魔法だった。
ようは悪魔の溜息とは石化した物のことであり、それは悪魔が石化した物でなくても、等しくそう呼ばれているようだった。
どうやらそれを見つけた昔の人は、それが何故石化したのかわからず、全部悪魔の仕業にしたためついた名前のようだ。
それを聞いた俺はすっごく落ち込んでいた。
「まさか、悪魔じゃなくても良かったなんて……」
「いやいや、でもそんな簡単に石化した物が落ちてることはないからね。だから俺が近くにいてラッキーだったね」
そう言いながら何故かウルは俺のベットで横になっていた。その姿にさらにイラッとしてしまう。
「でもそのために契約した意味は!?」
「契約しないと『悪魔の溜息』なんか作ってあげないよ。あれやると俺一部石化するんだから」
「……え?それって大丈夫なのか?」
「ん?俺自身の石化は1日で解けるから大丈夫。でもせっかくだから、俺のこと心配してくれたイルには石化した場所を見せてあげる」
そういうと、俺をベットに押し倒しはじめた。
「ちょっ!いちいち俺を押し倒そうとするな!!」
「えー、やっぱりシチュエーションは大事だと思うんだよね。ほら見てここ……」
そういいながら、口を開けて指をさす。
先程契約した舌がちらりと見えたせいで少しドキリとしつつ、俺は口の中を覗く。
その指し示された場所は……。
「って、歯じゃん!!あんま石化関係なくね!?」
「そう思うでしょ?実はご飯を食べるときに影響があるんだよねぇ~。だから、今日のご飯食べさせてくれる?」
「嫌だよ、ってか帰るつもりないのかよ!!?」
押し倒されたままの俺はウルを睨みつけるも、ウルは全く動じてないどころか、キョトンと俺の瞳を見つめた。
「え?俺、今日からここに住むよ?」
「帰れよ!!」
これはライムが帰ってきたら戦争が始まる予感がして、俺はどうにかウルに帰ってもらえないかと交渉することにした。
「しょうがないなぁ、じゃあその執事が戻ってきたら帰るよ」
「それなら、まあ……」
そんな事を言ったのに、ライムは数日経っても戻ってこなかった。
「もう何日も経つけどその執事帰ってこないね」
「ぐぐ…………」
「もしかして、その執事と何かあったの?」
「…………!!!」
「図星どころじゃないね。顔が真っ赤だよ?」
「えっ!!!??」
だって最後に見たライムの事を思い出したら、自然とそうなってしまうのだ。
だから、この気持ちをウルに隠すことはできないと思った俺は、そのまま相談を持ちかけてしまった。
今の俺は相談相手が欲しかったのだから仕方がない……。
「ふーん、その執事はイルの事が好きだったと……それでイルもその執事のこと好きなの?」
「いや、俺は……」
何故かそのとき俺の脳裏には、一瞬ダンの姿が思い浮かんでしまっていた。
「イルはダンの事が好きだと思ってたのになぁ……」
「な!!ななな、なんで……?」
「あら~、これまた図星かな?」
「いやいや!俺は男が好きなわけじゃないし、それに何でこんな気持ちになるのかもわからないんだぞ!!」
パニクった俺は、つい要らないことまで口走ってしまった。
でもそんな俺を見て、ウルは真面目な顔で首を振る。
「男だなんて関係ないさ。好きだと思ったならその気持ちを大事にしなよ。まあそれは俺だから言えることなのかもしれないけどさ、パートナーは出会えるだけで運命なんだからね」
「ってかお前、俺と誓約を結びたいって言ってたくせに、なんで後押しするような事言えるんだよ」
「え?そんなのきまってるじゃん」
そういうと、最高に悪い顔をしたウルはニヤリと笑ってこう言った。
「結ばれた相手から奪った方が、面白いし興奮するだろ!!?」
「はぁ!!!??」
なんだこの悪魔は!!いや、悪魔だった。
あまりの最低発言に、一瞬でも好感を持った俺が馬鹿だった。
「これだから悪魔はやめられないんだよなぁ。それからイルには悪魔らしい嫌がらせに、一ついいことを教えてあげよう」
「遠慮する」
「あのねダンについてだけど、あいつは普通の人間じゃない。というか多分人でもないよ?それでもイルはダンのこと好きでいられるのかな?」
「うるさい、お前の言うことは信じない。それに俺は別にダンが好きなわけじゃないからな!!」
その話は少し気になったが、この話を早く打ち切るために俺は無理矢理、話題を変えることにした。
「それよりもせっかく契約したんだから……」
「え?俺といろんな経験がしてみたいって!?」
「ちがう!!情報を教えて貰おうかと思ったんだけど、やっぱり信用できない」
「うそうそ、聞いてあげるからお兄さんに何でも言ってごらんよ」
そういうと、ウルは何故か俺を持ち上げて膝に乗せた。イラッとしたけど俺はそのまま聞いてみる事にした。
「ウルは『女神の涙』って知ってるか?」
「あー、あれのことかな。俺が知ってるのであってるなら……多分神殿で売ってるよ」
「はぁ???そんなまさか!これだって沢山調べたんだぞ!!?」
「多分イルの知ってる情報が古いんじゃない?『女神の涙』ってここ十年ぐらいで販売しはじめた物なんだけど、確か当時の女神が安定した供給が出来る様に、それが溢れ出す泉を設置したとかなんとか……」
確かに俺が読んでいる本は何十年、何百年も前の物で間違いないが、だとしても誰からも情報がないのはどういう事なのだろうか。
「まあ、神殿に行かない人は知らないかもしれないね。俺は神殿に入れないけど、知り合いの女神が自慢してるの聞いちゃったからね」
確かに俺の周りに神殿に行きそうなメンバーは誰もいない。ある意味盲点だったかもしれない。
それよりも、知り合いの女神ってなんだろう。
「知り合いの女神さんとは誓約結べなかったんだ?」
「滅茶苦茶可愛かったのに、すでにパートナーがいたんだよ」
「はははは、残念だったな」
俺は棒読みで嘲笑ってやると、ウルは同時のことを思い出したのか、とても悔しそうにしていた。
その表情を見て少しやり返してやったと、気分が良くなった俺は気がついたら笑っていた。
そして、俺は思った。
そうだ明後日はダンと神殿に行くことにしよう。
でも、どんな顔でダンと会えば良いのかと考えれば考えるほど、俺は頭を抱えることになってしまった。
それからその悩みは解消されることなく、ついにその日はやってきたのだった。
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