やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた

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第三章 調合編

30、その結果(後編)

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お城で開かれるパーティーのことを話してくれたルーディアは、少し眉を寄せていた。

「何でもこのパーティーには高ランクの魔術師や、冒険者、錬金術師に薬師、聖職者など色々な分野から若手の方が参加するそうなんですけど、僕は行きたく無くて……」
「それは、あまり貴族との繋がりを作りたくないからか?」

なんだか参加者の中に、冒険者とか聞こえたけど聞こえなかった事にして、俺はルーディアに確認する。
確かルーディアは、貴族ではなく民間人に向けて錬金術の商売をしたいと言っていたはずだ。

「そうです……でも出席しなかったらSランクの昇級試験は受けさせないと、脅されてしまって……」
「いや、パーティーには行くべきだと思うぞ」
「セイ……」

アカデミー側はそうでもしないと、ルーディアがパーティーに参加しないのをわかった上で、その答えを出したのだろう。
それにルーディアは、一度パーティーに出た方がいいと思う。

「ルーディアは貴族に取り入るのは悪いことだと思っているみたいだが、貴族にだって民を思ってる人は少なからずいる。そういう人を見極めて味方につければ、ルーディアは民間人に向けてもっと積極的に、錬金術を広める事ができるはずだ」
「……そんな考え方をした事はありませんでした。そうですよね、セイは冒険者だから貴族の依頼を受けた事があるのですよね?」
「ああ、半分以上はクソみたいな奴らだったけどな……」

まあ悪事を働いていた奴らは、遠回しに兄上へチクッておいたから、きっとどうにかしてくれただろうけど……。

「わかりました。セイが言うのでしたら……僕はそのパーティーで貴族を見極めてきます」
「それと色んな職業の人が集まるなら、ついでに繋がりを作っておいた方が後々楽になるかもな」
「確かに、他の職でも被ってる分野の方は結構いますよね!そう考えたらパーティーが楽しみになりました。ありがとうございます」

頭を下げるルーディアに一瞬ほのぼのと笑顔で返していた。しかしすぐに、俺がここに何しに来ていたのかを思い出す。
さっきまであんなに緊張していたのに、ルーディアの真面目な話を聞いていたら、何故か俺の気分は落ち着いていたようだ。

「ふふ、セイの緊張も解けたところで、銀色の歯車がどうなったかを確認しに行きましょうか」
「ルーディア……せっかく緊張が解けたのに、また緊張するようなことを言わないでくれ」
「すみません。でも僕は少しでもセイに笑っていて欲しいと思ってるんですよ」

そう微笑むのを見て、今までの話が俺の気分を紛らわすためのもので、ルーディアの中でもう答えは決まっていたのだということに気がついた。
そんなルーディアは、何故か俺の頬をそっと撫でると、歯車を見るために立ち上がった。
その姿を目で追いながら、俺は撫でられた頬に軽く触れる。そしてハッと首を振り、慌てて後を追いかけるように椅子からおりた。

「セイ!!見て下さい!」

先に歯車を確認したルーディアの声に、心臓がドクりと大きく跳ねるのがわかり、俺は歩く速度を落とす。
成功したのか、失敗したのか……俺はゆっくり近づくと、歯車が置いてあるトレーを覗き込んだ。

「…………鈍色だ」
「ええ、鈍色に変わりましたよ!!セイ、成功したんです!これで、刻の調律ができますよ!!」

軽く揺さぶられた俺は、目の前にある鈍色の歯車が信じられなくて、固まったまま動けないでいた。
そんな俺の頭を軽く撫でると、ルーディアはトレーを持って作業台に戻っていった。

「後は組み立てがありますので。少し座って待っていてくださいね」


そう言われてから暫く経ち、気がつけば俺は椅子に座り、ルーディアの背中をただ見つめていた。
いつ座ったのかも覚えていないから、無意識だったのかもしれない。でもただひたすら作業に集中するその姿を目で追っていた。
そして少し経った頃、ルーディアが席を立った。

「よし、出来ました」

ゆっくりと振り返るルーディアの手には、時の調律があった。
蛇皮のベルトをつけられたその見た目は、やはりただの腕時計にしか見えない。
でもそれを見た俺は咄嗟に席を立ち、ルーディアに駆け寄っていた。

「せ、成功したのか!!?」
「多分そうだと思います……実際に使ってみないと確信できませんが、今使うと効果がなくなってしまいますからね。……ですが、今度もう一つ作ってみようかと思いますので、よければすぐに試してみますか?」
「あ、ああ」

渡された刻の調律をつけると、ルーディアは説明をしてくれた。

「この刻の調律は使う毎に針が動き出し、解除するとその場所で針がとまります。そして一周するまでであれば何度でも使う事ができる魔術アイテムです」
「一回使えるだけじゃないんだな」
「ええ、そうですね。一周するまではおよそ一分、その間であれば時間を何度でも止める事ができます。そして使用方法ですが、横についたボタンを押すだけです。どうぞ試しに押してみて下さい」

俺は深呼吸をすると、そのボタンを押す。
すると突然世界は真っ青に染まり、周りの音も聞こえなくなってしまった。これが、時が止まったという状態なのだろう。
俺は試しにルーディアに触れるが、やはり反応はなかった。

青色の世界はなんだか不気味で、この世界にただ一人取り残された気分になってしまう。
だから俺はもう耐えられないと、刻の調律を止めるためにボタンを押した。

押した途端フッと世界が元の色に、そして静寂の中で自然音が耳に入ってくる。
そのことに安堵した俺は、素直な感想を溢していた。

「こ、これは少し怖いな……」
「それは時が止まった世界が……という事ですか?」
「そうだ。時が止まったら好き勝手できると思う輩はいそうだが、あんなの長時間いたら恐怖でおかしくなる」

心配そうな顔をしていたルーディアは「後で試してみましょう」なんて恐ろしい事を言っていた。
でもこれで、刻の調律が完成したことを立証できた。
嬉しくなった俺は、ルーディアに手を伸ばす。

「刻の調律ができたのはルーディアのおかげだ。本当にありがとう」
「僕こそこんなチャンスを与えられたことを、とても光栄に思います」

その手をしっかり握り返したルーディアと見つめ合い、俺たちはともに笑い出す。
そして喜びのあまり、俺たちはそのまま抱きしめあったのだった。


でも、まだ全て解決したわけじゃない。
一つ進展しただけ……でもこれは大きな一歩だ。
素材は残り二つ、そして素材を使った解呪の方法のこともある。
まだしなくてはならないことは山積みなのだ。
だからきっと、明日からはまた忙しくなるだろう。

それでも今はこの成功を噛み締めていたくて、俺はギュッとルーディアを抱きしめ続けたのだった。
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