44 / 110
第四章 悪魔召喚編
32 、クエストとサンドイッチ(前編)
しおりを挟む「初めまして、私の名前は錬金術師のルーディアです。最近セイと、とても仲良くさせて頂いてます。たしか貴方が錬金術の魔術道具を作ってくださった方ですよね?素晴らしい方に出会えてとても嬉しく思います」
「噂は聞いてるぜ、俺はダンだ。こいつと長年冒険者やってるからな、セイのことで知りたい事があったら何でも聞いてくれていいぜ?」
そう言って二人は握手をした。
確かに顔は和かなのに、何故か火花が見えるのは何故だろう……。
今日はダンとルーディア、二人の顔合わせのため簡単なクエストに来ている。
それもルーディアの欲しい薬草を取りに行くついでにクエストを受けただけで、場所も王都の東にある近くの森に行くだけの予定だ。
そのため待ち合わせは、東門を出てすぐの桟橋にしていた。そして今その桟橋の上では、ダンとルーディアが和かに握手を交わしている。
先程一瞬ピリリとした空気があった気がしたけど、どうやら気のせいだったようだ。
「じゃあ、これから近くの森に入るから今日の予定を確認するぞ」
何故か俺を挟んで頷く二人に、予定を伝える。
まずこの森にある湧水付近に生えるとされる、清らかな苔という素材の採取をするのが第一目的。
そして次に、ここで一番多く生息していると言われる魔物、ウッドイーグルを見かけしだい討伐する予定だ。
「だから、とりあえず湧水が出てるポイントを少しずつ移動し、ウッドイーグルや魔物が出たら倒すということでいいか?」
「大丈夫です。それに湧水の出ているポイントが書かれた地図を持っていますので、案内はお任せください」
ルーディアは地図を広げると、最初のポイントを指差した。それを確認して、俺達は森の中へと出発する。
その前にと、俺は無意識にダンの方に足が向いていた。
「ああ、イル任せとけ。とりあえず森の散策中は、お前を抱え上げて連れてってやるからな」
「すまない」
そう言って俺はダンに片手で持ち上げられる。
なんだか最近ダンに抱き上げられると、安心感がある気がする……やはり強いからかな?
そんな俺たちの姿にルーディアは、ギョッとしたようにこちらを見た。
「ま、まさかいつもそうやって運んで貰ってるのですか!?」
「あっ!いつもの癖で……」
しまったと思ったけどもう遅い。
すでに俺はダンに抱えられているのだ。
いつも周りに誰もいないクエストではこうだったので、つい癖で自然にダンの方へと行ってしまったようだ。
「まさか、癖になる程馴染んでいるということですか……!?」
「いや、いつもなわけじゃない!ソロのときは飛んでるからな……!まあ体力が無いのは事実なので、よく運んで貰ってるだけだ」
これでは、あまり誤魔化せてない気がする。
どうにか言い訳を、と思っていると俺の上からダンの声が降ってきた。
「まあそこまでにしとけ、それにお前もイルのこと少しなら知ってんだろ?こいつにとって体力も時間勝負なわけだからな、今は黙って道案内する方がいいぜ」
「……思うことはありますが、確かにその通りですね。僕が知っていることなんてほぼ無いですが、あまりセイの負担を増やしたくない気持ちは同じですから」
何故二人の気持ちが通じ合ったのか俺にはよくわからないが、その後の二人は息があったように素早く動き始めたのだった。
ルーディアは地図と地形を確認して最短ルートで湧水の場所を、ダンは敵が出ても俺を抱き上げたまま適当に敵を切っていく。
正直俺は何もする事がないのだけど……?
そう思って俺はぼんやりルーディアを見た。
ここでの採取は終わったので、次の地点に行くための地図を確認しているようだ。
「どうやら次の場所まで結構距離があります。その途中に、少し開いた場所があるようなのでそこでお昼休憩にしませんか?」
言われて、確かにそろそろお腹も空いてきた頃だと気がつく。
そういうことで、俺達はルーディアの言う少し開けた場所でお昼ご飯を食べることになった。
辿りついたその場所は、そこに湖があるわけでもないのに木々はなく、何故か草原だけが広がっていた。
森の中に突然現れた草原地帯に、俺達は驚きの声を上げていた。
「何度もこの森に来ているが、こんなにも広い草原があるなんて知らなかった」
「なんでも最近突然出来たそうですよ?」
ルーディアが地図を見ながら教えてくれた。
確かにこんな不自然な草原が森にあったら、知らないわけがないと思っていたけど、最近できたなら仕方がない。
それにこういう不思議なことは、この世界だとよくあるのだ。
「こりゃあ、自然に出来た聖域みたいな場所だな!」
「確かにそうだな。それにここなら魔物に襲われないで、ゆっくりご飯が食べられそうだ」
ダンのいう通りここには薄らと結界が貼られている。だから冒険者の休憩所として、そのうち広まるだろう。
でも今はまだ知られていないのか、人がいないのでとても有難い。
こうして俺たちはここでお昼を食べる事にしたのだった。
27
お気に入りに追加
2,134
あなたにおすすめの小説


光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめる予定ですー!

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる