やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた

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第三章 調合編

21、聖霊樹の森(後編)

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どうにか魔物の群れを通り過ぎて、聖霊樹に辿り着いた俺達は、息を整える為にぜぇはぁと深い呼吸を繰り返していた。
ただ抱えられていた俺でさえも疲れているのだから、相当大変だったはずだ。

俺は時間を確認するために、木漏れ日から太陽の位置をなんとなく確認した。
どうやらまだ朝のようだが、そうだとしても二人は2、3時間ほど走り続けていたのでは無いだろうか?


数分後、ようやく息が落ち着いてきた俺は、聖域の中にそびえる聖霊樹を見上げた。
その樹は何処までも高く、そして何処までも横に伸びている。そんな樹を覆うように、周りには湧水が泉のように広がっていた。その美しさについ見惚れてしまう。

きっとここなら本当に精霊が居てもおかしくない。
俺はもっと近くで見るためにライムの腕から離れ、一人で聖霊樹に近づいた。

一度来たことはあるけど、そのときは木の実を手に入れるのに必死すぎてよく見ていなかった。
そのうえ泉に落ちかけた事を思い出し足を止める。
このまま上を見て歩いてたら、今度こそ泉に落ちるところだった……。

「セイ、危ないからあまりそっちには行くなよ!」
「わかっ……」

た。と言いかけて、俺は体が傾くのがわかる。
どうやら戻るために歩き出そうとした俺は、大きな枝を踏んですっ転んでしまったみたいだ。

いや、さっきまで枝なんて無かったじゃん?
どうなってんのこれ??
と、思う暇もなく俺は泉の中に落っこちた。

「セイ!!」
「主!!!」

二人の声がしっかり聞こえる。だってこの泉すごく浅いのだ。
そしてライムが凄い急いで駆けつけてくるのがわかる。スライムだけあって回復が早いのかもしれない。

「うわぁ、ズボンの中までビチャビチャだ……」

服が身体中に張り付いているのがわかった。
ローブを着てなかったらスケスケってやつだ……余りガリガリな体を見られたくなかったから、危ない危ない。

「大丈夫ですか、主……?」
「ああ、何とか」

ようやくライムが俺の元に駆け寄って来た。
そして俺の姿を見たライムは一度固まりかけ、その後動揺したように騒ぎだした。

「うっ……その格好はまずいです!!それはいけません、すぐに着替えを!」
「え?着替え??暫くしたらすぐ乾くと思うけど……」
「ダメです!こんな姿、あの男に見せるわけにはいきません!!」

あの男と言うのはダンしかいないよな?
何故ダメなのかは理解できないけど、着替えをするというのは一理ある。だってこんなにビチャビチャなんだから、確かに着替えたほうが早い気がしてきたのだ。
それに着替えなら亜空間ボックスに入ってるからな。

「おーい、大丈夫か?」

ダンは歩きながらこっちに向かってきていた。
まだ完全に回復していないようで、申し訳ない気持ちになる。
それなのにライムはダンの方に向かうと、それ以上来ないようにと手を広げた。

「ダメです!!お前のような男を、今の主に近づける訳にはいきません!」
「ははーん。セイの水も滴るいい男っぶりを俺に見せないってかー?」
「そうです」
「ダン、面白い冗談はやめろ。ライムもムキになるな」

こんなの言われてる俺が、一番恥ずかしいからやめてくれ!
それなのに俺の言葉が聞こえないのか、ライムはダンへとさらに言葉を返す。

「だからあなたには、主の髪一本も見せるものはありません!」
「おいおい、良いところ独り占めか?」
「いや二人とも、俺の事をからかうのはやめろ!」

俺は恥ずかしさに耐えきれず、濡れたままライムとダンの間に躍り出た。
出てからもっと恥ずかしい格好だった事に気がついて、チラチラとダンを見る。
ダンは面白いものでも見るように、俺を上から下まで見ていた。

なんだろう、ネットリ見られている気がして、凄く恥ずかしい……。

「おお!セイ、なかなかいい感じに水も滴ってるな。いい男度が10割増しって感じだぜ!でもそのままなのは体に良くないだろう。だから服乾かすの手伝ってやるからこっちに……」
「結構です」

ダンが俺の体に触れようと手を伸ばした瞬間、俺は強い力で後ろに引っ張られた。
どうやらライムが俺を抱き寄せたようだ。
でも俺はその意味がわからず、キョトンとダンを見る。

「えっと、これは……?」
「全く……頑固なやつだな。俺はあっちでもう少し休んでるから早くどうにかしろ。あと、その枝も持っていくの忘れんなよ」

そういうと、ダンは笑いながら元いた方へと戻って行った。
その様子を見終えると、ライムは俺の体を離してダンと同じ方向に歩いていく。

「え?手伝ってくれるんじゃ……?」
「申し訳ないのですが、今の私にそれは酷でごさいますので、早く着替えを済ませてくださいね。それと何かあったらお呼びください」

頭を下げてからスタスタと歩いていく姿を見て、うーん紳士っぽい。とよくわからない事を考えてしまった。

それからすぐに着替えを済ませた俺は、転ぶ原因となった枝を拾って二人の元へと戻ったのだった。

因みにこの枝は聖霊樹がくれたようで、突然湧いて出て来たのもそのためだったようだ。
全く、聖霊樹も空気を呼んで欲しいものだ。


こうして俺達は、聖霊樹の枝を手に入れることができたので、来た道を帰ることにしたのだった。
もちろん、帰りも地獄のマラソンだったのは言うまでもない。
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