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第二章 錬金術師編
17、裏技!ドロップアイテム(後編)
しおりを挟む「うーん。届かない」
先程、鈍色の魔石を見つけてから、ずっと俺はその棚を見上げていた。
ライムは丁度席を外しているし、何か上に乗れる台とか脚立は本当に無いのか?
何度も周りを見回しているが、やはり何も見当たらないことに俺は溜息をつき、そしてすぐに思い出す。
そうだ俺、魔術で飛べるじゃん!
王宮内で余り魔術を多用しないため、その存在をすっかり忘れていた。
この距離ぐらいなら飛べるだろうと、身体をゆっくりと浮上させる。
「よーし、いいぞ!不調でも短い距離の転移は出来るんだし、浮遊だって上手く行くはず!」
そう自分を鼓舞して魔石へと手を伸ばしたが、上手くコントロールができなくて、その手は全く届かない。
もう少し前へ、と思っても何故か後ろに下がってしまう。そんな試行錯誤をしているうちに、俺の体力は徐々に消耗し始めていた。
「主、なにを!?」
だから突然聞こえたライムの驚く声に、バランスを崩してしまった。
そして浮遊感がなくなった体は真下に落ちていく。
「あ、主!!!!!」
ライムが駆け寄ってくるのが見え、俺は咄嗟に目を瞑る。床に落ちたと思ったのは、その後すぐの事だった。
フニっとする。
落ちた俺が最初に思った感想はそれだけだった。
そして痛みがないことを疑問に思い目を開ける。
「ら、ライム!?」
そこには俺の下敷きになり、少し体が潰れたせいで伸びているライムの姿があった。
流石スライムというべきか、すぐに元の状態へと戻っていく。
「主、お怪我はありませんか?」
「大丈夫だ。それよりライムは大丈夫か?」
「私はスライムですので、痛みはございませんし伸縮性は抜群ですので」
「ならよかった……でも、本当に申し訳ない」
俺はライムの上で頭を下げる。正直余計な事をしなければライムに迷惑をかけずにすんだのだ。
だから礼になるかはわからないけど、とりあえずライムを見つめて口を開いた。
「だから助けてくれたお礼に、何でも言ってくれ」
「何でも、ですか……?それなら一つ、最近気になっていた事を聞いても?」
そういうとライムはチラリと俺の左手と、右耳を確認した。その事に俺はドキリとしてしまった。
左手にはルーディアとの魔法陣が、右耳にはダンから貰ったピアスが付いていたからだ。
ずっと聞きたそうにしているのを流し続けたツケが、このタイミングできてしまったのだろう。
「ナンデモドウゾ……」
「その魔法陣と、ピアスは誰からですか?」
「こ、この魔法陣は依頼している錬金術師のルーディアから、これは契約に使ってるだけだ!それとピアスはダンから貰ったんだ。いつも世話になってるからって、それに俺に似合うだろうって……」
凄く言い訳みたいになってしまったけど、多分間違って無いから!
俺の話を聞いたライムはジッと俺を見つめ続け、ボソリと呟いた。
「ズルイです……」
「は?」
「私だって主に自分の物を身につけて欲しいのに……とくにあのくそ男め、自分色の物を身につけさせるとは。ああ見えて独占欲もあると言うのですか……許せません!!」
えーっと、ライムが何を言っているのかわからないけど、ライムも俺に何か身につけて欲しいのだろうか?
「えっと……それなら、ライムも俺に何かつける?」
「あ、主……!では、すぐにはできませんが今度丹精込めて手作りさせて頂きますね」
て、手作り!?……なんか愛が重くなったけどきっと気にしてはいけない、ここは軽くスルーしよう。
そう思うと、俺は残りの素材を探すことにしたのだった。
そして探すこと数時間……。
俺達は集まった素材を机に並べ、足りない物があったことに少し困っていた。
「白蜂の針以外はあったけど、それだけが見つからない!」
「おかしいですね、白蜂は倒した記憶があったのですが……もしかすると針を出す前に倒してしまっていたかもしれません」
「いや、いいんだ。ここになければ元から採取しに行く予定だったんだし……」
そう落胆する俺よりも早く、ライムがピクリと反応した。
「どうした、ライム」
「外のスライム達が、進化の気配がすると言っています。とりあえず外に行ってみましょう」
「わ、わかった!」
スライムの進化なんて、余り見る機会のない俺としては一大イベントである。落ち込んでる気持ちを吹き飛ばし、ライムに抱えられて保管庫の外へ飛び出した。
そこには、数匹のスライムが固まって明滅を繰り返している。
「すぐに、進化しそうです。何になるかわかりませんから離れないで下さい」
「わ、わかった。でも離れるなっていわれても……」
ライムにガッチリホールドされてるから、離れられないんですけどね!
まあ今の俺じゃ役に立たないのはわかっているので、大人しくスライム達を見つめる。
そして突如強く光ったと思ったら、スライム達は瞬く間に姿形を変えていた。
そこには……。
「ええ!!なんで白蜂に!?」
「どうやらこの子達は主を主人と認めている側のスライムだったようですね。そのため無理に進化をしたみたいです」
「そ、そんな……!」
そんな理由でスライムから白蜂に進化してしまうなんて……これからは簡単に素材が欲しいとか言うのはやめよう。
「この子達は進化しても貴方を主と認めていますので、襲って来ませんから安心して下さい」
そういうと白蜂達は元気に飛び回り、いい的になりそうな木を見つけて一斉に針を飛ばし始めた。
「良かったですね。これで白蜂の針も手に入りましたよ」
「あ、ありがたいな……うん」
白蜂達は喜び俺の周りを飛び回る。
これで良いのかこの牧場。
そして俺は、なんだかヤバい牧場を生み出してしまったのではないかと密かに思っていた。
それでもここの管理は全てライムに任せているので、今は考えるのをやめることにしたのだった。
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