7 / 110
第一章 冒険者編
5、冒険者としての一日(後編)
しおりを挟むダンとともにギルドに着くと、周りの視線が痛かった。
でもこれはいつもの事だ。何せ俺はどう見ても強く無さそうなのに、7スターSSランクなのだから。
それも相まって、前に倒したアーマードラゴンの話題があちこちで聞こえてくる。
「本当にあんなガキンチョが?」
「でも実際にその場で助けられた冒険者がいるんだぞ……」
「本当は後ろにいる長身がやったんじゃねぇのか?」
などと、疑心暗鬼な皆さんの声が俺にまで届いて来ていた。まあいつもの事だから気にしない事にする。
それなのに後ろにいるダンの方が気にしているのか、周りに殺気を振りまいているのがわかった。
うん、これが一番の原因だな。
その殺気のせいでダンが倒したんじゃないかと思われてるに違いない。
そう口には出さず、俺は窓口に向かう。
窓口にはカウンターと個室がそれぞれあり、俺たちはいつも個室を使わせて貰っている。
内容が内容だから仕方がないのだ。
そして今、目の前にはギルド職員のお姉さんが和かに座っている。
何よりそれを見るのが俺の一番の癒しだった。
なにせ、ハーレムを目指しているのに女性が周りに全く居ないのだ。
だからたとえ年齢が一回り以上離れていたとしても、癒されはするのだ仕方がない。
「ギルドカード確認いたしました。セイ様とダン様ですね。先週はアーマードラゴンの討伐、並びに唐突な救援クエストにお応え頂きありがとうございました」
「いや、職員さんが早めに伝えてくれたおかげで、誰も犠牲にならずにすんだんだ。それよりも討伐後、時間がなくてアーマードラゴンを納品できずにすまなかった。まだ納品は間に合うだろうか?」
あのときは時間切れでそこまで頭が回らなかった。
だからこそ納品出来なくても仕方がないと諦めている。
「いえ、大丈夫です。アーマードラゴンは全て納品でよろしいですか?」
「ああ、それと一つ頼みがある。納品した金額の一部を、運悪くアーマードラゴンに出会って怪我をしてしまった冒険者グループに渡して欲しい」
正直俺が沢山お金を持っていても仕方がないし、この方が気分がいいからな。それと今回の残りはとりあえずダンに渡しておこう。いつも世話になってるし。
「残りは今度ダンに渡しておいてくれ。ダンもそれでいいな?」
「しょーがねぇから預かって置いてやるよ」
「預かるんじゃなくて、貰ってくれよ……」
「貰った金は俺が自由に管理するから大丈夫だ」
そう言ってダンはニカっと笑いながら俺の頭を撫でる。そうやっていつもごまかされている気がする。
俺が微妙な顔で撫でられていると、目の前からふふっと笑い声が聞こえたので二人でそちらを向く。
「本当にお二人は仲がよろしいのですね」
ギルドのお姉さんが微笑ましそうにこちらを見ていた。ダンはもうすぐ30歳らしいし、お姉さんからしたら俺たちは仲良し親子みたいに見えるのかもしれない。
「ああ、俺はこいつの保護者みたいなもんだからな」
「まあっ」
そう言ってダンは笑顔で俺の肩を引き寄せる。その様子にお姉さんは驚きつつも、その笑顔に頬を染めていた。
何というかイケメンはズルイ。
そう思った俺はすぐさま話題を変える事にした。
「それで、お願いしていた錬金術師については……?」
「あ、はい。錬金術師が出している依頼は今全くない状態でして……最近はギルドに依頼をせずご自身で素材を取りに行くのが流行っているのか、そういう方たちが増えてきていますので」
「そうですか……」
何度目になるかわからないその答えに、俺は落胆する。
俺には呪を解呪する素材の為に、どうしても錬金術師の知り合いが必要だった。
それなのに最近の錬金術師はアクティブな魔法使いが多く、自ら素材を取りに足を運ぶそうだ。
その方が他の素材もついでに持ち帰れて楽だとか……。
「あ、でも!この王都にある錬金術アカデミーには逆に依頼を請け負うっていう制度があるんですよ。自分の実力をつける事や名を上げることも出来るので、結構優秀な子が多いって噂です」
「え?そんな制度があるなんて知らなかった」
「民間にはあまり知られてないですからね。お役に立てたなら嬉しいです」
王都で暮していたけど、そんな制度があるなんて聞いた事がない。俺はそっとダンにアイコンタクトを送るも、首を振っている。
ダンも知らなかった所を見ると、本当に民間には宣伝していないのだろう。確かに名を上げるには貴族に、取り入る方が簡単だからだ。
「ありがたい情報だ、今度早速行くことにさせてもらう。それで、今日はどんな依頼があるのだろうか?」
「ええと……急ぎなのは、氷雪峠でアイスドラゴンの目撃情報があったので、それの調査依頼ですかね」
ギルドのお姉さんは書類をチラチラ見ると、俺たちにも見えるように紙を机の上に置いた。
「あそこはいつも雪が吹雪いているから視界が悪い。本当にアイスドラゴンなのか?」
「実はまだ調査が済んでいないんです。あそこは視界が悪いうえに遭難しやすく、高ランクの冒険者にお願いするしかなくてですね……」
黙って聞いていたダンは机の用紙を掴み、じっと内容を確認すると口を開いた。
「つまりは俺たちに調査ついでに討伐できるならして欲しいって事だな」
「……そういう事になりますね」
「なら災害になる前に対処した方がいいな。ダン時間がない、すぐに向かおう」
立ち上がりすぐに動ける準備をする。
俺は時計を確認し、陽が沈むまでの時間を考えていた。
「え!今から向かうんですか!?」
「今日やらなくては次は来週になってしまうからな。アーマードラゴンを納品したらすぐに向かわせて貰う」
「でしたら少しお待ち下さい!氷雪峠用のマントぐらいはお貸しできますし、すぐに納品所にお持ちしますから!!」
そう言いながらお姉さんは勢いよく立ち上がり、部屋を飛び出していったのだった。
94
お気に入りに追加
2,134
あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります


ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる