やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた

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第三章 調合編

30、その結果(前編)

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すでに調合を始めてから三十分ぐらいが経過していた。
今作っている刻の調律は、完成品だけを見ると腕時計にしか見えないものだ。

そして普通の腕時計との違いは、本当に刻を一瞬だけ止める事が出来る魔術アイテムだという事。
その効果を得るためには、鈍色の魔石を溶かした液体に銀色の歯車を漬け込み、魔術付与された鈍色の歯車にしなくてはならない。そして鈍色の歯車は、魔法陣を描きながら組み立てる事により、刻の調律となるのである。

前半は分量や魔術道具、かき混ぜ方で良し悪しが変わるもの。後半は完全に技量が全てのものだ。
でも俺はルーディアの技量を全く疑ってない。

だから目の前で真剣に大釜をかき混ぜるルーディアを祈るように見つめる。
この付与が成功したなら、きっと全てが上手くいくはずなのだ。

チラリと砂時計を確認すると、その砂は丁度下に落ち切ったところだった。
それを見たルーディアはすぐに火を止め、歯車を大釜から取り出し始めた。

「さて、ここまでは順序通りいっています。あとはこの歯車にしっかり付与がされていればいいのですが……」
「いつもはここで失敗するのか?」
「ええ、まず銀色から鈍色に変わりすらしませんから」

そういいながら引き上げた歯車を冷ますために、トレーに並べていく。
その時点ではまだ歯車は銀色に見えた。

そもそも銀色の歯車自体が既に付与をされたものであり、一般的に使用されることが多いため、市販で大量に売っているものなのである。
だから、それに付与をすること自体が難しいはずなのだ。

「資料にはゆっくり冷やす事で、銀色から鈍色に変わると書いてあったのですが、今までは何度やっても全く色が変わりませんでした。でも、もしかすると冷やし方にも問題があるのかと思い色々試してみましたが、そちらも効果は得られませんでした」
「確かに何が問題かわからないのは困るな。だからこそ今回は成功してほしい……」

俺は祈るような気持ちでその歯車を見つめ続けた。
しかしまだ湯気が出ているそれに変化はない。

「冷えるまで少し時間がかかりますから、少し休憩しましょう。それに歯車がないと次の作業も出来ませんからね」
「む……そ、そうだな」

そういうとルーディアは俺の横に腰掛けた。
よく見るとその顔には、汗のせいで髪が張り付いてしまっている。大釜の前に二十分ぐらい立っていたのだから仕方がないだろう。
だから俺は持っていたハンカチで、ルーディアの額を拭ってやろうと手を伸ばす。

「あ、すみません」
「俺のために頑張ってくれてるんだからな、労ってやらないと……」
「ふふ……」

俺の言葉がおかしかったのか、ルーディアに何故か笑われてしまった。でも労る気持ちは大事だと思うからそれは仕方がない。
せっせと汗を拭き終えると、嬉しそうなルーディアはハンカチを持つ俺の手に、その手を重ねた。

「そのハンカチはこちらで洗ってお返ししますね」
「そんな気にしなくても……」
「いえいえ、僕の汗が染み込んだままの物を渡すわけにはいきませんから」

そんな言われ方をしたら俺も頷くしかない。
ハンカチを受け取ったルーディアは嬉しそうにそれをポケットにしまう。
今のまましまったら汚いのに……自分の汗だから気にしないということだろうか?
そんなことを思ってるなんて気づかずに、ルーディアは改まってこちらを見た。

「それよりもまだ時間がありますので、少しお話をさせて頂いてもいいですか?」
「……何か良い話でもあったのか?」
「ええ、そうなんです。とは言いましても少し後の話なんですけど、セイに最初に伝えておきたくて……」
「わかった、ルーディアの話を聞かせてくれ」

正直、今の俺は緊張していて話を聞いてる気分では無いのだけど、ルーディアが嬉しそうにしているのを見ると、とてもいい話があったことがわかる。
だから俺は少し気になってしまったのだ。

「僕、ようやくSランクの昇級試験を受けられる事になったんです」
「それは凄いじゃないか」
「でもこれもセイのおかげなんです」
「俺は関係ないって、ルーディアの実力だよ」
「そんなことはありません。以前、母を助けるための薬を調合することが出来たと、話をしましたよね?」

確か、ルーディアの母親役をしたときに、言っていた気がする。
正直、あのときのことを思い出そうとすると、俺自身のことまで思い出してしまい、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうになるのだ。

「ああ、聞いた気がする」
「あの薬はSランク推奨の調合薬なんです。ですからそれを調合できたことが認められて、Sランクの昇級試験を受けられることになったんです。そのきっかけを下さったのは、あなたですから……」
「いやいや、でもそれが成功したのは、ルーディアの努力あってのものだ。だからこれは素直にルーディアの力で手に入れたものだし、俺から言えるのは一言だけだ……おめでとう、ルーディア!」

俺は素直に拍手した。だって俺も嬉しかったから。
これでルーディアの夢が、さらに一歩近づいたことになるわけだ。

「……ありがとうございます。僕はセイにとても感謝しているのです。だからあなたに喜んでもらえたなら、それだけで僕は満足なんですよ。ただ……昇級試験を受けるにあたって、一つ困った事がありまして……」
「こんな喜ばしいことなのに、一体何に困っているんだ?」
「実は、今度お城で開かれるパーティーにお呼ばれしてしまったんです」
「パーティー?」

その言葉に何か嫌な予感がした。
以前、兄上が冒険者を集めるパーティーを行うとか言っていたのを思い出す。
いやまさか、でもルーディアは錬金術師だしきっと関係ないはずだ……。

そういう事にして考えるのをやめた俺は、ルーディアが話す内容の続きを聞く事にした。
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