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第三章 調合編
25、誕生日と兄襲来(前編)
しおりを挟む「ああ、愛しのイル!!誕生日おめでとう!お兄様が会いにきたよ!」
バンッと空いた扉と、そこにいた予想外の人物に俺は固まっていた。
今日は俺の誕生日であり、ライムと共にスライム達が去った後、俺はデオル兄上のために一生懸命部屋を綺麗にしたところだった。
そして勢いよく部屋の扉を開いたのは、どうみてもデオル兄上じゃない。
そこには第四王子である、バレンディア・ブルーパールが腕を広げて立っていたのだ。
このバレン兄上という人は、前回俺にあの恐ろしい本をよこした本人である。
その本の内容といえば俺と兄上のラブストーリーにしか見えない内容だったため、恐怖した俺はすぐにその本を封印していた。
それを今の今まで、忘れていたのだった。
しかしバレン兄上が目の前に現れた瞬間、俺はあの本の存在を思い出し、そして当の本人が目の前にいる事にとても恐怖していた。
「あれ?感動的な兄弟の再会だというのに、何故抱きついてこないのだい?」
恐怖している俺のことはお構いなしで、バレン兄上はキョトンと首を傾げる。そのため俺と同じ金の髪が軽く揺れる。
その蜂蜜色の目が俺を見つめると、ああ!と突然納得したように声を上げる。
「そうか、これは恥ずかしがっているのだね!理解が足りない兄ですまない。ではこちらから抱きしめに行こうじゃないか!!」
そう言って近づいてくるバレン兄上に、恐怖で震えて身動きがとれない。
しかしそんな恐怖を一瞬で打ち消す声が、扉の方から聞こえてきた。
「バレン、待ちなさい!!」
その声だけで俺は内心ホッとしてしまう。
息を切らして部屋に飛び込んできたのは、俺にとって最愛の兄であるデオル兄上だった。
俺はつい嬉しくてバレン兄上の横を通り過ぎ、デオル兄上に抱きつきに行ってしまった。
「デオル、兄上!!」
「おお、イル!誕生日おめでとう。また一年お前と年を重ねられることを嬉しく思うよ」
「ありがとうございます、デオル兄上に祝われて俺は幸せ者です!」
そう言われて俺は、嬉しくてさらにぎゅーっと抱きしめてしまう。
その姿に一番驚いたのはバレン兄上だった。
「あ、あれー!僕は?……何でだいマイブラザー!!?」
俺がバレン兄上の横を素通りしたせいで、バレン兄上の行き場のない手がそこにはあった。
「バレン、普段の行いの差だよ。それにイルもまだ顔色が悪いんだからベットに戻りなさい」
「は、はい」
本当は寝不足なだけです、なんて言えないけど俺は大人しくバレン兄上を無視してベットに入る。
その態度にバレン兄上はさらにショックを受けていた。
「まだ王宮で暮らしていた頃は、バレン兄上バレン兄上と可愛かったのに、何があったんだいブラザー!!!」
「バレン兄上、声がデカイです」
「そんな!イルは覚えてないかもしれないが、お兄ちゃんはお前のファーストキスを奪った、ただ一人の相手だと言うのに!!!」
「……は?」
初耳だし、突然何言ってんだこの兄は……。
俺はドン引きしつつデオル兄上を見ると、少し微笑ましそうに俺たちを見ていた。
「バレン、あれはイルが生まれてすぐの話だろ?」
「でも僕が一番最初ですから!!他の兄上達は僕の後だったんですからね!」
「わかったよ。バレンはブラコンなんだから仕方がないな」
待ってデオル兄上、簡単にブラコンで終わらせないで!それに他の兄上も皆赤ちゃんの頃、俺にキスしてるのかよ!?まあ、赤ちゃんだったからそこは仕方がないとして……。
この人のこれは、ブラコンを超えた何か危険な感じがするやつなんですけど!?
そう言いたいものの、弟思いのデオル兄上にそんな事を言えるわけもない。
だから文句を言いたいのを我慢して、俺は兄上達を見上げる。
「それより、今日はイルの誕生日だからな。俺たちから誕生日プレゼントを、それから他の兄弟達からもお祝いのコメントと品を持ってきたよ」
「僕はイルに会いに行くために、休みを何ヶ月も前から準備していましたから!」
凄く嬉しいのに父上と母上からはやはり何もない事に、俺は少し落ち込む。
毎年の事でわかってはいるけど、毎年無駄に期待してしまう自分がいるのだから仕方がない。
でも兄達にお礼を言おうと、何とか笑顔になる。
「今年は二人に祝われて俺は幸せ者です」
その一言に、兄上達は顔を見合わせて微妙な顔をした。
本来なら王子である俺は、国を挙げて生誕祭をしても良い存在なはずなのに……この呪いにかかってからは、ほぼデオル兄上にしか祝われた事しかなかった。
だから仕方がないことなのだ。
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