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第三章 調合編
22、錬金術道具作成
しおりを挟む聖霊樹マラソンを終えて、王都に戻ってこれたのはお昼過ぎだった。
渋るライムを一度俺の部屋に送り届け、そのままダンの家へと直行する。
「ライムは来れなくて残念だったな」
そう言うダンは、普段着てる冒険者の格好じゃなくて、鍛冶屋用の作業服を着ていた。
長身だから何でも似合う事に、これだからイケメンはと心の中で悪態をつきつつも、何故か目で追ってしまう。
やはり普段と違う格好というのは、気になるから仕方がない。多分、いや絶対それだけだ……。
俺は軽く頭を振り、ダンと目を合わせないように喋ることにした。
「ライムは元リーフスライムだったみたいで、熱過ぎるところは駄目なんだと言っていた」
「だから緑色なのか……。でもあいつインテリスライムじゃ無かったか?」
「インテリスライムはどうやら進化した後らしい」
ライム自身も、インテリスライムになる前までの記憶はあやふやであり、余り覚えていないんだそうだ。
知能を得る前だから仕方がないのかもしれない。
「スライムにも色々あるんだな。まあ、あいつの事は置いといて……それで、俺に作って欲しいのは何だって?」
そうだ、今日急いで帰ってきたのは、ダンに作って欲しい物があったからだ。
「ああ。専門外なのはわかってるんだが、何でも作れるダンなら出来ると思って……それで作って欲しいのは、錬金術師が調合するときに使う魔術道具だ」
それを聞いたダンは暫く唖然としていた。
それはそうだろう。絶対に鍛冶屋に頼む事じゃない。
「無理なら無理と言ってくれてかまわない。それに金なら今までお前に預けた分を全部やるから、どうか俺の為に頼む!!」
これが俺の命運にかかっているんだ!と、心臓をドキドキさせながら頭を下げる。
……しかし、その答えはなかなか返ってこなかった。
そして無言のまま数分が経っていた。
やはりダメかと顔を上げようとして、俺は固まってしまう。それは、俺の頭に突然ポンっと手が置かれたことに驚いたからだ。
ダンの手は、俺の頭をとても優しく撫でていた。
それが恥ずかしくなってきた俺は、ゆっくりと顔を上げる。
そしたら優しげに俺を見つめるダンと、目が合ってしまった。
「あー、そうだな急に言われて少し驚いたが、俺に作れねぇ物はないぜ。だからその依頼、引き受けてやるよ」
「……ほ、本当か?」
「ああ、本当だから安心しろ」
そう言いながらニヤリと笑うダンはやはりイケメンで、その姿をじっと見つめてしまった。
俺も大人になれば、こんなカッコいい男になれるのだろうか。
なんて馬鹿な事を考えていたら、ダンがさらに近づいてきたため、俺は少しだけたじろいでしまう。
「でもな、俺に預けた金はまだ使わせない。素材はお前が持ってきたやつだしな。だから今だけ俺の願いを叶えてくれよ」
「願い?」
そう言うダンは俺の頬を軽く手で触れると、そのままゆっくり俺の耳元に顔を近づける。
そこには、ダンに貰ったピアスがあった。
俺は咄嗟に目を瞑り、何かされるのかと心臓がドキドキしてしまった。
男なのにドキドキさせられるダンの色気がやべぇ!!なんて思っている間に、ダンの吐息が耳元に聞こえるまで、近づいてきているのがわかってしまった。
滅茶苦茶近いじゃないですか、ダンさんどうしたんですか???
と、俺の頭がだいぶ混乱し始めていた頃、突然それは鳴りだした。
ビーーーーーーーーーー!!!!
余りにも大きな音が部屋中に響きわたる。
それはライムから貰った小指の指輪から発せられているようで、俺は心臓が出そうな程驚いしまった。
「おっとこりゃあ、虫除けか?……全くあいつには一本取られたな」
そう言うと、ダンは笑いながら俺から距離をとる。
それだけで指輪からの音は収まってしまった。
正直なんの装置なのか、それよりも何で出来ているのか気になるけど聞けない、そんな指輪なのは間違いない。
「ダン、悪かった。こんな装置だとは知らなくて……驚かせたよな」
「いやいや、大丈夫だ。二人のときに好き放題させて貰ってたから、罰が当たっただけさ」
よく分からないことを言うダンに俺は首を傾げる。
そんな俺の右耳にダンは改めて手を伸ばし、笑顔でこう言った。
「そのピアス改良させてくれ」
「……え?あ、ああ……いいぞ」
そう答えると嬉しそうに、俺からピアスを簡単に取っていく。
その姿を唖然と見ながら、さっきのあれも実は今のを言うために、近づいただけなのでは……と、思ってしまい、恥ずかしくて俺は心の中で唸っていた。
は、恥ずかしい!俺は何かとんでもない勘違いをしかけた気がする!!
誰か俺を穴に埋めてくれぇ!!
そんな俺の感情なんて全く知らないダンは、楽しそうに白色の魔石と黒色の宝石を合わせている。
そしてその出来上がった宝石を、無理矢理ピアスの真ん中に埋め込んだ。
「よし、出来た!これでこいつはヒーリングピアスだぜ」
ヒーリングピアスとは名の通り、生命力を回復するアイテムだ。
これは魔力ではなく、神聖力という自然界の生命エネルギーを使う力のため、俺でも使える有難い物である。
「これでセイの体調が少しは回復してくれたら良いんだけどな……」
「ダン、俺のために……なんだかすまない」
先程まで荒ぶってた俺の感情が、一気におさまっていくのがわかった。
ダンが真面目に体調のこと考えてくれてるのに、俺ときたら馬鹿みたいなこと考えてて、申し訳なさ過ぎる。
そう俯いていると、ダンは俺の顎に手を添えて無理矢理俺の上に向かせる。
「どうせなら、ありがとうって言って欲しいな」
ニカっと笑いつつ、俺の右耳にピアスをそっと戻すダンに、なんでか泣きそうになってしまうのを抑えて微笑んだ。
「ダン、いつもありがとう」
「おうよ、いつでも俺を頼れよ!…………俺だっていつもお前に救われてんだからな」
「え?」
最後の方は小さくて、ダンの声は聞こえなかった。
ただ、優しく微笑みかけてくれたダンの顔が、俺の目に焼き付いたのだった。
こうして俺は錬金術師に必要な最上級の魔術道具の素材をダンに渡した。
そしてダンと試作品を繰り返し作り、最高の魔術道具を作り上げた頃には、もう夕日が沈みかけていた。
とても慌てて帰ってきた俺は、また部屋についてすぐに倒れてしまったのだった。
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