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第二章 錬金術師編
14、錬金術師の君は?
しおりを挟むとうとう錬金術師に会いに行く日になった。
緊張している俺は、ちゃんと冒険者に見えるように、いつもよりローブの中にいろんな防具を付けたりしていた。
でもローブの中だから見えなくね?というツッコミはしてはいけないのだ。
それに女の子だといけないからね、きちんと身なりも整えました。
顔をあまり見られないようにフードを深めにかぶってるからほぼ見えないけど、女性だったら普段気づかないところまで見ているかもしれないからね!
そんな不毛な少しのドキドキを妄想しながら、俺は錬金術アカデミーに入ったのだった。
「はじめまして、僕がルーディアです。貴方が僕を指名した冒険者……?ですか」
やはり現実は上手くいくわけがない。俺の目の前にいるのは、間違いなく男だった。
この間の受付近くで待っていたその青年は、紺色の髪を一つに束ねて、少し疑わしそうに紫色の瞳をこちらに向けていた。
やっぱり俺って冒険者には見えないですよねぇ……!
ここで弱気になってはいけない。今は7スターSSランク冒険者のセイなのだから。
「間違いなく冒険者だ。ギルドカードを確認するか?」
持っているギルドカードを渡すとルーディアはカードと俺を交互に確認し、顔を青くした。
「す、すみません。依頼主を疑ってしまうなんて、僕もまだまだですね……」
「わかってもらえたなら構わない。挨拶が遅れたが、俺はセイだ。今回は依頼を受けてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ指名依頼を受けたのは初めてでして。なのでどんな方が見えるのかとビクビクしていたら、貴方のような人が来たものですから、ついからかわれているのかと……」
少しシュンとしてしまったルーディアをみて、普段から民間向けの依頼を受けているのに、いきなり一度も依頼を受けた事がない相手から依頼が入ってきたことで、かなり警戒させてしまったのかもしれない。
少し申し訳なくなってしまった俺は頭を下げる。
「急いでいたもので、すまない。それより立ち話もなんだし依頼内容についても確認して欲しい。どこか話せる場所はあるだろうか?」
「そ、そうですね。余り周りの人に聞かれない方が良いのでしたら、少し汚いですが僕のアトリエに来ますか?」
錬金術師のアトリエ?凄く気になるんだが……!
そんな好奇心を持った俺は、色んな確認をすっ飛ばして「頼む」と即答していた。
そういうわけで、俺は錬金術アカデミーのさらに奥へと案内されたんだが、ここのアカデミー広すぎない?
俺はスタスタと先を言ってしまうルーディアを追いかけるのに必死で、そのせいなのか途中で息切れをしてしまったのだ。
そんな俺に気がついたルーディアは、さらに俺を怪訝な目で見るとこう言った。
「こんなすぐに体力がなくなるなんて、本当に冒険者なんですか?この距離で疲れるのは小さな子供でもあり得ませんよ」
その言葉がもろに俺に刺さる。
体力が無いのは分かっていたけど、俺の体力は小さな子供以下なのか……。
いつも転移していたし、移動があるときはダンに運んで貰っていたから気にしていなかった。
「き、今日は調子が悪い……」
言い訳としては苦しいだろうか?
というか、今誤魔化しても今後ずっと誤魔化し切れないよ!
だから急いで訂正する。
「いや、今のは嘘だ。ちょっと持病があるだけで……」
しまった!ついポロッと持病って言っちゃったよ……。あんなにも余計なことを言わないようにと、ライムに釘を刺されていたのに!
焦った俺の脳裏で、ライムに小言を言われるという未来が、一瞬見えた気がした。
首を降りつつ、ルーディアの顔色を伺う。
物凄くぽかんとしてる。ここまで話したら絶対に根掘り葉掘り聞かれそう……。
「……今、持病と?そんな状態で7スターSSランクの冒険者になったのですか?それに7スターSSランクと言えば最強の座とも呼ばれるランクですよね?いや、それをここで聞くのはまずいか……」
そう言いながらルーディアは周りを見回す。
ここはまだアカデミー内のアトリエに向かう途中の廊下である。
勿論周りには珍しい格好をした俺を、ジロジロと見ている人も少なからずいるわけで……。
あまりここで話したい内容じゃないのは間違いない。
「わかりました。あと少しですから、僕がおぶって行きますよ」
「え?」
突然ルーディアが俺の前に跪き背中を見せた。ここに乗れ、という事だろう。
いやいや、先程よりも視線が痛い!!!でもこのままじゃさらに人が集まってきてしまいそうだ。
だから俺は慌てて、彼の首に手を回し背中に体を預けた。
「す、すまない。重かったら遠慮なく言ってくれ」
「よいしょっと……あの、えっと言いづらいんですけど……」
もしかしてそうとう重たかったとか?
ルーディアは錬金術師だから、そんなに鍛えているようには見えない。重いのならすぐに下ろしてもらおう。
ルーディアは俺をおぶって歩きながら、少し考えると素直に教えてくれた。
「あの?ちゃんとご飯食べてます?」
「え、勿論。ってどういうことだ?」
「えっと余りにも軽すぎですし、この足も細過ぎる気がして……あっ、まさか本当に持病が……?」
ああ、ルーディアは察しが良すぎて俺は涙が出そうになる。
普段俺に触れる人物は限られているし、ダンやライムも呪いについて少しは知っている。
だから俺にそんな事は聞いてこない。
でも確かに俺は呪いのせいで筋肉が全く付いていないし、寝てる時間が長いためガリガリなんだと思う。
それを誤魔化すためにローブを着ていたのに、その事さえも最近は忘れていた。
その後、部屋に着くまでルーディアは口を開く事はなかった。
そして部屋についた頃、もしかして飛べば良かったんじゃ?と、思った事は絶対に内緒にしたい。
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