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第二章 錬金術師編
13、ライムの小言
しおりを挟む兄上が帰ってしばらく経ったころ、ライムがようやく戻ってきた。
そしていつもライムには、兄上が来ている間席を外して貰っているのだ。
兄上との時間がそれだけ大事というのもあるが、あまりライムについて聞かれるのも困ると思っていたからである。
そんなライムは何処に行っているかといえば、所用をこなしたり食料などを取りに行っているらしい。
だからライムが戻ってくるまでの間に、俺はバレン兄上の本を秘密の書棚に隠し、全てを無かった事にした。
……だからあんな本は無かったんだ。
「あ、主……どうしましたか?デオルライド様がいらした後はいつも嬉しそうにしておられたのに、今はお顔が真っ青ですよ?」
「いやいや、大丈夫!」
流石ライムだ、俺の顔色にとても敏感である。
だからこそあの本をライムに知られたくない。
何故だか知られたら良くない事が起こる予感がするのだ。
「もしやデオルライド様に何かされましたか?」
「兄上が何かするわけないだろう!」
「そうですよね……あのお方のことは私も信頼しておりますから、色んな意味で」
「そんなの俺の方がわかってる」
デオル兄上程、信頼感がある人間は居ないと俺は思っているのだ。だから兄上の事になるとついカッとなってしまう。
俺はブラコンだから仕方がない。
そんな俺を見てライムがため息をつく。そして俺のベットに腰かけると、冷たい瞳がこちらを向いた。
「主がデオルライド様の事をとても信頼しているのはわかっているつもりですが、それでも一つだけ言わせ貰います」
そういうとライムは俺の両手をしっかりと握りしめ、子供を諭すかのようにゆっくり喋り始めた。
「まず主はどんな相手にも気を許しすぎです。例えそれがデオルライド様だとしても、少しは警戒して下さい。そしていつも色んな事を気にしなさすぎです。もう少し周りの人間の行動が主に対しておかしい事を理解して下さい。とくにあのくそ黒髪男とかですね」
全然ひとつじゃなくない??それに途中からデオル兄上の事じゃなくて、ダンの事に変わっているし……。
そんな疑問をぶつける暇もなく、ライムは俺の手をさらにギュッと握り締め、ゆっくりと顔を近づけてきた。
「いいですかそんなままでは、いつか襲われてしまいますよ!そして襲われた後では遅いという事を理解して下さい。それは私とて同じ事です」
襲われる?誰に??ライムに?まさかスライムの本能的に、人間を襲いたくなるときがくるとか?
どう言うことか理解できない俺は首を傾げてぽかんとライムを見上げた。
そんな俺を見たライムはため息をつき、
「そういうところですよ!」
と、怒っていた。
俺はよくわからないけど、怒らせてしまった事をどうにかしようと思い、別に言わなくてもいい余計なことを一言をつけ加えてしまったのだった。
「えっと、俺が悪かったから怒らないでくれ。なんなら仲直りに一緒に寝てもいいからさ……」
この間、毎日一緒に寝ると言い張ったライムを断ろうとしたものの、諦めが悪く何度も主の体調管理のためだと言われてしまったため、たまにならと許可をした事を思い出していた。
だからこそ今がそのときだと、手を掴まれていた俺はそのままライムを布団の中に引きずり込んだ。
その行動に唖然としたのか、ライムは暫く何も言わずにこちらをみていた。そしてハッとすると「これはズルイです」と呟き、俺を抱きしめ動かなくなってしまった。
抱きしめられているせいで顔は見えないが、相変わらずの柔らかさと暖かさに包まれて、俺はつい抱きしめ返してしまう。
そのせいで俺はすぐ眠くなるのだった。
そして気がついたら朝になっていた。
なによりライムと寝ると、本当に目覚めがいいのだから困る。
くそぉ。このスライム心地は癖になるから、そのうちライムが居ないと俺は眠れなくなるんじゃないだろうかと、不安になっていた。
そんな不安なんて全く知らないライムといえば、起き上がるのと同時に俺の後ろに待機して、嬉しそうにご飯を食べさせようとしてくる。
「あの、今日は一人で食べれるんだけど……」
「いえいえ主、仲直りをするためにはやはりこれぐらいのことはしなくてはなりません」
そう言いつつ、俺にご飯を差し出してくる。つい癖で俺は口を開けてしまった。
その事にさらに気分を良くしたのか、ライムは俺に話しかけてきた。
「それと錬金術師についてですが……」
「ああ、明々後日には会う事ができるから楽しみだ」
「いえそうではなく錬金術師についてですが、昔聞いた話で一つ知っている事を伝えておきます。なんでも錬金術師は使っている道具が全てなんだそうです。是非ともそれを覚えておいて下さい」
「道具が全て?」
しかしその疑問に関する返事を、ライムはしてくれなかった。本当にただそれ以外の事を知らないだけなのかもしれないけど……。
そんな訳で、俺はその意味を理解する事なく噂の錬金術師に出会う事になるのだった。
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