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第二章 錬金術師編
12、第3王子登場
しおりを挟む「イル、体調はどうだい?とても会いたくて少し早めに来てしまったよ!」
そう言いながら勢いよく扉を開いたのは、この国の第3王子であるデオルライド兄上だ。
俺と10歳も年齢が離れているのに、一番仲のいい大好きな兄上でもある。
なにより金髪碧眼であり理想の王子様そのもので、優しげな表情をされたら間違いなく落ちない女子はいないだろう。
そんな自慢の兄上のことを、起きてからずっとそわそわして待っていたので、すでに準備は万端だった。
何よりも来てくれるだけで、滅茶苦茶嬉しいのだ。
「兄上!俺のためなんかに早めに来て頂けて、とても嬉しいです」
「当たり前さ。大好きな弟に、俺だって早く会いたいからね。それにしても今は顔色が少しいいかな?」
「そんなの兄上が来てくれたからです。それに俺は兄上とお茶が飲みたくて、前から準備していたんですよ!」
嬉しくてテンション爆上がりの俺だが、デオル兄上の前ではいつもこうである。
だからうきうき気分で、紅茶セットが準備された机に行くため、ベットを降りて歩き出す。
デオル兄上は最初の頃、俺のその様子にとても嬉しそうにはにかんでいたが、歩いている俺を見ると突然強く抱きしめてきたのだった。
「イル。無理をしてはいけないよ」
「俺は、無理なんて……そんなことよりも大好きな兄上と話せることが幸せなのです」
「いいや、イルはもっと幸せになるべきだ。だからそんな顔色の弟を黙って見ていられないよ」
俺はそう言われるまで、自分の顔色がどんどん悪くなっていたことに全く気がついていなかった。
確かに今日の体調はそこまで悪くないが、歩き回れる程元気いっぱいな訳でもない。
でも少しぐらいなら大丈夫だと思っていたのに……。
デオル兄上に抱きしめられていた俺は、軽く持ち上げられるとベットまで戻されてしまった。
そして優しく布団をかけてくれた兄上は、俺の両手をしっかり握る。
そんな兄上を見上げると、優しいその瞳が俺を見つめていた。
「毎回言っているが、俺は絶対にお前を死なせたりしない。それに他の兄弟達もお前を絶対に諦めたりしないからな」
その言葉に、俺はつい泣きそうになってしまう。
デオル兄上はつねに俺の存在を否定しないでいてくれる。だから俺はこの兄上が大好きなんだ。
それでも更に安心したい俺は、弱々しく聞き返してしまう。
「それは、本当ですか……?」
「ああ。俺たち兄弟はみんなイルの事が大好きなんだから!」
その優しい言葉に、俺は胸が一杯になる。
ただ俺たち兄弟は?と言うのにはいつも疑問に思ってしまっていた。
デオル兄上が俺のことを大好きなのは知っているが、それ以外の兄上とは余り会う機会が無いため、いつも実感がわかないのだ。
でも目の前で嬉しそうに、俺の頭を撫でるデオル兄上を見ていると、きっとそうなのかもしれないと思ってしまう。
デオル兄上は嘘なんかつかない!絶対に!!
俺は重度のブラコンだった。
「それで今日は、何の御用だったのですか?」
「ああ。今日はな、お前にこれを届けに来たんだ」
そう言って包紙を渡された俺は、その差出人の名前を口にした。
「バレンディア兄上?」
バレンディア・ブルーパール。
この国の第4王子だ。俺の一つ上の兄であり、唯一同じ母親を持つ兄弟でもある。
そして兄弟のなかで一番の奇人であり天才。しかし天才的なその能力は芸術方面に限られていた。
そんな兄上は芸術家の才能を開花してすぐに王宮を出ており、今現在は一流の画家として暮らしているはずだ。
たまに帰ってきては俺の絵を描いているので、遺影にするのだろうかと、毎回疑ってしまっていた。
「そうだ、バレンディアからお前宛に届いた包みだ。バレンは最近芸術家として小説の挿絵を描くついでに自分でも書いてみたところ、それが大ヒットしてしまったそうだ」
「相変わらず、無茶苦茶な人ですね……じゃあ、これはその小説?と言うことでしょうか」
「多分そうだろう。あいつの事だからきっとイルに似た人物も書かれているかもしれないぞ、楽しみにしているといい」
楽しみどころか、何故か少し恐怖を感じてしまう。
だなら俺は弱々しく「……はい」と返事をしてしまった。
その後も、デオル兄上の最近あった面白い話などを楽しく聞かせてもらった俺は、いつもと同じように最後に質問をしてしまった。
「兄上は国王になりたいと思わないのですか?」
「何度聞かれても俺は国王にはならないよ」
優しく答えてくれるデオル兄上は、困った顔をして俺の頭を優しく撫でてくれた。
そんな兄上に俺はこれ以上言葉を続けられなかった。
俺は兄上が一番この国王に向いてると思っているからだ。だから兄上が本気でそれを望むなら俺だって手伝いたい。
今の俺は呪われていて役に立たないどころか、兄上の足を引っ張っているけど俺の呪いが解けたときは、7スターSSランク冒険者の権利を際限なく使って押し上げるつもりなのだ。
だから呪いが解けるまで、俺は何度でも兄上にその問いを続けるだろう。
「また来るからね」
と言って、俺の頬にキスを落として部屋を出る兄上は、少し寂しそうに手を振ってくれた。
俺は扉が閉まるまでじっと見つめ、誰もいなくなった部屋に取り残された気がしてしまった。
だから偶然目に入った、バレン兄上から貰った包みに入っていた本を、読み始める事にしたのだった。
本を読み始めた俺は、最初の方は楽しく読んでいた。だけど読み進める度に、恐怖にかられ途中から本を投げ出してしまった。
別にその小説の内容がホラーだとか、サスペンスだったりグロかったりした訳では決してない。
そこには貧乏な画家の男と、病弱な弟の心温まるハートフルストーリーが書かれていただけだったのだが、読めば読むほどバレン兄上と俺の話にしか見えないのだ。
しかもこのストーリーただのハートフルストーリーじゃない。兄と弟はどう考えても思いを寄せ合っているようにしか思えない。
そこで俺はデオル兄上が言った「俺たち兄弟はみんなイルの事が大好きなんだから!」と言う言葉を思い出してしまった。
待ってくれ!バレン兄上の好きの方向性はどっちなんだよ???
というよりこれを俺に読ませてどうしろと?
そんなバレン兄上は電波な性格なため、会話が成り立った試しがない。
だから俺はこの本を封印しておく事に決めたのだった。俺は何も見ていない。
次に、バレン兄上が来たときどんな顔で会うのが正解なのか、俺は考えを放棄したのだった。
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