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第二章 錬金術師編
11、一週間はお預け
しおりを挟む1週間ぶりに部屋に戻ってきた俺は、その後倒れるようにベットに入っていた。
その直前にライムが何か言いたそうにしていたが、俺には余裕がなかった。
話したい事もあったけどそれは後にする。どうせ錬金術アカデミーの生徒さんに会うまで1週間は我慢しないといけないのだ。
時間はまだある。そう考えながら俺は目を閉じた。
そして次に起きた時は3日後だった。
「寝過ぎた!!?」
起きてすぐに何日経ったのか確認した俺は驚きの余り叫んでいた。
「主、やはり極寒の地で1週間過ごされた事は、身体への負担が酷かったものと思われます」
「確かにずっと寒くて、ダンに暖めてもらったりしたけど……そんなに!?」
「ダンが……今、なんと仰いましたか?」
ライムの冷たい声に、まずいことを口走ったと気がついた俺は、慌てて口を紡ぐ。
これ以上喋ったら絶対にボロがでる事がわかりきっているからだ。
「…………」
「教えていただけないのでしたら、強硬手段を取らせていただきます」
口を開こうとしない俺を、見兼ねたライムはそう言うと、突然布団の上に乗りはじめた。
そして俺を跨ぐように膝立ちをし、両手を顔の横につく。そんなライムは俺に顔を近づけるように、無表情でじーっと見つめてくる。
顔が近いし、何この体勢!!?
覆いかぶさるなんて俺が女の子に一度はしてみたいことであって、されたいことじゃない。
でもライムはそんな事気にせずに、そのまま俺を見つめ続けてくる。
何分か見つめあったのち、折れたのは勿論俺だった。これ以上あの瞳に見つめられたら何故か怖い気がしたのだ。
「ダンが寒いだろうって、毎日俺を抱きしめて寝てくれてたんだよ」
上半身裸で、とは流石に言えないけど……。
「それだけですか?」
「は?それ以上に何があるんだ?」
俺の心の中まで覗いているかのように瞳が細まり、そのまま顔が降ってきた。
「ちょっ!さらに顔を近づけるな!!」
「少し動かないでください」
そう言うとライムは顔を更に近づけてきたため、咄嗟に目を瞑る。ライムが変な事するわけがないと思っていても、こんなに近づかれると何故かドキドキしてしまう。
暫くしてオデコにスライムらしい柔らかい感触があった。
目を開けたときには、もうライムはすでにベットから下りて、何事も無かったかのように横に立っている。
「えっと……」
「いきなり失礼いたしました。あの男に出来て私に出来ない事は無いだろうと、少し体温を測らせて頂きました」
「え?」
さっきの検温だったの??まじで!!?
それなのに俺ときたら……恥ずかしすぎるだろ!!
きっと今俺は、少し顔が赤くなっていることだろう。
でもとりあえず気になるので、検温した結果を聞いてみた。
「温度自体は少し高いですが、寒いや暑いなどの症状はもう出てないようですね」
「……温度管理された室内にいるからそうだろうよ」
「私は温度とか感じませんので、今まで配慮しておりませんでした。ですので、これからは毎日確認させて頂きます」
「毎日!!?」
あれをやるのか??
流石に相手がライムだとしても、恥ずかしすぎて布団から出たくなくなりそうである。
だから俺は必死で断ろうとしたのに「主の体調の方が大事です」と断られてしまった。
とにかく話題を変えようと、今度会う予定の錬金術師の話を持ち出す。
一つ、ライムにも確認しておきたい事があったからだ。
「錬金術師に会うのはいいんだけど、何処まで事情を話すべきだと思う?」
「何処まで、ですか……」
顎に手を当てて考えていたライムは、少しの時間をおくと自分の考えを話し始めた。
「そうですね、私は最小限でいいと思いますよ。なので調合して欲しい物と、呪いを解く為に集めた素材でどんな物が出来るのか……その二つだけで十分じゃないでしょうか」
「何でとか、何に使うのとか、聞かれたりしないかが心配なんだけどな」
「依頼でもないことに踏み込んでくるような雇われ人は、あまりいないのではないですか?ましてやお金も貰えないと言うのに……」
確かに錬金術師はお金がかかる職種なので、守銭奴が多いらしい。だから金にならない事に首なんか突っ込んでこない……よなぁ。
噂の錬金術師の話を思い出して、そう言うところも普通の錬金術師と違ったら逆にこっちが困るなんて思ってしまった。
「ライムの言う通り、その二つに絞って聞いてみる事にするさ」
「ええ、そうして下さい。これ以上、主との時間を奪うような厄介な人物を増やされては困りますので」
そんな人物いたかな?
と、俺は首を傾げている間に「さてと……」とライムがいそいそと、俺の布団に入ってくるのが見えた。
「ら、ライム。なんで布団に入ってくるんだ??」
「何故?と聞かれましても、私があの男に劣る訳がありませんので主の快適な睡眠のため、これからは一緒に寝るようにしますね。私の方があの男よりぷにぷにで触り心地も最高ですから、横にいるだけで主の役に立つはずです」
「あ、はい……」
そんな熱弁されたら断りを入れる事なんて俺には出来ないわけで、それにライムは触り心地や温度が完璧過ぎるので、側にいるだけですぐに眠気がやってくるのだ。
「言い忘れておりましたが明後日には、主のお兄様である第三王子のデオルライド様がいらっしゃいますよ」
え?兄上が!?
そう口にしようとしたのに俺はもう睡魔に負けていて、そのまま深い眠りに落ちていた。
デオル兄様は俺と一番仲の良い兄だ。
だから明後日に会えると思うととても嬉しくて、次に目覚めた時はとても気持ちの良い朝を迎えたのだった。
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