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第一章 冒険者編
9、ダンで暖をとる
しおりを挟む「う、ここは……」
体の重さに、俺は恐る恐る目を覚ます。
そこはいつもと違う、知らない小屋の天井があった。
そして俺は覚醒した思考とともに、思い出していた。
たしかアイスドラゴンを倒した後、俺は倒れてしまったのか……。
もしかして、あんな環境で活動をしたから普段よりも体に負荷がかかってしまったのだろうか?
俺は自分の体をまだ甘く見ていた事を後悔する。
次からは体に負担がかかるような調査場所は、もっと活動時間を短く見積もって出かけなくてはならないだろう。
しかしそう思っても、すでに倒れてしまったものは仕方がない。
もしかするとダンに物凄い迷惑をかけていないだろうかと、俺は動かせる視界でダンを探す。
だから顔を少し傾けて、ギョッとしてしまった。
何故かダンが俺の横で寝てる!??
しかも上半身裸なんだけど……。
この小屋には何個かベットがあった筈であり、どうしても一緒に寝ないと行けない訳じゃない筈だ。
なのにどうして……?
俺はそんなことを思いつつも、せっかくだからとダンの顔を見つめてしまった。
イケメンは寝ているときもイケメンでずるい。
そのままなんとなく眺め続けていると、その瞳がゆっくりと開くのがわかった。
ぼんやりとした瞳で俺を見つめると、ハッと目を覚まし俺を抱きしめる。
「セイ!起きたのか、よかった!!」
俺は口をなんとか開きゆっくりと返事をする。
「ダン……心配をかけてすまない」
「まじでびっくりしたんだからな!倒れたと思ったら1日中目を覚さねぇし、ずっと震えてるから寒いのかと思ってこうやって暖めてたんだぜ」
だから一緒に寝ていたのか……。
確かに裸の方が暖かいらしいもんな。
結界が壊れてしまった今、ここはとても寒い。だからここの設備だけでは、寒くて凍え死ぬ可能性があった訳だ。
それを回避しようとしてくれたため、ダンはこんな姿なのだろう。それならばとても申し訳ない事をした。
「ダン、ありがとう。本当に助かった」
「いやお礼ならマニに言うんだ」
そう言われた俺はマニを視界に入れようと辺りを見回す。そこにはマニ以外のスライムが、何匹も忙しそうに動き回っていた。
「何故こんなにスライムが……まさか!」
「ああ、マニがお前を救う為に何回も分裂して、スライムを増やしてくれたんだぜ」
「マニ……」
俺の声に応えるように、マニがピョンピョンと俺の前にやって来た。
「ありがとう、マニ。お前のおかげで俺は死なずにすんだ」
俺の体は呪われている。その呪いは一歩間違えれば簡単に死んでしまう程に。
だからこそマニはいつものように俺を救うため、無理をして分裂をしたのだろう。
「俺が動けるようになったらすぐに魔素を補給してやるからな。もう少し頑張ってくれ」
俺は自分の失態が情けなくて、何度も二人に感謝の言葉を述べてしまった。
「この体質の事、驚いただろう?」
「まあな。でもある程度は予想はしていたんだが、まさかここまで酷いとは知らなかったから驚いた。よくそんな体質で冒険者になろうと思ったな」
「俺はこれを治すために冒険者になったんだ。だからこれぐらい大丈夫……」
その言葉が終わる前に、気がついたら俺はダンに抱き寄せられていた。力強く抱きしめてくるダンは、悲しそうな瞳でこちらを見つめてくる。
だから俺は何も言い出せずにダンと見つめあっていた。
「……ウソをつくな、全然そんなことねぇんだろ?セイは俺に今までそんな話、全くしてくれなかったからな。だから踏み込んじゃいけねぇんだとずっと思ってた。でも俺も少しはお前の事情を知ったんだから、やれる事はしてやりてぇんだよ……」
そう言いながら、ダンはさらに俺を強く抱きしめてくる。
だけど俺はその言葉に返事をする事は出来ない。
だって少しでも教えてしまったら、俺の事情を全て話してしまわないといけない気がしたのだ。
貴族嫌いのダンに俺が王子である事がばれたら、そのときダンはどうするのだろう。
そう考えたらやはり口から言葉はでなかった。
そんな俺の様子を見ていたダンは、俺から少し離れて起き上がると、俺の頭をゆっくりと撫でた。
その表情はやはり寂しげで、俺はダンを見ることができない。それなのにダンは先程の話は無かったかのように、話題を変えたのだった。
「それで、いつ頃動けるようになるんだ?もしかして週に一回しか動けないなんて事はねぇよな?」
「流石にそこまで酷くない。でも立ち上がれるようになるのは明後日くらいだと思う」
「ご飯は?」
その言葉に俺はいつもライムに食べさせて貰っていた事を思い出す。
ダンにお願いするのは凄く嫌だったけど、今は緊急事態だから仕方がない。
そう思い、俺は仕方がなく小さな声で呟いた。
「……食べさせてくれ」
「ん?何だって?」
「一人じゃ、食べられないから……」
「声が小さくて聞こえないぞ」
こいつ、わざと聞き返してないよな?
ワナワナと震える俺は、口をパクパクさせてから怒鳴るようにダンに言い放った。
「一人じゃ食べられないから、食べさせてくれ!!」
余りの大声にびっくりしたのかダンが目を見開く。そしてすぐに口の端をニヤリと上げると、俺の頭をポンポンと叩き嬉しそうに言った。
「よーし、俺が優しくじっくりと食べさせてやるから安心しろ」
ダンはそう言いつつベットから下りると、料理の準備をするために部屋を出ていく。
ダンが居なくなった途端、寒さに俺は体を震わせる。
なんだかダンが恋しいみたいで恥ずかしい……。
そんな俺の感情なんか気にせずマニと、赤色のレッドスライムが俺の布団の中に入ってきた。
「お前ら、俺を暖めようとしてくれてるのか?ありがとな」
俺はスライムに挟まれて幸せに浸りながら、少しの間眠ってしまったのだった。
次に目を覚ましたとき、ダンがいつの間にか戻ってきていた。
そして何故か体を起こした体勢にされていた俺の後ろには、ダンが背もたれになって座っている。
「っと、悪りぃ。起こしちまったか?」
「丁度起きたところだから大丈夫だ。それにしてもこの体勢は……」
「いや、ご飯を食べるなら体を起こした方がいいと思ってな」
確かにその通りだ。でも気になっていたのはそこじゃない!これは偶然なのか?この体勢はいつもライムがしてくれる体勢と全く同じなんだけど……。
でもダンはライムと違ってスライム感がない!
だから逞しい胸筋とか腹筋が背中に直に伝わってくるわけで、ちょっと羨ましいとか思ってなんかない……。
「さて。セイ、口を開けろ」
「うぅ……」
ダンにご飯を食べさせられるのは、なんだか凄く複雑だ……。
でもここで食べないわけにもいかない。
「ほら、あーん」
「うぐぐ……あ、あーん」
俺は恥ずかしさを吹き飛ばし口を開けると、ご飯を咀嚼する事に集中する。
何度かもぐもぐしていると、ダンが嬉しそうに話し始めた。
「なんだか懐かしいな。お前と出会ってまだ数回目のときに同じような事を何回かしたよな!」
「むむ!!」
おれが咀嚼中で喋れないのを良いことに、ダンは夢中で喋り始めてしまった。
それはまだ冒険者慣れしていない俺が、初めての失態を犯したとき……とても思い出したくない話だった。
だから恥ずかしい俺はその話を聞くのをやめて、咀嚼に集中する事にしたのだった。
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