9 / 110
第一章 冒険者編
7、ライムの牽制
しおりを挟む現在休憩中の俺は、このままライムに通信を入れるのを忘れると、また小言を言われそうだと思っていた。
だから仕方なくマニに手を乗せる。
「マニ、ライムと通信を頼む」
俺はライムをイメージしながらマニを撫でる。
すると徐々にマニの表面が波打ち、ライムが見えてきた。
『あ、主。連絡お待ちしておりました』
「ライム……顔が近い。もう少し離れてくれ」
『おっと、これは失礼致しました。余りにも連絡がないものですから、このスライムにくっついておりまして』
どんなに通信を待ってたんだこのスライムは……。
でも通信すると言ったのに忘れていた俺が悪いのかもしれないと、少し罪悪感が生まれたので一応謝る。
「遅くなってすまん」
『いえ、連絡があったのですからいいのです。それより、あのクソ男はどこですか?』
クソ男って……ダンの事だろうか?何故かライムはダンの事を好いていない。
きっとライムの見た目が原因なんだろうけど……。
「ダンなら……」
「お、ライムじゃないか!息子よ~元気にしてたか!!」
『私はお前の息子じゃないし、私の方が長生きしている!』
「まあまあ、そう言うなよ。見た目は俺とセイを足して2で割った容姿をしているんだからな」
ははは、と笑うダンに罵倒を浴びせるライムを見て俺は溜息をついたのだった。
ダンが言った通り、ライムの姿は俺とダンを合わせたものだ。
それはライムが人型を取る為に参考になる人間が、俺とダンの二人しかいなかったからだ。
そのせいでダンはライムを見るたびに俺との息子だと言いはり、ライムはライムでダンの姿が混ざっている事に嫌悪感を示していた。
そのためこの二人の相性はとても悪い。
「二人とも落ち着け!とりあえず、まずはご飯を食べたい」
「じゃあ、ご飯持ってくるから待ってろ」
『すみません。主の貴重な時間を割いてしまいました。しかしあの男と主、二人だけと言うのはやはり許せません!主はあの男の下心がわかっていないといつもいつも!』
「まあまあ、とりあえずごはん食べようぜ!」
ライムの声を遮るようにすぐに戻ってきたダンは、俺の前にどんどんご飯を並べていく。
いつも思うが、ご飯の量が多くないか?
「お前は食べ盛りだからな、腹一杯食え」
「ありがとな。それとライム、食べながらで悪いがアイスドラゴンの情報を教えてくれないか?」
『言いたい事はまだまだありますが、仕方ありません。主はゆっくりとご飯を召し上がって下さい。すぐに情報を持って参ります』
そう言い席を外したライムを待ちながら、俺はダンの作った料理を食べる。ダンの料理はザ・男の料理と言った感じで量だけは多い。
まあ、味も嫌いじゃないから食べられるだけお腹に詰めていく。
「おい、もっとゆっくり食べろよ。それとも俺が食わせてやろうか?」
クスリと笑うダンの皿の料理はもうすでに食べ終わっているように見える。
「一人で食べれる」
「昔はたまに食べさせてやったのにな……」
「10歳のときの話を毎回蒸し返してくるな!」
「ははは。まあいつでも食べさせてやるから、困ったら言えよ」
そう言って俺のほっぺについたご飯粒をサラッと取り、パクリと食べてしまえるダンはやはりイケメンだ。それなのに何故結婚していないどころか、彼女もいないのか?
正直ダンの方がハーレム作れそうだよな……と、ダンを見つめてしまった。
「おいおい、そんなに見つめられたら照れちまうぜ」
『照れるついでに爆発してくれませんか?』
見つめあってる俺たちの間に冷たい声が割り込む。
先程情報を集めに行ったライムが戻ってきたようだった。
「うわっ!ライム、戻ったなら言ってくれ!!」
『すみません。まさか主をこんなに驚かせてしまうとは思いませんでした。ではアイスドラゴンについてですが……』
俺は口をもぐもぐさせながらライムの話に耳を傾ける。
『アイスドラゴンは吹雪が吹き荒れる場所で発生しやすい魔物であり、魔力の偽装が得意です』
「魔力の偽装?」
聴き慣れない言葉に俺は首を傾げつつ、ご飯を食べる手は止めない。
『はい。正しくは偽装に見せかけるため自らを凍らせて、仮死状態にする事で相手に気配を察知させないそうです。そして獲物が近寄ってきた場合、不意打ちを狙うように仮死状態を解き、獲物を仕留めるのが得意との事です』
「ドラゴンの癖に不意打ちが得意なのか……」
通常のドラゴンは交戦的で、自らの強さに対して絶対の自信を持っている。そのため今まで戦ったドラゴンは真正面から向かってくる個体が多かった。
でももし本当に、この地にアイスドラゴンがいて仮死状態で眠っているのなら、魔力反応が無かった事にも頷ける。
「それでどういう場所で仮死状態になるんだ?」
『文献によればアイスドラゴンは、氷山を生み出しその中に身体ごと隠すのだそうです』
氷山?そう言えばここに転移したとき、何処かで氷山を見た気がする。同じように気がついたのかダンが反応を示す。
「氷山だと?」
「ダンもか、何処で氷山を見たか覚えてるか?」
「何処でって……」
その答えを聞く暇もなく、俺たちを激しい揺れが襲った。椅子から落ちそうになった俺は隣に座るダンの方へと手を伸ばす。
なんとかダンの腰に手を回した俺は、ダンが勢いよく立ち上がり叫ぶのをしっかりと聞いた。
「氷山つったら、この聖域の真後ろにあるじゃねぇか!!!」
114
お気に入りに追加
2,134
あなたにおすすめの小説


光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる