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プロローグ
3、ライムとの日常
しおりを挟む何故スライムが人の姿をして、俺の執事をしているのか……それには色々訳がある。
執事のライムは、元はインテリスライムだったものが進化して人型になったものだ。
そのインテリスライムというのは1億匹に一匹生まれるとされる知恵を持ち、言葉を話す事が出来るスライムだった。
出会った当時その事で悩んでいたライムに、この世には人間の姿に進化して生活するスライムもいる事を伝え、そういう一族をスライム族という事を教えた。
そのスライム族は従魔契約さえしてあれば、人間社会でも人として対等に扱われる。
その結果ライムは人型に進化する事を決意し、俺と従魔契約を結んだついでに俺の執事になって貰ったのだった。
俺としては本当は女の子になって欲しかったけど元から男性的な声であったのと、人型化するに当たり参考になる人間が周りに俺ともう一人の男しかいなかったことから、俺に少し似た姿になってしまったようだ。
そこは本人にも選べなかったのか、たまに不満を零している。
そんなライムを王子である俺の執事にするのは実は簡単だった。俺が専属の執事を必要としている事を兄上に持ちかけただけである。
そしてその応募を受けたのはライムただ一人だけだった。
何故そんなに応募が集まらないのか……。
それは第5王子イルレインが謎の奇病に襲われた王子であること。
それが噂として国中に広まってしまっているからだった。
どうせ俺は呪われた病気持ち。
正直そんなやつの看病をしたい人間なんて誰もいなかったというわけだ。
でもそのおかげでこの部屋には、俺とライム以外の人間はほぼいない。この部屋の中であれば俺はずっと自由なのだ。
そしてライムが来てくれたことによって一番ありがたかったことは、スライム達だった。
ライムはスライム族として人の姿になったが、その本質はスライムと違いない。
だからこそライムはスライムを生み出す。それは分裂とも言えるかもしれない。
それも無限に分裂し続けているため、俺の部屋はスライムだらけだ。
そしてライムが何度分裂したとしても、同種のスライムが生まれるわけではなかった。
この世界ではスライムの種類は1万種以上いるとされている為、様々な種類のスライムへと育っていく。
まあ、少し問題があるとするならたまに進化して魔物になったりするので、決して安心とは言えないのがスライムなのだ。
そして余りにも増え続けるのでスライムは放牧したり、野に離したりしている。
そんな訳で沢山のスライムに助けられて、俺は快適に生きていく事が出来ていた。
だから今もスライムによってかなり快適になっているはずの俺は、ライムとこの部屋を交互にみて思った現状を口にした。
「ライム。またスライムが増え過ぎてないか?」
「あ、すみません。主の事を考えていると自然に分裂してしまって……」
「……ん?でも分裂するのは悪い事じゃないだろ?」
俺の言葉にライムは申し訳なさそうに視線を彷徨わせると、突然話題を切り替えた。
「そ、それよりも体調はどうですか?」
「うーん、口が動くからご飯は食べれる。でも体が動けるようになるのは明日だな」
「わかりました。では食事を先にしましょうか」
そう言うと俺を抱き起こし、背もたれの代わりになるように後ろから支えて座るライムに、いつも申し訳なく思ってしまうのと同時に、この体勢が少し恥ずかしい。
だって後ろから抱きしめられているみたいで、小さい子供になった気分だ!まあライムが大きいから尚更そう感じるだけかもしれないけど……。
それにライムの体はスライムなだけあってとても柔らかい。なんでも服も体の一部らしいのだけど……どうなってるの?なんて怖くて聞けないし、正直俺はこの触り心地にやみつきだから、文句は言えないのだった……。
「パワースライム達、ご飯をこちらへ」
ライムの声にあわせて2、3匹のスライムが食事を器用に運んでくる。
目の前に並べられた美味しそうなご飯を見ても手が動かないのが本当に辛い。
そんな俺にライムがスプーンでご飯を運んでくれる。
「はい主、口を開けてくださいね、あーん」
俺は未だに慣れないその行為に恥ずかしがりながらも、ただひたすら口を動かす。
これはご飯が美味しいから、だから仕方がないのである。
そして食べ終わる頃には、いつも嬉しそうにこちらを見つめるライムと目が合うのだ。
ライムはスライムだから表情が乏しい筈なのに、俺には凄く嬉しそうな顔に見えてしまう。
きっとこれが慣れというやつなのかもしれないけど。
食べ終わるとライムは俺をベッドに横たえる。
そしてひんやり柔らかい手で俺のおでこに触れた。
「さあ、今日はもう寝てください。明日からまた忙しくなりますから」
そう言うと俺から手を離し、すぐに他のスライム達を呼び寄せるライムに、俺は一つ伝えておきたいことがあった。
「あのさ、もし兄上が部屋に訪れた場合は3日後なら大丈夫だと伝えて欲しい」
「わかりました。ではおやすみなさい、イルレイン様」
その優しい声に俺はすぐに意識を手放す。
これがここ数年の、ライムと俺の日常である。
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