やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた

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プロローグ

2、その実態は

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部屋について倒れた俺は、一日中眠り続けていた。
冒険業から戻るといつもこうなのだから仕方がない。
でも何故か今日はとても深い眠りに落ちていた。
そのためか、長い長い夢を見るはめになってしまったのだった。


そしてその夢は、過去の俺───。

まだこんな状態になる前、ブルーパール王国第5王子イルレインとして兄達と暮し、何よりも1番幸せだった頃の夢だった。

その当時は過保護な四人の兄達に付き添われ、代わる代わる一緒に遊んでもらっていた。
そして父上や母上に抱きしめられて愛されていたそんな時間……今はもう存在しない幸せな日々の事である。

それなのに幸せな日々はある日を境に変わってしまうのだ。
どうやらこの夢はそんな悪夢さえも続けて見せてくれるようだった。


その日、5歳の俺は子猫を助けようと木に登ったのに、その猫に引っ掻かれて落ちてしまう。
そのとき頭を強く打った俺は、その衝撃で前世を思い出したのだった。

どうやら俺は異世界に転生してしまったようだ。
なにより金髪に金の瞳という、よくある物語の王子様といえる風貌に俺は歓喜した。

そして前世といっても覚えているのは知識だけで、俺が何者だったかまではあまり思い出せなかった。
でも何故か異世界転生という知識は膨大に持っていたので、俺がそれに関する物を好んで見ていたのは間違い無いだろう。

なにより俺の脳裏に浮かんできたのは、異世界転生チート無双してハーレムを作るような作品ばかりだった。
その日から俺はハーレム作るぞ!と張り切るように、剣や魔法の知識を得ようと積極的に取り組みはじめた。

めきめきと成長を遂げた俺は、このままならハーレムも近い!と、少し調子に乗ってしまったのかもしれない。
だから周りの人達が、第5王子の噂について話していたことなんて全く知らなかったのだ。


そしてその日はやってきた。
俺の努力もあって、魔法を始めて使う事が許されたのだ。意気揚々とイメージ練習通りに、体から魔力を放とうとした。

───そして異変は起きてしまった。

魔法を放つ瞬間、俺は立っていられないほどの頭痛と目眩に襲われ、そのまま倒れてしまったのだった。

目を覚ましたとき、その医師は言った。

「これはもう二度と治らない病です。イルレイン殿下は20歳ぐらいまでしか持たないでしょう」

それからというもの、王宮の最奥にある誰も近寄らない宮に部屋を移された俺は、ただ絶望していた。

せっかく異世界転生したのに、このまま簡単に死んでしまうのだろうか?……と数日ベッドの上で動かない体に自問自答するしかなかったのだ。

そしてある日やけになった俺は思いつく。
異世界転生者なのだから、もしかしたら何かチートを持っているのでは無いか?
そう思った俺は、いでよステータス!と願い目をつぶった。

恐る恐る目を開くと、目の前には淡い光を放つステータスウィンドウが浮かんでいた。
ステータスが出たことに歓喜した俺は、すぐに過酷な現実に突き落とされることになる。


俺のステータスはとても酷いものだったのだ。
体力は常に減少し続けており、魔力量は常にゼロである。それに対して魔力の最大容量は何故か緩やかに増え続けるという謎の現象が起きていた。
そして俺には、酷い状態異常がかかっていることがわかったのだ。

俺の病は病気じゃない。
誰も解くことの出来ない死の呪いだったのだ。
そして何よりも名前が酷かった。

《この世からの挑戦》

それがこの呪いの名前。つまり異世界からの転生者に向けた呪いなのだろう。
本当にこんなふざけた呪いで俺は死んでしまうのだろうか?そう考えたら怒りが湧いてきた俺は、叫ばずにはいられなかった。

「せっかく異世界転生したのに、ハーレムを作るまでは絶対に死ぬものか!」

そうだ。誰がこんな呪いで死ぬものか!!
呪いを解いて絶対にハーレムを作ってやるんだからな!
そう意気込んだ俺は、それからというものその思いと執着だけを胸に今まで生き抜いてきたのだ。

そして生きるためには全然時間が足りなかった。
だから俺は今、寝ている場合じゃないのだ!
やる事が沢山あるのだから……と、俺は自力でこの悪夢から目を覚ましたのだった。


「はっ!今は……」

目を開けるとそこはいつもの天井。
俺が倒れたあの日から、殆どの時間をここで過ごしている。
そんな俺の部屋だった。

「今は主が冒険業からお戻りになられて、まだ1日しか経っておりません。それよりもうなされておりましたが……大丈夫ですか?」

そこには髪も瞳も綺麗なライム色で、何処か俺に似た顔立ちをしている長身の男が、無表情ながらも心配そうに立っていた。

そんなこいつは、俺の執事をしているライムだ。

「ああ、いつもの事だ。心配するな」
「そうは言いますが、主の事を心配しないわけにはまいりません。少し失礼しますね」

ライムは心配そうにそう言うと、動けない俺の体勢を直すために少し持ち上げ、そのまま強く抱きしめてきた。
きっと抱きしめる必要は無いけど、ライムがいてくれるといういつも通りの心地良さに、俺はホッとしてそのまま体を預けてしまう。

それに弱気になってる今の俺は、ライムを抱きしめ返したかった。それなのに動かないこの体はとてももどかしい。
だから俺はライムに御礼を言った。

「ライム、いつもありがとう」
「そうおっしゃるのでしたら絶対に動こうとしないで下さい。私には貴方しかいないのですから、何かあっては本当に困ります……」

ライムは体の位置を調整するように俺をベッドに戻し、優しく布団をかけ直してくれた。
そして改めて背筋を伸ばすと、優しい瞳で俺を見つめる。

「それに今の私があるのは普通のスライムだった頃、貴方に救われたからなんですから……最後まで責任を取っていただかないといけませんよね」
「……それは、わかってる」

わかってる。
わかってるんだけど、毎回目の前にいるこの男がスライムだって事をつい忘れてしまいそうになるのだ。

そうなのだ。
ライムは俺の執事であり、従魔であり……。

───そしてスライムである。
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