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プロローグ
1、最強の男現る
しおりを挟むこの世界では、全ての生物が元はスライムから出来たとされている。
視線の先にいる巨大なドラゴンだってそうだったのかもしれない。
だからこそ、この世界の生物はスライムの核と同様に急所が一つだけ存在している。
それを知る事ができたならどんな生物だって一撃で殺せてしまうだろう。
片隅でそんな事を考えつつ、俺はドラゴン目がけて急いでいた。
そのドラゴンの足元では、冒険者達が決死の防衛をしているようで、その姿が少しずつ見えてくる。
これは緊急クエストであり、今回は全く想定されていない場所でアーマードラゴンが出現したのだ。
急がなければ被害は悪化していくばかりだろう。
「くそっ!あの尻尾を受けたら終わりだ!!」
「わかってる、とにかく離れろ!」
「離れろって言われても、もう追いつかれてるんだぞ!!!」
そこには10人ほどの冒険者が、悪態をつきながら必死に走っていた。しかし真後ろにはドラゴンが……その大きさからは考えられないスピードで冒険者達に迫っていた。
「も、もうダメだぁ……!!」
「き、救援は間に合わなかったか……」
そう嘆きつつ、諦めるものや天に祈る者まで出始めていた。しかし無情にもドラゴンは重量ある尻尾を振り下ろそうとしていた。
もう間に合わないと思ったそのとき、俺は急いで声を発した。
「いや、なんとか間に合ったところだ」
その声が冒険者達に響き渡るのと同時に、ドラゴンが大きくのけ反る。
俺が放った魔術が当たったのだ。
のけ反るドラゴンを大きく後退させる為に、俺は続け様に魔術を打ち込む。
ドラゴンがとうとう耐えきれずに、バランスを崩し倒れこんだ。
そして砂埃が巻き上がったのを見て、冒険者達は一斉にこちらに走り寄ってくる。
「助かった!」
「まじで死ぬかと思った……」
「あんた達は一体……!?」
「「「!?」」」
砂埃が少し晴れ、俺達の姿が冒険者の前に現れる。
その顔は一様に驚愕で彩られていた。
何故なら颯爽と現れた俺は───。
お姫様抱っこされていたからだった!
何でたよ!って言いたいのは俺の方だけど今は時間がないから言い訳は出来ない。
「俺は7スターSSランク冒険者のセイだ。そしてこいつはBランク冒険者のダンだ」
お前も喋れよと、俺をお姫様抱っこしている男を見上げると、そいつは黒髪を靡かせて飄々としながら黒色の瞳で俺を見つめていた。
俺はダンに緊急クエストだから行くぞ!としか言ってない。だから喋る必要は無いのかもしれない。
でも持ち上げられてる俺の気持ちにもなって欲しかった。
確かに俺は体力がないから、クエスト帰りの緊急クエストがキツいのは間違いない。
だけど別にお姫様抱っこじゃなくても良かっただろうと!!
そんな俺の気持ちとは関係なく、周りの冒険者達はザワザワと騒ぎ出していた。
「あ、あの噂の……」
「成る程こいつが、あの!」
「なんて事だ、本当だったのか!?」
この人達、まだ後ろにドラゴンがいる事を忘れてないだろうか……。
聞こえてくる噂にうんざりしながら、俺は太陽の位置を確認する。
夕日が沈むまであと数分、それまでにアーマードラゴンを倒さないと俺の体がもたないだろう……。
「悪いが、足手纏いになるから離れてくれ」
「わ、わかりました!!お前ら行くぞ!」
その中にいるリーダー格の男が声をかけると、他のやつらも思い出したかのようにドラゴンを見上げながら、慌てて走り出す。
その様子を確認し終えた俺はドラゴンを改めて見ると、ようやく立ち上がることができたのか、怒りに満ちた瞳をこちらに向けて大きく声を上げた。
ぐるらぅぁあああああぁああ!!!!
その雄叫びと共に、口からブレスを出そうとしているのだろう、強い魔力派を感知する。
「マニ、頼む」
俺は手に抱えていた青紫色のスライムを撫でる。
すると俺の前には大量のステータス画面が映し出されていた。体力、魔力量などの情報が出てはいるが、それは全く必要ない。
一番大事なことは弱点である核の位置を知ることだからだ。
その核があるのは左肩の少し下。元から体の硬いアーマードラゴンは特に核を覆う事はしていないようだ。
「ダン!転移するが、そのまましっかり抱えていてくれ」
「わかったぜ」
ダンはニヤリと笑うと、俺を抱える手に力を込める。
そしてドラゴンがブレスを放つ瞬間、俺達はその場からかき消えた。
それは俺が、転移を使ったからだ。
次の瞬間ドラゴンの背面にいた俺は、一番得意な魔術であるグラビティーアローを打ち込んだ。
その光は明滅しながら、ドラゴンの左肩下に突き刺さる。そして周りの光を飲み込むように重力波を発生させ、ドラゴンの左肩に穴を開けて消滅していった。
核ごと左肩を打たれたドラゴンは突然コト切れたようにゆっくりと倒れていく。
完全に倒れた事を確認して、そのドラゴンを亜空間ボックスへと放り込む。
その動作を見ていた冒険者達は、皆一斉に盛大に喜び合っていた。
「うおおお!あんたのおかげで命拾いした!」
「ありがとう、ありがとう!……おれはもう、ダメかと……」
「やっぱり噂は本当だったんだ!!俺達は助かったんだ!」
そんな冒険者達の姿はボロボロで、あちこち怪我をしている者達ばかりだ。
だから俺は、そいつらを早く救助しなくてはならない。そこまでがこの緊急クエストだからだ。
「まだ終わりではない。ギルドに戻って早く怪我の手当てをするんだ」
そう言っておれは転移空間を作り出した。これをやると体力をかなり消耗するからあまりやりたく無いが、今は緊急事態だ。
こうしてギルドへ冒険者を案内した俺は、再びギルド内で驚愕されることになる。
それはギルドへ転移空間を繋げたからじゃない。
何故か俺がお姫様抱っこの姿でギルドに現れたからだ。
正直そのことを忘れていた俺が悪いけど、気にしている時間はない。
「こいつらを頼む」
言い訳をする暇もなく、一言添えて俺は颯爽とその場を立ち去った。
何故って、もう本当に時間がないからだ。
ギルドの外にでると、夕日はもう殆ど見えなくなっている。
俺はもう体を動かすのも億劫な状態だった。
「……すまないが、あとは……任せた」
「ああ、任せとけ……だからゆっくり休めよ」
ダンの声を最後まで聴き終えることなく、俺は最後の力を振り絞り……転移した。
俺が住む王宮の一室へと……。
部屋に辿り着くと同時に倒れ込む俺の元へ、名前を呼ぶ声が聞こえる。
「イルレイン様!!!大丈夫ですか、すぐに処置を……」
その叫び声を聞きながら、俺の意識はすぐに途絶えてしまったのだった。
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