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三章までの間話

158、恥ずかしいデート①

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お久しぶりです。思った以上に遅くなってしまい、すみせん!
デオとウルの短編で後半の話にエロがあります。
三章直前の前日譚的な感じになりますが、結構長くなる+更新に時間がかかりそうなので、時間ある時にまとめて読んで頂けたら幸いです!

ー  ー  ー  ー  ー















イルの誕生祭はもう明日まで迫っていた。

それなのに俺の記憶については、まだ何も解決していない。
何故なら俺を心配するウルが常に側にいたせいで、少しでも怪しく見える行動をとる訳にはいかなかったのだ。

そんな訳で今日の俺も、当たり前のようにウルと一緒にいた。


一緒にいるのはいいのだが……何故俺はまた、例のアイテム屋にいるのだろうか?
俺の右隣にはウルが、その向かいにはサースがいる。そしてこの部屋は、間違いなくこの間俺ので汚してしまった場所だった。
ここに連れてこられただけでもかなり動揺したというのに、更に俺は数日ぶりに見たサースの姿に驚き過ぎて固まってしまったのだ。

二人が主従契約をした事は知っている。しかし今のサースは子供のように小さくなっており、青い髪色と緑色の瞳以外は全くの別人にしか見えなかった。
何をどうしたら突然そんな姿になるんだ……?
少し気にはなるが、俺の無駄話で2人の邪魔をする訳にはいかない。
しかしそう思ってしまうのは、ただ俺がウルに話しかけたくないからなのかもしれない。

だって俺は今、ウルに対して怒っていたのだ。

勿論、それには理由がある。
ウルはお城を出るとき、確か俺に「今日はデートに行こう」とウィンクをしながら言ったのだ。
だから俺も少し浮かれ気分で出かけたというのに、まさかこんなふうに放置されるとは思わなかった訳で……楽しみにしてた俺の気持ちを少しでも返してほしい。

「ねぇ、デオ」

そして記憶を無くす前の事はわからないが、今の俺にはこれが初めてのデートだったのだ。
だからこそ服装にも気合を入れてきたつもりだったが……まさかそれが似合ってなかったのだろうか?

「……デオ?」

今日の俺は少しダボっとした服を着ている。
少しサイズが大きいせいか袖が長い為、手は殆ど見えていない。
それが気になった俺は、服を持ってきたダンに長すぎではないかと聞いてみたのだが、これが今の流行りだからと押し切られてしまったのだ。
しかしどう見ても、この格好は20代半ばの俺には可愛いすぎるような……?

とりあえずウルから見て変じゃなければいいと渋々着てきたというのに、当のウルは俺の服について何も言ってくれなかったのだ。
そんな事を考えながら不貞腐れていたせいで俺は、先程からずっとウルに名前を呼ばれている事に全く気付いていなかった。

「デオ、デ~オ……!ぼーっとして、どうしたのかな?」
「…………へ?」

気がつけば目の前にウルの整った顔があった。
驚いた俺は、声が裏返ってしまう。

「う、ウル!?」
「くくくっ……俺のカッコいい顔に驚かなくてもいいのに~」
「ち、違う。二人の話を聞かないように少し考え事をしていただけだ……」

うぅっ……何故だ。ウルに声をかけられただけなのに凄く嬉しく思うなんて。
そんな事で簡単に怒りが収まってしまった事が恥ずかしくて、俺はつい顔を逸らしてしまう。

「考え事をするぐらいなら、真面目でかっこいい俺の姿を見ていて欲しかったんだけどね~。それに今の話、デオになら聞かれてもよかったんだけど?」
「何を言ってるんだ。無関係な俺が聞いていい話ではない筈だ」

断固として拒否する俺の姿に、ウルと顔を見合わせたサースは微笑みながら俺に言ったのだ。

「今話をしていた事は、デオルライド様にも聞いて欲しいと思っていたので大丈夫ですよ」
「ほら、サースもこう言ってるからさ~」
「だが……」

いや、これはもしかすると俺がいるせいで話が進まないから、遠回しに席を外して欲しいという事ではないか……?
そう思った俺は空気を読んで立ち上がろうとしたのだが、それよりも早くウルがとんでもない事を言い出したのだ。

「だって今俺達が話をしてるのは、新しくこの店の名前を『デオルライド』にしようかって、そういう話だからね?」
「で、デオルライド……?」

───って、俺の名前!?

「何度聞いても、素晴らしい名前ですね」
「サースもそう思うだろう?そんな訳で、二人の意見が一致したからさ、あとはデオに名前の使用許可を貰いたくてね~」
「ま、待ってくれ!本当に俺の名前なのか?」
「そうだよ。ほら、よくオーナーの愛する人の名前を店の名前にしたりとかさ。俺、そういうのに憧れてるんだよね~」
「あ、愛する人!?いや、でも俺は一度国から追われた身だ……そんな人物の名前を店名にするのはよくないと思わないのか?」

……ウルの大事な店に、罪人である俺の名前なんて相応しい訳がない。
そう思ってウルを睨みつけていると、正面で俺達のやりとりを見ていたサースが優しく俺を諭すように言ったのだ。

「いいえ、デオルライド様が気にされる事は何もありません。この町ではデオルライド様の評判は良いのですよ?なにせ、迫り来るドラゴンを追い払った英雄として、とても有名なのですから」
「英雄だって!?だがそれは、俺ではなくウルの事だ……」
「確かにもう一人、黒髪の男がいたと言われておりますが、その人物は名乗ることはありませんでしたからね。どちらかと言えば、民に顔を知られているデオルライド様の噂が広まったのでしょう」

確かに俺はあの時、竜と戦いはしたが攻撃を防ぐのが精一杯で数体しか倒せていない。
それなのに英雄などと大層な名で呼ばれているなんて、俺は恥ずかしくて仕方がなかった。

「デオは知らないかもしれないけど、デオの指名手配を早めに解除できたのは多くの人々が嘆願書を国に出したからなんだよ」
「っ!?……そう、だったのか。それなのに俺は町の人達へ感謝もせず、今までのうのうと過ごしていたわけか。俺はなんて恥知らずなんだ……」
「ううん、そんな事ないんじゃないかな~。町の人が感謝してたのは竜の事だけじゃないと思うよ。だってデオは昔からずっと、この町の人達を助けていたんだろ?だからこれは、今までのお返しだって皆思っている筈だよ」
「本当に、そうだろうか……?」
「そんなの町の人に聞けばすぐにわかる事だよ……だから、デオが英雄って話が嘘じゃないって信じてくれる?」

……俺は、そんなふうに思われていい存在ではないとわかっている。しかしここで俺が信じなくては、俺を助けてくれた多くの人々の思いを踏み躙る事になるだろう。
それならばと、俺はウルを見てコクリと頷いた。

「わかってくれたなら、よかった~。それにさ、町の人達に好かれている英雄の名前から付けたアクセサリー屋は、絶対に流行ると思うんだ。しかも、本人がこの店の常連だって言えば宣伝効果にもなるしね~」
「そうか……俺の名が少しでもウルの助けになるのなら、いくら使ってくれても構わない」

その返事に二人は凄く嬉しそうに顔を見合わせていた。
そしてサースはすぐ俺に向けて頭を下げたのだ。

「デオルライド様、ありがとうございます!」
「ありがとう、デオ。店の名を愛する人の名前にできるなんて、俺は幸せ者だよ~」
「そんな事でウルが幸せになれるなら、俺の名前なんていくらでも使うといい」

堂々と言ったのはいいが、よく考えたら『ウルの愛する人』として俺の名が刻まれるのは恥ずかしい気がして、俺は少しずつ赤くなる顔を隠そうと俯いてしまった。
ウルはそんな俺の頭を撫でながら、今は話しかけて欲しくない俺の気持ちを読みとってくれたのか、サースと話しはじめたのだ。

「そういえばさ、今の名前って何なんだっけ?」
「『サースアクセサリー工房』ですよ。シンプルなのが一番、というのは嘘で本当は名前をつけるのが面倒だっただけです」
「面倒って……でも、それに比べたら今の方が断然良くなったね。看板には大きく『デオルライド』とつけて、その上に小さくアクセサリーショップ&付与工房とつけるのはどうかな?」
「とてもいいですね。それでは、看板については私が発注しておきます。とりあえず今日決めるところはこのぐらいにしておきましょう。実はもうすぐお客様との予約の時間がありまして……。私はこの部屋を離れますが、マスターは部屋をお好きに使って頂いてかまいません。出るときも私への挨拶は結構ですので……どうぞ好きなだけここでお過ごしくださいね」

そう言ってサースは部屋を後にした。
それにしても、あの少年の姿で今まで通り接客をしている事に驚いてしまう。
周りのスタッフは何も言わなかったのだろうか……気になるけど俺が聞くのも変だろう。
そう思いながらぼーっと扉を見つめていると、突然ウルにグイッと引き寄せられたのがわかった。

「ちょっ、ウル!?」

気がつくと俺はウルの膝の上に乗っていた。
見下ろしたウルはとても嬉しそうにニコリと笑い、俺の耳元に唇を寄せると何故か小声で言ったのだ。

「───デオ、ようやく二人きりになれたね」

そのくすぐったい声にここでした事を鮮明に思い出してしまった俺は、顔だけでなく身体中が熱くなっていくのがわかったのだ。
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