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二章までの閑話
74、記憶(ガリア視点)
しおりを挟むガリア視点です。
逃げたすぐの話…ガリアの理由が少し見れます。
ー ー ー ー ー
「はぁ、はぁ……。ここまで、何とか移動できたか……」
デオと誓約した事と転移のせいで、俺の魔力はすでに空っぽでもう動けなかった。
だけどなんとかこの屋敷まで戻って来れた。
ここは、すでに廃墟となった俺の故郷だった。
もう誰も住んでいないそこに、俺の本拠地はある。
「お帰りなさいませ旦那様……」
「セルロウか、いつも世話をかけるな」
帰ってきた俺の前に、ヌッと現れたのは子供の頃から俺の執事をしてくれている白髪混じりの男、セルロウだ。
「いいえ、お世話など……私の我儘に付き合って下さっているのは旦那様でございます。なにより旦那様が此処にいてくれる限り、あなたが私の旦那様でございますから……」
「俺は憎むべき男の息子だというのにな」
「それは……あなた様には関係ありませんから」
そういいながら、セルロウは俺に魔力を分けてくれる。
セルロウは昔腕のいい魔法師だったため、そんな事が簡単にできるのだ。
「もう大丈夫だ。今からすぐに動く」
「私めは何を?」
「魔法陣の準備と、後は新しい部屋を用意しておいてくれないか?」
「……作用ですか。また新しい玩具を?」
「そんな事、知らなくていい」
「失言でした。すぐに準備致します」
そう言って去っていくセルロウを見送り、俺も自分の部屋へと移動する。
歩きながらセルロウの言葉を思い出す。
新しい玩具か……。
それは俺が誓約した者達に使っていた言葉だった。
俺は今までに5人と誓約してきたが、全員ただの人間だったためすでにこの世にはいない。
その中には俺が殺してしまった者や、先に死んでしまった者……その男女比はバラバラだった。
そして、彼らの死体は今もこの屋敷の地下に眠っている。
俺が、いつでも彼らを愛でられるように。
だけど、デオは違う。彼は玩具なんかじゃない。
何故なら彼は、俺が探し求め恋焦がれていた人物で間違いなかったのだから……。
俺は昔、彼がまだ子供の頃に一度だけ会った事がある。
そうあれは俺が誓約した人に裏切られて殺されかけ、返り討ちにした後のことだった。
その日、俺は致命傷を負った体を無理矢理引きずっていた。
5人も誓約していれば殺されそうになることもある。そう割り切って体を休めるための場所を探していたところだった。
「ぐ……流石に今回は。俺でも、だめかもしれないな……」
誓約する程愛し合っているつもりだったのに、その思いは俺の一方通行だった。
それも相手からは憎まれていたのか、まさか不意打ちをくらうなんて思わなかった。
いつもそうだ。
俺が愛した人は誰も俺を愛してはくれない……。
だけど夢の中だけは皆俺を愛してくれるのに、何故現実は上手く行かないのだろう。
そう思いながら、もう駄目かと壁に手をついた。
もしかするとこのまま夢の世界に旅立つ方が、俺は幸せなのかもしれない。
そう思って目を閉じたのに、そんな俺の頬を小さな手が叩いた。
「……大丈夫ですか?」
ゆっくり目を開けると10歳ぐらいの少年が目の前に立っていた。
今は夕方だから、その金色に輝く髪の毛が朱色に染まって綺麗だと思った。
着ている服はどう見ても貴族の子供に見えるのだけど、何故こんな子がこの場所に?
ここはブルーパール国、王都外堀にある地下水路の入口付近だと言うのに……。
「……君は、誰かな?」
「お、俺は怪しい者では……えっと、帰るための抜け道を通ろうとしたら、貴方に出会ってしまっただけなのです」
「……な、成る程ね」
どうやらこの地下通路は、何処かのお屋敷へと続いている抜け道なのだろう。
それを知ったところでどうしようもないと、俺はその少年の顔を見るために体の向きを変える。
「……くっ……」
「……っえ?あ、貴方……すごい怪我してませんか!?」
「こ、これぐらい、かすり傷さ……」
「動いたらダメです!俺が治せるだけやってみますから……」
そういうと彼はすぐさま俺の手を両手でギュッと握り、すぐに回復魔法を行使したのだ。
その瞬間、俺は今まで感じたことのない温もりに包まれていた。
よくわからないが、誰かに優しくされるというのはこういう事なのかもしれないな……。
それは裏切られた怒りや悲しみ、俺のそんな感情も全て洗い流すようなとても心地よいものだった。
「お、終わりました。どうですか?」
そう言われて俺は体を確認する。
完全に治った訳ではないが、致命傷になりそうな傷はほぼ完治していた。
「もう大丈夫だ、ありがとう」
「そ、そうですか!よかった……」
これならもう死ぬ可能性はないだろう。
それにしても───。
「その歳で、すでにそれだけの魔法が使えるなんて凄いね?」
「いや、そんなことはないです……これでもまだ覚えたばかりで。俺は才能があるらしいので早く父の役に立ちたくて……。って俺の話なんかよりも、貴方の方が気になります。町では喧嘩は絶えないと聞きますが、これ程とは……」
「いや、俺のはそういうのとはちょっと違うから」
「も、もしかして悪い人でしたか??」
しまった!と言う顔をするその少年が面白くて、ずっと見ていられそうだ。
確かに俺は悪人かもしれないけど、でも今それを言う訳にはいかないだろう。
「そんな事ないよ。この怪我も俺の恋人に刺されたのが原因なだけだから……」
「……へ?恋人とは好き合ってる人同士がなるのではないのですか?」
「君にはまだ難しいかもしれないけど、大人には色々あるんだよ……って、どうして俺の頭を撫でるのかな?」
気がつけば、少年の小さな手が俺の頭をなでていた。
「貴方がとても寂しそうに見えたから……迷惑でしたか?」
「寂しそうだって……この俺が?」
「そうですけど、ってそうだ!寂しくなったときはこうして貰うと、少しは紛れるかと……」
そういうと、少年は小さな体で俺を抱きしめようと手を伸ばした。
俺は一瞬躊躇したけど、その小さな体を受け止める。
本当はまだ残っている傷口が痛むので触れられたくなかった。だけどその小さな体を俺は拒む事はできなさそうだった。
そして抱きしめられている俺は、今まで感じたことのないその温もりがとても心地よくて……きっとそれは俺にとって初めての感覚だった。
今まで俺から抱きしめた事はあったけど、よく考えたら抱きしめ返された事などなかったのだ。
「ねえ、君?大きくなったら俺の物にならないだろうか?」
「……はい?」
「そうだ!また偶然出会えるかなんてわからない。だから俺は君へ勝手に契約を贈るよ……」
「な、何言って?っ痛!!」
俺は彼の瞳を覗き込み、瞳の裏に契約の刻印を念写した。
それは一方的な行為だった。
だけど俺には確信があった。この少年が大人になって再び出会えたのなら、俺は彼に恋をするだろうと……。
「大丈夫、時期に痛みも何もかもなくなって、俺の事も忘れるから……次に出会ったとき、その契約は発動する」
その契約内容は───。
『偶然出会えたとき、俺以外との誓約を阻止する』
と言う、運命力を絡ませた強い束縛だった。
だからデオが他の人と誓約出来なくなったのは、俺との誓約のせいだけではない。
この契約が発動してしまった以上、俺を殺してもその契約がデオから取り除かれない限り、二度と他の相手と誓約する事はできない……。
その後すぐに別れた俺達は、それから20年近く出会う事はなかった。
何故なら契約により、俺も彼の記憶をずっと失っていたのだから。
偶然俺が思い出したのは、デオが酔い潰れて眠ってしまい頭に触れたときだった。
その瞬間、俺の手にはあのとき感じた温もりと同じものを感じとり、そのときから俺はデオを連れ帰るつもりだった。
デオが覚えていないのは子供の頃の記憶だからかもしれないが、いつか思い出してくれるだろう。
そう、俺達は再び出会う事が出来たのだ。
それなのに、デオはよりにもよってあの男に恋をしてしまったなんて、絶対に許せない……!
あの男は自分だけ全てを忘れ去り、全てを奪ったくせにまだ奪い足りないというのか。
「……ウルランディス!」
俺は奴の本当の名前を呪い殺すように呟くと、自分の部屋へと入るために乱暴に扉を開く。
そしてすぐに魔術の準備を開始した。
「デオを手に入れられなかったのは、失敗だったな……だが俺は夢魔だ。誓約している以上相手にいつだって夢を見せてあげる事が出来る」
だから、すぐに会いに行くから俺を待っていてくれよ……デオ。
そして俺は薄紫に光り始めた魔方陣に、俺の血を使い愛しいその人の名前を刻んだ。
早く俺の物になるようにと願って───。
ー ー ー ー ー
お知らせ
一章はこれで終わりです。
二人が結ばれて良かった!もう完でもいいかもしれない。
でもここからはキスが解禁されたのでバリエーションを増やしたいところですね。何のとは言いませんけど……。
二章の超簡略なあらすじ
デオとウルはようやく結ばれたというのに、ガリアに妨害されたり、ダンが来たり、オークションに潜入したりと、まだまだ不安要素がいっぱい。
二人は本当に誓約する事ができるのか?
次は二章の前に人物紹介を挟みますので飛ばしても大丈夫です!
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