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一章 本命じゃないくせに嫉妬はやめて!

33、噂話

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ウルが何も考えずに先に入っていったのを見て、俺は一度深呼吸してその扉を開いた。
ギルドに足を踏み入れて、とにかく動揺しないように依頼書の貼ってある掲示板に向かう。
そして入ってみると、やはり周りの冒険者の視線が痛い……。
それに何かヒソヒソと言われているようで、声の一部が俺の耳にまで聞こえてきたのだ。

「あいつだよ、噂の……!」
「ああ、ウルさんに体でとり入ったとかいう……、あんな真面目そうな顔してやるね~」

いや、まて俺は体でウルにとり入ってなんかない。
それはウルが流して欲しい噂には無かったはずなのに何故だ……きっと昨日の冒険者が勝手に流したに違いない。
これでは俺が変態に思われるじゃないか……。

「でもそれだけじゃないって言う噂もあるぜ!」
「まじか、どんなだよ?」
「なんでもウルさんが溺愛してて、ギルド内でヤってるとこを見た奴もいるとか!?」
「ええ!?ギルド内で?それはお盛んなことだ……見た奴が羨ましいぜ」

こちらの噂はそのまま流れているみたいだけど、羨ましいの理由がよくわからない。
ただただ、俺が恥ずかしいだけだ。
しかもギルド内でヤってるなんて、やはり変態としか思われないに決まっている……。

「しかも、あいつに手を出そうとした冒険者が、翌日死体になって川に浮いてたなんて噂が……」
「ヒィっ!まじか?いや、ウルさんならそこまでやりそうだけどよー」
「でも、これであいつに手を出すやつは、死にたい奴だけになったな!」
「俺は死にたくないから、絶対にあいつに手は出さないぞ……」

いやまて、何で噂が半殺しから殺した事に変わってるんだ?ウルならやりそうだと言うのはわかるけど……。
でもこの噂のおかげで、俺に手を出すやつは本当にいなくなりそうでホッとしてしまう。

もしかして、ウルはそこまで考えていたのだろうか?
だとしても昨日のあれはやり過ぎだし、何度考えてもおかしい気がする。いやここの人達もだいぶおかしいけど……。
それなのに、男達はさらにおかしな事を言い始めたのだ。

「いや~、ウルさんになら俺も抱かれてみてぇな」
「お前は無理だろ!ガハハハ!!」
「いや、でも神級なんだぞ!それぐらいあいつが羨ましいって話だって!」
「神様みたいなものだからな!俺達もお近づきになりてぇもんだ!ハハハハハ!!」

何なんだここの冒険者、神級になると崇められるようにでもなるのか?俺には全く理解できない。
だから、横で真面目に俺の依頼を選んでくれているウルに、つい小声で話しかけてしまった。

「おい、噂がおかしくなってるけどいいのか?」
「許容の範囲内だよ?」
「範囲内……あれで?」
「でも噂を真実に変えるには、もう少し俺達のアピールが足りないかもしれないね~」
「は?アピールって一体……。っ!?」

突然ウルに腕をグイッと引き寄せられた俺は、気がつけばウルに抱き寄せられそのまま尻を揉まれていた。

「なっ!ウルこんなとこで何やってんだ!?」
「え?だから俺のものアピールをして、皆に見せつけてるんだよ?」
「はぁ!?って、おい何してるんだ……?」
「ほら、もっと見えるようにお尻を皆の方に向けて……と、ガッチリ揉んでるところ見てもらおうね?それに昨日はアレ入れてたから余り揉む事ができなかったし、だから変わりに今いっぱい揉んであげるよ?」

いや、本当に何してるんだ……アピールするためになんでこんな恥ずかしい目に合わないといけないんだ?
俺は恥ずかしくて、顔をウルの胸に押し当ててしまう。
でも突然俺達が、掲示板の前でそんなことをしはじめたため、冒険者達にさらに動揺が走っていた。

「やっぱり噂は本当じゃないか!俺の勝ちだな!」
「くっそー嘘だと思ってたんだけどなぁ~」
「ウルさん、そんなぁ!!」
「流石ですウル様!」

なんて色々聞こえてくる。
ってか、最初のやつ金賭けただろ?俺達でそんなことをするのはやめろ……。
そう思い、いまだにお尻から手を離してくれないウルに文句を言う。

「流石にもう、疑いは晴れただろ?早く手を離してくれよ」
「え?デオのお尻の触り心地がよくて手が離れてくれないな~?」
「な、なに馬鹿みたいな事言っているんだ、早く手を離してくれ!!」
「まあ、とりあえずはこれぐらいでいいかな….でもあと一回は、どこかで……」

なんて不穏な事を言うウルは、ようやく俺の尻からは手を離してくれた。そう、尻からは……。
何故かその手はそのまま俺の腰に回されていて、少し気になってしまう。
しかし早くギルドを離れたい俺は、これぐらいならさっきよりも恥ずかしくないからと、我慢する事にした。

「それで、ウルは真面目に選んでくれてたみたいだけど、何か良い依頼は見つかったのか?」
「ああ、そういえば……」

そう言うと、ウルは2枚の紙をとりだした。
そのことに本当に真面目に選んでいたのかと、少し驚いてしまう。

「はいこれ、昨日行ったアポロスト山の麓にある森で採取できる薬草と、その付近にいる弱い魔物の討伐依頼。これぐらい簡単なのを二つ同時にやる方が効率がいいと思うよ?」
「ウルが真面目に選ぶなんて思わなかったな……」
「一応冒険者だからね。依頼選びは間違えると大変な目に会う事もあるんだから、デオは変なの選ばないようにね?だから暫くはこんな感じのを選んでいくといいと思うよ」
「……わかった。ありがとう」

こうやってウルが俺の事を心配して言ってるのだと思うと、少し嬉しくなってしまう。
でも、今は流されたらだめだ。
そう思い俺は受付のギルド職員さんのところにその紙を持っていったのだった。
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